S&P500月例レポート(21年2月配信)<後編>
各国中央銀行の動き
○2020年12月15~16日開催分のFOMC議事録によれば、FOMCは「経済の課題が増している」と判断し、資産購入の継続で合意しました。
○地区連銀経済報告(ベージュブック)は、経済の緩やかな伸びを示しました。ウイルス感染の拡大により雇用の伸びが鈍化する一方で、ワクチン接種の開始が下半期の経済を後押しする可能性があることが示唆されました。
○FRBが政策会合を開催し、予想通り政策金利を据え置き(全会一致)、資産購入(月額1200億ドル)の継続を決定し、経済動向はウイルス感染とワクチン接種の状況に結びついているとの見方を示しました。パウエル議長は記者会見で、インフレは短期的には大きな懸念事項ではないこと、ならびに経済を支援する必要があることを指摘しました。
企業業績
○2020年第4四半期の決算シーズンが始まり、S&P 500指数構成銘柄の中の184社が決算発表を終え、このうち81.0%に当たる149銘柄で利益が予想を上回り、予想を下回った銘柄を見つける方が難しいほどでした。売上高に関しては、182銘柄のうち76.9%に相当する140銘柄が予想を上回りました。
⇒2020年第4四半期の利益予想は2020年12月末時点から3.1%引き上げられ(2019年末からは19.3%引き下げられています)、前期比で1.9%の減益、前年同期比では5.1%の減益となる見通しです。
⇒その結果、2020年の予想EPSは22.8%の減益となり、それに基づく足元の予想株価収益率(PER)は30.6倍となっています。
⇒2021年については、特に下半期で企業利益が過去最高を更新する見通しで、2020年比で39.6%増益(2019年比で7.8%増益)が見込まれており、2021年の予想PERは21.9倍となっています。
→出始めた2022年見通しに基づく予想PERは19倍となっています。
個別銘柄
○航空機大手のBoeing(BA)は、737 MAXの調査に関連して、米規制当局に25億ドルを支払うことで合意しました。
○半導体大手Intel(INTC)は、ロバート・スワンCEO(2年間在職)が退任し、後任にパトリック・ゲルシンガー氏(以前はインテルに30年間在籍)が就任すると発表しました。ゲルシンガー氏は、2012年からソフトウエアメーカーのVMware(VMW)を率いています。
○自動車メーカーのFord(F)は、ブラジルの生産拠点から撤退し、同国の3つの工場を閉鎖して5000人を解雇すると発表しました。
○自動車メーカーのGeneral Motors(GM)は、2035年までにガソリン車部門を段階的に廃止し、電気自動車に移行する計画を発表しました。
○報道によると、非上場のオフィスリース会社WeWorkは、上場を目指してSPAC(特別目的買収会社)と交渉中です(同社は2019年にIPOを試みました)。
○動画ストリーミング配信企業のNetflix(NFLX)は、有料会員数が予想を上回る2億人となったと発表しました(2017年に1億人に到達)。同社は、2021年以降キャッシュフローがプラスになり、債券市場での資金調達の必要性はなくなると予想しています。また、2011年以降行っていなかった自社株買いの再開を検討していることを明らかにしました。
○S&Pダウ・ジョーンズ・インデックスはS&P中型株400指数構成銘柄である半導体メーカーのEnphase Energy(ENPH)をS&P 500指数に採用し、LVMH Moet(LVMHF)に買収された宝飾品大手のTiffany & Co(TIF)を同指数から除外しました。また、S&P中型株400指数銘柄であるTrimble Inc.(TRMB)をS&P 500指数に採用し、ConocoPhillips(COP)に買収されたConcho Resources(CXO)を同指数から除外しました。
注目点
○サウジアラビアは原油生産を日量100万バレル減産すると発表し、これを受けて原油価格は1バレルあたり52ドルを超えました(2020年2月以来)。
○ニューヨーク証券取引所は当初、(国家安全保障に関する)大統領令を理由に、中国の電気通信3銘柄の上場を廃止すると述べました。その後、同証券取引所は方針を撤回し上場の継続を認めましたが、(財務省の追加発表の後に)再度立場を逆転させ、上場を廃止すると発表しました。
⇒その後、複数の中国企業(チャイナモバイル、チャイナユニコム、チャイナテレコム)がニューヨーク証券取引所に対して上場廃止の取り消しを要求しました。
利回り、金利、コモディティ
○米国10年国債利回りは12月末の0.92%から1.07%に上昇して1月を終えました(2019年末は1.92%、2018年末は2.69%、2017年末は2.41%)。30年国債利回りは12月末の1.65%から1.84%に上昇して取引を終えました(同2.30%、同3.02%、同3.05%)。
○英ポンドは12月末の1ポンド=1.3673ドルから1.3695ドルに上昇し(同1.3253ドル、同1.2754ドル、同1.3498ドル)、ユーロは12月末の1ユーロ=1.2182ドルから1.2139ドルに下落しました(同1.1172ドル、同1.1461ドル、同1.2000ドル)。円は12月末の1ドル=103.24円から104.69円に下落し(同108.76円、同109.58円、同112.68円)、人民元は12月末の1ドル=6.5330元から6.4277元に上昇しました(同6.9633元、同6.8785元、同6.5030元)。
○原油価格は12月末の1バレル=48.42ドルから52.14ドルに上昇して月を終えました(同61.21ドル、同45.81ドル、同60.09ドル)。米国のガソリン価格(EIAによる全等級)は、12月末の1ガロン=2.330ドルから2.478ドルに上昇して月末を迎えました(同2.658ドル、同2.358ドル、同2.589ドル)。
○金価格は12月末の1トロイオンス=1901.60ドルから下落して1849.50ドルで月の取引を終えました(同1520.00ドル、同1284.70ドル、同1305.00ドル)。
○VIX恐怖指数は12月末の22.75から33.07に上昇して月を終えました。月中の最高は37.51、最低は21.09でした(同13.78、同16.12、同11.05)。
⇒2020年の最高は85.47、最低は11.75でした。
世界の株式市場
○新規感染者数の急増やロックダウン(都市封鎖)の拡大にもかかわらず、新型コロナウイルスのウクチン接種が(ペースは予想よりゆっくりであるものの)開始されたことを背景に、1月の世界の株式市場は、前月の大幅上昇の流れを引き継いで上昇して始まりました。しかし、月末には勢いが弱まり、不規則な取引や一部での利益確定の動きを背景に上昇分が帳消しとなりました。1月は50市場中21市場が上昇しました(12月は49市場、11月は50市場全てが揃って上昇)。米国市場は先月に続きグローバル市場に対してアンダーパフォームとなりましたが、長期的には大幅にアウトパフォームしています。
○S&Pグローバル総合指数は12月に4.86%上昇した後(米国の4.35%の上昇を除くと5.49%の上昇)、1月には0.21%下落しました(米国の0.46%の下落を除くと0.10%の上昇)。11月は12.63%の大幅上昇でした(米国の12.03%の上昇を除くと13.39%の上昇)。過去3ヵ月間では17.85%上昇(米国の16.37%の上昇を除くと19.72%の上昇)、過去1年間では世界の株式市場は15.74%上昇し、米国の18.42%上昇を除くと12.57%の上昇となっています。より長期では、米国のパフォーマンスが突出していました。過去2年間では、グローバル市場は30.66%上昇しましたが、米国の39.87%上昇を除くと20.65%の上昇でした。過去3年間ではグローバル市場は18.08%上昇し、米国の34.07%上昇を除くと2.34%の上昇でした。
⇒2020年11月3日の大統領選挙以降では、グローバル市場は14.28%上昇しましたが、米国の12.77%上昇を除くと16.19%の上昇でした。
○2021年1月のまとめ
⇒S&Pグローバル総合指数の時価総額は2010億ドル減少しました(12月は3兆3750億ドル増)。米国以外の市場の時価総額は230億ドル(同1兆6690億ドル増)、米国市場は1780億ドル減少しました(同1兆7050億ドル増)。
⇒新興国市場は1月に2.83%上昇し(12月は5.99%上昇)、過去3ヵ月間では18.57%上昇、過去1年間では21.13%上昇しました。
⇒先進国市場は1月に0.62%下落し(12月は4.71%上昇)、米国を除くと0.88%下落(同5.31%上昇)しました。過去3ヵ月間では17.76%上昇(同15.24%上昇)、米国を除くと20.16%上昇(同16.81%上昇)、過去1年間では15.04%上昇、米国を除くと9.78%上昇となりました。
○1月は11セクター中5セクターが上昇し、セクター間のばらつきは拡大しました(12月は11セクター全てが上昇)。パフォーマンスが最高のセクター(エネルギー、1.89%上昇)と最低のセクター(生活必需品、3.28%下落)の騰落率の差は5.17%と(過去1年間の平均は11.62%)、12月の4.96%(11月は19.14%)から拡大しました。
○新興国市場は1月に2.83%上昇しました。12月は5.99%の上昇、11月は8.79%の上昇でした。過去3ヵ月間では18.57%上昇、過去1年間では21.13%の上昇となりました。過去2年間では25.22%上昇、過去3年間では4.51%上昇しています。
⇒1月は25市場中14市場が上昇し、12月の24市場、11月の25市場全てを下回りました。アラブ首長国連邦のパフォーマンスが最も良好で11.68%上昇しました。過去3ヵ月間では24.54%上昇しましたが、過去1年間では0.23%下落しています。次いでパフォーマンスが良かったのは中国で1月は7.22%上昇し、過去3ヵ月間では14.18%上昇、過去1年間では43.99%上昇となりました。3番目にパフォーマンスが良かったのがエジプトで、1月は7.03%上昇、過去3ヵ月間では7.81%上昇したものの、過去1年間では18.04%下落しています。
パフォーマンスが最低だったのはコロンビアで11.13%下落し、過去3ヵ月間では29.34%上昇、過去1年間では22.03%の下落となりました。次いでパフォーマンスが振るわなかったのはブラジルで8.08%下落し、過去3ヵ月間では28.53%上昇、過去1年間では20.00%下落しています。3番目はギリシャで7.37%下落し、過去3ヵ月間では38.65%上昇、過去1年間では14.49%の下落となりました。
○先進国市場は11月の13.16%上昇、12月の4.71%上昇の後、1月は全体で0.62%下落しました。米国を除くと、0.88%の下落(12月は5.31%上昇、11月は15.11%上昇)でした。先進国市場は過去3ヵ月間では17.76%の上昇(米国を除くと20.16%上昇)、過去1年間では15.04%の上昇(同9.78%上昇)となりました。過去2年間では31.22%上昇(同18.89%上昇)、過去3年間では19.68%の上昇(同1.27%上昇)でした。
⇒1月は25市場中7市場が上昇し、25市場全てが上昇した11月と12月を下回りました。パフォーマンスが最高となったのはオーストリアで4.79%上昇し、過去3ヵ月間では42.85%上昇、過去1年間では3.36%の上昇となりました。2番目は香港で3.42%上昇し、過去3ヵ月間では20.78%上昇、過去1年間では13.43%上昇しています。3番目はシンガポールで3.03%上昇し、過去3ヵ月間では25.32%上昇、過去1年間では11.46%上昇となりました。
パフォーマンスが最低だったのはルクセンブルグで5.71%下落し、過去3ヵ月間では29.51%上昇、過去1年間では16.32%上昇しています。これに続いたのがスペインで4.41%下落し、過去3ヵ月間では24.97%上昇、過去1年間では8.95%の下落となりました。3番目はデンマークで3.99%下落し、過去3ヵ月間では13.04%上昇、過去1年間では33.42%上昇しています。
→注意すべき点として、英国は0.7%の下落(過去3ヵ月間では23.19%上昇、過去1年間では8.47%下落)、カナダは0.88%の下落(同16.61%上昇、同4.55%上昇)、日本は1.05%の下落(同14.55%の上昇、同11.26%の上昇)、ドイツは1.18%の下落(同23.74%上昇、同12.75%上昇)でした。
インデックス・レビュー
S&P 500指数
S&P 500指数は、1月に1.11%下落して3714.24で月を終えました(配当込みのトータルリターンはマイナス1.01%)。12月は3756.07で月を終え、3.71%の上昇(同プラス3.84%)、11月は10.75%上昇して3621.63で月を終えました(同プラス10.95%)。過去3ヵ月間では13.59%上昇(同プラス14.05%)、過去1年間では15.15%上昇(同プラス17.25%)、コロナ危機前の2月19日の終値での高値からは9.69%上昇しました(同プラス11.54%)。
ダウ平均は1月に2.04%下落して2万9982.62ドルで月を終えました(配当込みのトータルリターンはマイナス1.95%)。12月は3万0606.48ドル(終値での最高値)で月を終え、3.27%の上昇でした(同プラス3.41%)。過去3ヵ月間では13.14%上昇(同プラス13.70%)、過去1年間では6.11%上昇となりました(同プラス8.54%)。
S&P 500指数の1月の日中ボラティリティ(日中の値幅を安値で除して算出)は12月の0.83%から1.36%に上昇しました。2020年は1.73%と2019年の0.85%から上昇し、2018年は1.21%、2017年は0.51%(1962年以来の最低)でした。出来高は前月比14%減少した12月から14%増加し(営業日数調整後、最終週の活発な取引が追い風となる)、前年同月比では35%増加し、過去1年間でも前年比43%増加しました。
1月の前日比で1%以上変動した日数は19営業日中5日となりました(上昇が2日、下落が3日。2%以上下落した営業日が1日)。2020年は109日(上昇が64日、下落が45日)、2019年は37日(上昇が22日、下落が15日)でした。1月は19営業日中10日で日中の変動率が1%以上となり(12月は22営業日中4日)、3%以上変動した営業日はありませんでした(12月もゼロ)。2020年は158日(11月末時点は154日)で日中の変動率が1%以上、34日(同34日)で3%以上となりました。2019年はそれぞれ1%以上の変動が73日と3%以上の変動が1日、2018年はそれぞれ228日(253営業日中)と75日でした。
セクターのパフォーマンスは最終週まで好調が続き、S&P 500指数は1月25日に終値での最高値を更新しました。しかし、同指数はその後下落に転じ、上昇したセクター数は11セクター中4セクターと、11セクター全てが上昇した過去2ヵ月を下回りました。エネルギーが3.63%上昇して騰落率首位となりました。同セクターは過去3ヵ月間では36.76%上昇したものの、過去1年間では26.87%の下落にとどまっています。ヘルスケアのパフォーマンスも良好となり、1月に1.28%上昇し、過去3ヵ月間では13.22%上昇、過去1年間では16.20%の上昇となりました。不動産と一般消費財もそれぞれ0.47%と0.39%の小幅上昇となり(下落よりはましです)、過去3ヵ月間ではそれぞれ8.29%と11.57%の上昇、過去1年間ではそれぞれ6.01%の下落と31.82%の上昇となりました。
騰落率最下位となったのは生活必需品で5.32%下落し、過去3ヵ月間では3.10%の上昇、過去1年間では1.70%上昇しています。情報技術は1月に0.97%下落し、過去3ヵ月間では16.44%の上昇、過去1年間では35.56%の上昇となりました。金融は1月に1.93%下落し、過去3ヵ月間では21.43%の上昇、過去1年間では3.24%の下落となりました。
1月は相場の上昇の裾野が縮小し、値下がり銘柄数が値上がり銘柄数を上回りました。1月の値上がり銘柄数は203銘柄(平均上昇率は6.05%)と、2020年12月の367銘柄(同6.52%)、11月の467銘柄(同15.87%)から減少しました。10%以上上昇した銘柄数も39銘柄(同16.14%)と、12月の78銘柄(同14.61%)、11月の297銘柄(同21.78%)から減少し、5銘柄(12月は2銘柄、11月は90銘柄)が25%以上上昇しました。
一方、値下がり銘柄数は302銘柄(平均下落率は5.29%)と、12月の138銘柄(同2.69%)、11月の38銘柄(同3.84%)から増加しました。10%以上下落した銘柄数も27銘柄(同12.32%)と、12月のゼロ、11月の3銘柄(同11.22%)から増加しましたが、25%以上下落した銘柄は12月に続きありませんでした。指数構成銘柄が25%以上下落したのは2020年9月(2銘柄)が最後です。
過去3ヵ月間では、値上がり銘柄数は441銘柄(平均上昇率は21.89%)と、12月末時点の434銘柄(同22.01%)、11月末時点の380銘柄(同15.64%)から増加した一方、値下がり銘柄数は64銘柄(平均下落率は3.98%)と、12月末時点の71銘柄(同5.00%)、11月の123銘柄(同6.26%)から減少しました。
[執筆者]
ハワード・シルバーブラット
S&P ダウ・ジョーンズ・インデックス
シニア・インデックス・アナリスト
※このレポートは、英文原本から参照用の目的でS&Pダウ・ジョーンズ・インデックス(SPDJI)が作成したものです。SPDJIは、翻訳が正確かつ完全であるよう努めましたが、その正確性ないし完全性につきこれを保証し表明するものではありません。英文原本についてはサイトをご参照ください。
https://www.spglobal.com/spdji/en/documents/performance-reports/sp-global-equity-indices-monthly-update.pdf?force_download=true
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