【Alox分析】今年の粉飾を把握する〔2017年〕- 資金流出系の隆盛 –

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最新投稿日時:2017/12/18 19:23 - 「【Alox分析】今年の粉飾を把握する〔2017年〕- 資金流出系の隆盛 –」(みんかぶ株式コラム)

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【Alox分析】今年の粉飾を把握する〔2017年〕- 資金流出系の隆盛 –

著者:塙 大輔
投稿:2017/12/18 19:23

【不適切な会計処理】
例年通り、企業評価の“眼”を更新することを目的として、『上場企業の不適切な会計処理』のリリースをまとめたレポートをお送りします。

【21件のリリース】
“今年”※は21件の「不適切な会計のリリース」があった。
21件という件数は、昨年と同じ件数であり、3年連続で20件を上回った。
(ちなみに、2016年21件、2015年21件、2014年14件、2013年20件、2012年29社、2011年17件、2010年15件だった。)

※ 集計及び執筆時期の都合上、2016年9月~2017年8月を“今年”と表現させて頂いております。ご了承ください。

【不適切な会計に関する調査報告書 -概論-】
報告書には、2種類ある。

(1)内部調査委員会報告書(社内調査委員会報告書)
社内の監査役や顧問弁護士等によって作成された報告書。
→ 身内によって作成された報告書のため、甘い報告書となりがち。
「調査した」という外形を整えることを目的とした報告書に見えるものも多い。

(2)第三者委員会報告書(社外調査委員会報告書)
企業から独立した弁護士や専門家等によって作成された報告書。
日弁連の「企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン」に沿って、作成される。
→ 経営者等のためではなく、すべてのステーク・ホルダーのために作成された報告書のため、内部調査委員会の報告書に比べれば、格段に透明性の高い報告書である。

調査報告書概要については、下記の資料をご参照ください。
<不適切な会計に関する調査報告書 -概論->
http://alox.jp/dcms_media/other/171204_outline_dressingreport.pdf

<不適切な会計処理に関するリリースをした会社一覧>

リリース時期 コード 市場 社名
2016/9/16 7715 東証1 長野計器
2016/10/14 3674 マザーズ オークファン
2016/10/19 4064 東証1 日本カーバイド
2016/10/28 3501 東証1 住江織物
2016/10/31 6493 東証2 日鍛バルブ
2016/11/4 3286 マザーズ トラストホールディングス
2016/11/11 1882 東証1 東亜道路工業
2016/12/9 2743 ジャスダック ピクセルカンパニーズ
2017/1/6 9747 東証1 アサツー ディ・ケイ
2017/5/2 6397 東証2 郷鉄工所
2017/5/10 3156 東証1 UKCホールディングス
2017/5/22 9829 ジャスダック ながの東急百貨店
2017/6/8 6425 ジャスダック ユニバーサルエンターテインメント
2017/6/10 4901 東証1 富士フイルムホールディングス
2017/6/30 6300 東証2 アピックヤマダ
2017/7/14 7719 東証2 東京衡機
2017/7/20 3004 東証1 神栄
2017/7/28 6840 ジャスダック AKIBAホールディングス
2017/8/9 6715 東証1 ナカヨ
2017/8/10 8113 東証1 ユニ・チャーム
2017/8/22 7878 ジャスダック 光・彩

<不適切な会計処理 リリース概要一覧表>
http://alox.jp/dcms_media/other/171130_2017dressing.pdf

【不適切な会計処理の型】
今年は、粉飾をその手法等に基づき、「売上加工」「利益捻出」「混在」「資金流出」「循環」の5つに分類した。

「売上加工」とは
→架空売上、押し込み販売、売上の前倒しなど、売上を増やす行為

「利益捻出」とは
→売上原価の過小計上や翌期繰延、費用の過小計上や翌期繰越、棚卸資産の過大計上など、利益を増やす行為

「資金流出」とは
→創業者や特定の担当者による商行為の私物化、協力会社との癒着によるキックバック、買収や取引を通じてグループや協力会社への資金援助など、会社から資金を流出させる行為

「循環」とは
→協力会社を通じて、売上、仕入れ、資金を循環させる行為

「混在」とは
→売上を増やす行為と利益を増やす行為などの多種多様な行為

【分類別の企業一覧】
<売上加工>
・オークファン
・ピクセルカンパニーズ
・富士フイルムホールディングス
・アピックヤマダ

<利益捻出>
・日鍛バルブ
・トラストホールディングス
・ユニ・チャーム

<資金流出>
・東亜道路工業
・郷鉄工所
・UKCホールディングス
・ながの東急百貨店
・ユニバーサルエンターテインメント
・ナカヨ
・光・彩
・AKIBAホールディングス

<循環>
・神栄

<混在>
・長野計器
・日本カーバイド
・住江織物
・アサツー ディ・ケイ
・東京衡機


【今年の傾向】
21社中8社(38%)が資金流出型の粉飾だった。

とにかく、外部へ資金を流出させるために、貸付金を利用しない手法が駆使された。

また、例年多いのだが、連結子会社の粉飾が、21社中12社(57%)となった。

その内、22社中4社(19%)が中国の連結子会社における粉飾だった。

管理の行き届いた企業が、技術やノウハウを持つ会社を買収した数年後に、粉飾が発見されるケースは非常に多い。

監査の限界と同様に、限られた時間で行われる買収前のデューディリジェンスにも限界があるのは自明の理だ。

【粉飾のテクニック実例集】
今年は、下記のようなテクニックを用いて、不正会計が実行された。

〔長野計器〕
連結子会社において、売上の前倒し処理を行う際に、受注はあるものの出荷段階には至っていない受注案件について出荷処理を行い、出力されるべき出荷伝票と請求書を客先に送らず、実際の出荷時に出荷伝票と担当者がエクセルで作成した請求書を客先に送付していた。

〔日本カーバイド〕
連結子会社において、「見積書」の案件名と「購入仕様書」の案件名が異なる不一致を隠すため、事業部や購買積算部により案件名を修正液で消去するなどの隠蔽がされていた。

〔住江織物〕
連結子会社において、顧客との合意前に染料コスト転嫁に関するInvoiceを発行するとともに、一部の取引先に対しては、監査法人からの残高確認状の返送に際して、翌年度における取引価格からの値引きを通じて払い戻しを行う旨の付帯条項を付記しないよう取引先へ依頼していた。

〔日鍛バルブ〕
棚卸の際には、仕掛品及び完成品に貼り付けた棚札には棚卸時の実数を記載する一方、集計用の棚札については帳簿に沿う数値に書き換えていた。

さらに、このような前倒し計上に伴う棚札の書き換え等を行っても完成品及び仕掛品の在庫数と帳簿上の数とが一致しない場合には、棚卸の際に同様に棚札の書き換え等を行い、帳簿上の数の完成品及び仕掛品が存在するかのように見せかけていた。

〔アサツー ディ・ケイ〕
連結子会社において、会計監査人から残高確認状がC社へ送付されたが、C社の取引は「無かったことにして!」言われて、会計データは消されていた。

 ◆勘所
 → 1つの嘘をするためには、その数倍の嘘を行わなければならない証左。


〔郷鉄工所〕
(1)原価の付け替え
d社から●●発電所建設工事の引き合いがあったものの、正式な工事請負契約の締結には至らず、失注している。

一方、郷鉄工所の社内経理上は、X社に対して当該工事にかかる設備機器「太陽光モジュール、接続箱、集電箱等」を2585万円で発注したことになっている。

ただし、郷鉄工所の正式な注文書は、発行されていない※。

当該工事は失注したため、郷鉄工所は、本来であれば、即時損失処理を行うべきであった。

しかしながら、郷鉄工所は、A氏及びB氏が中心となって、当該工事で発生していた原価を、平成27年2月に、全く関係のない別工事に付け替えた。

※正式な注文書の発行には、購買部長の決裁により注文書を発行することとされているが、太陽光事業に関しては当該手続が形骸化しており、注文書を発行しないことが常態化していた。

(2)偽造
注文書には、e社の社印のほか、担当者印として「松村」の押印がなされているが、e社に「松村」という姓の人物は存在しない。

(3)融通手形
郷鉄工所は、日々の資金繰りに窮する中で、「仕入代金の支払とは全く無関係に自社の手形をX社へ振り出し、X社において金融機関等で当該手形を割り引いて現金化してもらい、その現金を郷鉄工所へ戻してもらえれば、手元資金の補充になり、資金繰りが改善するのではないか。」と考えるようになった。

(4)会社法の無視を宣言するメールなど
 -1- N代表取締役からT取締役に宛てた電子メール
送信日時:平成28年12月19日
内 容:各位にお願い、現在の状況下でのT専務の資金繰り努力は厳しいものを感じます、私はT専務の提案に賛成します。
会社法より会社優先をお願いします。

 -2- N代表取締役からT取締役に宛てた電子メール2
送信日時:平成29年4月22日
内 容:昨日の役員会で第三者委員会が決定した、私にも潮時が来た遅かった、会社に未練はない、一生懸命支え40年貢献したつもり、ウルトラCはないのか?
 ◆勘所
 → 会社に未練はない、という発言の後に、ウルトラCを所望。

(5)第三者委員会による追加調査の中止に関すお知らせ
郷鉄工所は、倒産する1週間前に、「当社の資金事情を踏まえ、当該追加調査に対する今後の調査を中止することとしました。」とリリース。
 ◆勘所
 → 過去にも、エフオーアイなどのように、調査報告書の作成最中に倒産するケースはあった。「調査中止のリリース」をすることは、ある意味で誠実である。

〔ユニバーサルエンターテインメント〕
●取締役会長の発言集
 -1- 20億円の振り込み対して、「本社決裁ですか。」と聞いた者に対して、「俺が決裁するからいいんだ。」などと言って、丁 1 への送金を戊に指示するよう丙 1 に命じた。
 -2- 「俺の報酬を20億円にしてくれ。俺がカジノを成功させてやるから。
 -3- 「なんで俺が言ったことをやらないんだ。2億円が必要だから、すぐにチェックを用意しろ。

〔AKIBAホールディングス〕
連結子会社である株式会社iconic storageが、休眠会社に対して、架空売上を計上した。

〔ユニ・チャーム〕
連結子会社において、営業管理部から営業担当者に対して、不必要な販促費を確定させないようにする旨、万一その費用が必要になった場合には翌月以降に追加申請も認める旨の指示がなされ、その結果、当月実施した販促企画に係る費用であっても、当月には会計上費用計上されないという事態が生じていた。

〔光・彩〕
特定の従業員が、丸印を借り出した際に、自ら取り寄せた白紙の払戻請求書に丸印の捺印を行った。
そして、その払戻請求書を銀行窓口へ持ち込み、現金を引出し、着服していた。

引き出した現金については、本社で購入した材料費を過大に計上することで、残高が一致するように帳簿を修正した。

材料費を過大にし続けてきたことによって損失も膨らんできたため、本社が予測する業績の数字と大きく乖離するおそれが出てきた。

そこで、平成29年1月期期末の決算の際に、在庫(主に金)のグラム数を過大に計上し、会社の予測する業績と大きく乖離が生じないように操作した。


【ベストオブ不適切な会計に関する調査報告書】
独断と偏見に基づく、今年の一読に値する報告書は、アピックヤマダである。

まず、キッカケの内部告発文書が強烈だ。
<内部告発文書の概要>
●宛先
「監査法人****代表者様,アピックヤナダ(株)(注:原文ママ)監査担当責任者様」
●文書概要
アピックヤマダ(株)2017年3月度売上高の半数以上が、売上計上基準を逸脱した物が売上計上されている。
経営トップの指示で、ISO・内部統制など関係ない!
売上に上げられる物はどんな手段を使っても期末に売上に上げろ!

売上基準逸脱内容として、
残件(残作業など)が残っていても、納品作業書に記載せず、合格と記載させ、残件は別途内緒で処理。
納品作業もしていないのに、納品作業書を偽造・指示(特にA 国、現地サービス会社外注先A 社)。
顧客合格署名偽造、顧客に署名させるペンを購入し、そのペンを修正用とし保管。

<経理・財務担当のK取締役の迷言>
改竄行為をした理由について、経理・財務担当のK取締役は、「会計監査人と売上計上の可否について議論することが面倒くさかったからである、また会計監査人の担当者と相性が合わなかったからである。」等と供述している。

<粉飾前と後のプレッシャー>
調査報告書において、粉飾のプレッシャーに触れた点は、新たな視点である。

「ヒアリングを要請した従業員の中に、体調不良を理由にヒアリングが実施できなかった者、及びヒアリングは実施できたものの体調不良を理由にその方法及び時間等が制約された者が認められた。

これらの者の体調不良の原因は明らかではないが、本件不適切な会計処理に関与した者の中にこのように複数の体調不良者がいたということは、因果関係は明白ではないとはいえ、本件不適切な会計処理が、何らかの形でこれら従業員に強いプレッシャーを与えた可能性が否定できない。」

トップダウン型の粉飾においては、従業員は不正をしていることに気付いても、上司の命令に逆らうことは困難である。

粉飾が発覚後のヒアリングは、その会社の従業員として働き続けることを選択している社員には、たとえ秘匿だとしても、トップや会社に不利なことを話すことは相当なプレッシャーだ。
 
粉飾は「百害あって一利なし」なのは言うまでもない。
 

ベストオブ不適切な会計に関する調査報告書
1位:アピックヤマダ
<調査報告書>
http://alox.jp/dcms_media/other/170630_6300.pdf

2位:郷鉄工所
<調査報告書>
http://alox.jp/dcms_media/other/170502_6397.pdf

同率2位:ユニバーサルエンターテインメント
<調査報告書>
http://alox.jp/dcms_media/other/170630_6300.pdf

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配信元: みんかぶ株式コラム

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