【不適切な会計処理】
例年通り、企業評価の“眼”を更新することを目的として、『上場企業の不適切な会計処理』のリリースをまとめたレポートをお送りします。
【25件のリリース】
“今年”※は25件の「不適切な会計のリリース」があった。
(ちなみに、2018年24件、2017年21件、2016年21件、2015年21件、2014年14件、2013年20件、2012年29社、2011年17件、2010年15件だった。)
※ 集計及び資料作成時期の都合上、2018年10月~2019年9月を“今年”と表現させて頂いております。何卒ご了承ください。
【不適切な会計に関する調査報告書 -概論-】
※昨年とほぼ同じ序論です。すでに、ご存知の方は読み飛ばしてください。
報告書には、2種類ある。
(1)内部調査委員会報告書(社内調査委員会報告書)
社内の監査役や顧問弁護士等によって作成された報告書。
→ 身内によって作成された報告書のため、甘い報告書となりがち。
「調査した」という外形を整えることを目的とした報告書に見えるものも多い。
(2)第三者委員会報告書(社外調査委員会報告書)
企業から独立した弁護士や専門家等によって作成された報告書。
日弁連の「企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン」に沿って、作成される。
→ 経営者等のためではなく、すべてのステーク・ホルダーのために作成された報告書のため、内部調査委員会の報告書に比べれば、格段に透明性の高い報告書である。
調査報告書の概要については、下記の資料をご参照ください。
<不適切な会計に関する調査報告書 -概論->
http://alox.jp/dcms_media/other/171204_outline_dressingreport.pdf
<不適切な会計処理に関するリリースをした会社一覧>
<不適切な会計処理 リリース概要一覧表>
http://alox.jp/dcms_media/other/191215_2019dressing.pdf
【不適切な会計処理の型】
粉飾をその手法等に基づき、「売上加工」「利益捻出」「資金流出」「循環」「混在」の5つに分類した。
1「売上加工」とは
→架空売上、押し込み販売、売上の前倒しなど、売上を増やす行為
2「利益捻出」とは
→売上原価の過小計上や翌期繰延、費用の過小計上や翌期繰越、棚卸資産の過大計上など、利益を増やす行為
3「資金流出」とは
→創業者や特定の担当者による商行為の私物化、協力会社との癒着によるキックバック、買収や取引を通じてグループや協力会社への資金援助など、会社から資金を流出させる行為
4「循環」とは
→協力会社を通じて、売上、仕入れ、資金を循環させる行為
(3と4の合わせ技として、社外へ「資金流出」するために、「循環取引」が用いられることは多い。)
5「混在」とは
→売上を増やす行為と利益を増やす行為が混在するケースや、役員や従業員の私利私欲を満たすような個人プレーなどの1~4に分類できない多種多様な行為
【分類別の企業一覧】
<売上加工>
・イメージ情報開発
・富士ソフトサービスビューロ
・LIXILグループ
・ホシザキ
・サクサホールディングス
・シナネンホールディングス
・イオンディライト
・MTG
<利益捻出>
・リズム時計工業
・りらいあコミュニケーションズ
・スペースバリューホールディングス
・日鉄鉱業
・小松ウオール工業
・電気興業
・すてきナイスグループ
・梅の花
<資金流出>
・東邦金属
・東京貴宝
・RS Technologies
・日本ハウスホールディングス
・帝国電機製作所
・藤倉コンポジット
<混在>
・ディー・エル・イー
・くろがね工作所
・日本フォームサービス
【今年の傾向】
今年は、「売上・利益の前倒し」が多かった。
両方ともに、ほぼ自社のみで実行可能な粉飾であり、会社というよりも、子会社、事業部、支店等の責任者単位で数値目標達成の裏技として実行されるケースが多かった。
また、「売上や利益を先食いしているだけ」という考えから、“粉飾をしているという後ろめたさが少ない”のも特徴でもある。
【「粉飾のテクニック」及び「粉飾の動機」実例集】
今年は、下記のようなテクニックを用いて、不正会計が実行された。
〔ディー・エル・イー〕
マザーズ上場前の事業計画策定において、幹事会社の目標数値を満たすために、「裏ワザを考えました」とのコメントと共に、制作の外注比率を削減し、売上16億円、利益3億円という事業計画を作成。この計画を達成するために、売上の前倒し、費用の繰延や付け替えを実施。
〔東京貴宝〕
社長が管理する在庫は、コード番号「915」で管理。
通称「915在庫」、「社長在庫」等、呼ばれる。
この在庫については、社長が自ら起票して、自らが管理していた。
東京貴宝→社長管理会社→支援先のルートで金融支援が実施された。
〔日本ハウスホールディングス〕
資金の社外流出方法として、Xが社外の協力者であるYに依頼し、Y関係会社にNH宛の架空の請求書を発行させ、NH(分譲・投資マンション事業部名義の普通預金口座)からY関係会社に当該請求額を振り込ませた。
Yは、振り込まれた金額の一部を現金化し、この現金をXに手渡ししており、Xは、この現金を受領することにより、NH資金の還流を受けている。
〔富士ソフトサービスビューロ〕
受託した業務に対して、同一のオペレーターが複数いることを前提として、過大に請求書を発行していた。
〔日鉄鉱業〕
本来は製造原価や一般管理費として計上されるべき労務費等を建設仮勘定に振り替えて資産計上することによって、建設仮勘定が約8百万米ドル過大計上となり、本来の費用の計上が繰り延べられた。
〔小松ウオール工業〕
AA氏は、大阪支店長及び営業担当者の印鑑を無断で押印し、原価の付替えのためのB社宛の注文書7通(合計950万円分、消費税別)を偽造した上で、同注文書をB社の担当者に手渡した。
〔日本フォームサービス〕
1.
銀行と締結したコミットメントライン契約に紐づく財務制限条項が不適切な会計を実行させる動機となっていた。
取引銀行3行との間で当座貸越契約及びコミットメントライン契約(平成30年9月30日現在における当該契約極度額は1,300,000千円)を締結。
この契約には、財務制限条項が付されている。
(a)各年度の決算期の末日における連結の貸借対照表における純資産の部の金額を前年同期比75パーセント以上に維持すること。
(b)各年度の決算期における連結の損益計算書に示される経常損益を損失とならないようにすること。
(c)各年度の決算期の末日における連結の貸借対照表上の借入依存度を60パーセント以下に維持すること。
2.
取締役会が社内規程に従って運営されておらず、監査役会は開催すらされていないこと、これらの開催回数等について有価証券報告書やホームページに、コーポレート・ガバナンス体制として事実と異なる記載されていた。
〔ホシザキ〕
未成約案件の金額を「売上」として報告する行為は「空売り」と呼ばれていた。
空売りを行う営業担当者は、売上に対する一種の確約を示したことになるので、「男気がある」などと称賛される傾向さえあった。
ただし、空売りとして報告したものであっても、その金額は、営業担当者が達成を確約したものとしてブロック長を通じてエリア営業部責任者まで報告されていた。
そのため、たとえ成約を見込んでいた案件がその後破談となって当該案件による売上がなくなったとしても、営業担当者は、上長らから、「他の案件を探して埋め合わせろ。」などと言われて、報告どおりの売上実績を作ることを厳しく求められ、何としてでも別の契約を取ってきて埋め合わせないといけない状況に追い込まれていた。
【ベストオブ不適切な会計に関する調査報告書】
独断と偏見に基づく、今年の一読に値する報告書は、くろがね工作所である。
報告書としては42ページと短いが、読み応えがある。
<ポイント>
1.初犯ではなく再犯である。
平成21年に発覚した不適切な会計処理につき、大阪証券取引所へ「改善報告書」を提出していた。
上記を踏まえて、取引ごとに一連の証憑類を保存保管する「物件ファイル」が作成された。
しかし、監査部門として新設された売上管理部の人員が十分ではなく、物件ファイルの厳正な管理も進んでおらず、監査法人から提示を求められて作成するケースも多かった。
また、その物件ファイルに保存された注文書等における顧客の印影が、PDFやカラーコピーを利用して偽造されたものもあった。
2.報告書において、監査法人の問題点を指摘
ほとんどの調査報告書において、「監査法人は無罪」という位置づけだが、今回の報告書においては、前任監査法人から不適切な会計のリスクを引き継いだ現監査法人が、内部統制の不完全さを指摘できていなかった点を問題視している。
3.四半期ごとの異常な売上推移
11月決算の企業のため、11月・2月・5月・8月の売上が突出して高かった。
過大に売上を計上するテクニックは下記である。
(1)内談・受注の段階で売上計上(注文書の偽造の可能性あり)。
(2)案件を分割して、一部を先行して売上計上。
(3)顧客の要請で倉庫に出荷するのではなく、くろがね工作所担当者が私的に指定した倉庫に対して出荷した段階で売上を計上。
(4)真実の売上額を超える売上や架空売上を計上。
【総括】
芸能人の逮捕にある通り、薬物は一度手に染めたら辞めるのは難しい。
ただ、粉飾はそれ以上に辞めるのが難しい。
こういう言い方はやや語弊があるが、最初の粉飾は、ほぼバレない。
ある意味では容易にできてしまう。
しかし、その結果、決算書には膿が溜まり、歪む。
粉飾も限界まで来ると、経営者が銀行とのバンクミーティングで粉飾の事実を告白することもある。
一方で、累積した粉飾が経営を圧迫し、倒産に至る企業もあるだろう。
オリンピック後には景気の悪化が見込まれ、倒産が増える可能性は高い。
倒産が増えてから審査の強度を上げるの愚の骨頂であり、対策を講じるなら「今」なのである。
ベストオブ不適切な会計に関する調査報告書
1位:くろがね工作所
<調査報告書>
http://alox.jp/dcms_media/other/181207_7997.pdf
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