テロ対策の難しさ

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最新投稿日時:2015/11/24 10:40 - 「テロ対策の難しさ」(みんかぶ株式コラム)

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テロ対策の難しさ

著者:矢口 新
投稿:2015/11/24 10:40

どのような事情であれ、テロは許されない。パリで起きたイスラム過激派のテロに対し、フランスのオランド首相は「我々は戦争状態にある」と、シリア国内ISへの空爆を激化させた。

反撃されない戦争はあり得ない。どのような事情であれ他国を先に攻撃すれば、報復されるのは覚悟の上だとの発言ともとれる。同盟国はいずれも最悪の事態をも覚悟しなければならないということだ。
 

・他人任せの? 大きな政府!

先日、私は日本の景気後退は消費税率引き上げが最大の原因だとし、その資料をまとめて近いうちに提供するとお約束した。

「名目GDPが2020年頃までに600兆円に届かないとすれば、日本の名目GDPが過去最大だった1997年に消費税率を5%に引き上げたこと。2014年に8%にさらに引き上げたこと。そして2017年には10%に引き上げると決めたことが最大の要因だ。それが財政悪化にもつながっている。その責任はすべて政府・政治家にある。最大の責任は安倍首相自身にある。このことは、近いうちに資料をまとめて提供する。」
参照:繰り返しを厭わない
https://money.minkabu.jp/52783

日本政府は増税と減税の組み合わせによる大きな政府を志向している。とはいえ、経済再生のためのリーダーシップを、どこで発揮しているのかが明確ではない。

民間から資金を吸い上げ、民間に口出しするだけでは、景気は更に悪化する。政府は他人任せではなく、自分にできることで、経済再生を図るべきだ。経済政策における政府・政治家の専権事項とは税制だ。経済の過熱を抑えたいならば増税を、刺激したいならば減税だ。なかでも消費税が最も効果的なのだ。

このことを、以下のサブタイトルの順に提供しているので、以下のリンクからご覧頂きたい。

1、大きな政府による上からの政治
2、大きな裁量権をどこに使う?
3、法人税率を下げて得られたもの。消費税率を上げて失くしたもの
4、消費税は企業の売り上げを侵食する
5、日本の政治家と官僚は、あなたの生活を任せるに値するか?
6、景気回復には消費減税を!
参照その1:http://fx.minkabu.jp/hikaku/fxbeginner/big-government-leave-others1/
参照その2:http://fx.minkabu.jp/hikaku/fxbeginner/big-government-2/
参照その3:http://fx.minkabu.jp/hikaku/fxbeginner/big-government/


・テロへの反応

パリでのテロに対する風刺画がネットに溢れている。私も見たが、自国にいながら欧米からの攻撃に長年さらされているイラク、アフガニスタン、シリアなどの人々には冷淡で、その反撃には過大な反応をしているというものが多い。

それはその通りだが、誰しも身近に感じることには反応するが、他人事に思えることには冷淡なものだ。現に、同じ時期に起きたロシア機爆破テロでは200人以上の犠牲者が、ベイルートでの自爆テロではそれ以上の犠牲者が出ているが、パリほどのショックは表明されない。このことは、欧米のメディアに接している私たちの反応が、欧米の同盟国としての反応であることを示している。

フランスのオランド首相は「我々は戦争状態にある」としたが、反撃されない戦争はあり得ない。これまでイラク、アフガニスタン、シリアなどと全面戦争になっていないと感じてきたのは、圧倒的な力の差があるためだ。イラク、アフガニスタン、シリアなどにとっては既に全面戦争だと言ってよく、彼らの日常生活は破壊されている。

どのような事情であれ他国を先に攻撃すれば、報復されるのは覚悟の上だとの発言ともとれる。日本を含めた欧米の同盟国はいずれも最悪の事態をも覚悟しなければならないということだ。

嫌な世の中になってきた。

ISはイスラムの「国家」ではない。イスラム過激派ではあるが、それだけではない特殊な組織だ。世界中から若者をリクルートし、欧米人を含む多くの男女がその活動に参加している。参照ページの上の図はツイッターでのサポートだが、下の図からはどのような国々がイラクとシリアに「兵士」を提供しているかが分かる。
参照ページ:The countries where ISIS finds support, in two charts
http://www.marketwatch.com/story/the-countries-where-isis-finds-support-in-two-charts-2015-11-18?dist=afterbell

米国防省の極秘資料を暴露したスノーデン氏によれば、ISは、「イスラエルの工作員が関与している」としているようだ。目的はシリアのアサド政権の転覆だ。それが真実なら、欧米のメディアが反アサド報道を繰り返し、少なくとも何年か前までは米国がISをサポートしていたことも、米軍指導下のイラク正規軍とISとの奇妙な戦闘(ISと対面するとイラク軍は武器を置いて逃げる)も、納得がいく。
参照:シリア難民に冷淡な安倍首相
https://money.minkabu.jp/52211

もっとも、スノーデン氏が言論の自由を求めて亡命した先がロシアで、そこでどこまで言論の自由を得たのかは不明だ。シリアのアサド政権が悪の政権であるという報道を盲目的に信じないのと同様、スノーデン氏が真実しか語らないということも盲目的に信じるわけにはいかない。

そこで私たちは、今まで自分が学んできたこと、自分が経験してきたことを手掛かりに、自分なりの状況把握に努めることになる。


・ISテロの根本的な問題

欧米の若者が多数参加しているということで、ISテロの根本的な問題は、欧米諸国内部にもあることが察せられる。というより、もともとイラク、アフガニスタン、シリアなどが、欧米に対して「戦争」を仕掛ける気配があったわけではないので、むしろ問題は、欧米内部の問題であるといえる。要因を3つ挙げるとすれば、私は以下のようなものだと見なしている。

1、欧米の中東政策の失敗
2、先進国の所得格差の拡大
3、欧州の若者の失業率の高止まり

2は、欧米だけでなく、日本や中国でも顕著になってきている政治経済の問題で、一朝一夕で解決する問題だとは思えない。

3は、ユーロ圏の各国が独自の経済政策を捨てたところに問題があるので、ユーロを維持している限り、解決することは困難だ。

そこで1だが、どの情報を信じるかで判断が分かれることになり、解決できる問題かどうかも判明する。とはいえ、私はアラビア語やペルシャ語が分からないので、欧米が提供する資料を信じることになる。スノーデン氏の暴露は、私の見方を補強してくれるが、それを基に何かを判断することはできない。

・信頼に足る情報とは何か?

ところで、相場で最も信頼できる情報が何か、お分かりだろうか?

「その筋の噂」だと答える人はいないと思うが、エコノミストやアナリストが提供する情報も主観が入るので当てにならない。同じように、企業の決算報告なども、全く作為がなくても、会計基準や税制などを踏まえた上での情報でしかない。そのため、日本有数の利益を上げている会社が、ほとんど税金を納めていないようなことも起きる。ファンダメンタル分析は曖昧なものなのだ。

嘘が最も少ないのは、市場でついた価格と、出来高だ。資金の流れだ。

チャートで価格の推移を知り、出来高に注目し、資金の流れを分析していけば、将来のトレンドやボラティリティが概ね占えることになる。

米国の中東政策でも、米国からの資金援助を見れば、どの国をサポートしたいかが見えてくる。これは笑顔や、美辞麗句に惑わされない、本音中の本音だ。

先頃、米政府が公表した対外支援金の行先は刺激的なものだった。総額350億ドルのうち、31億ドルがイスラエル、15億ドルがエジプト、11億ドルがアフガニスタン、10億ドルがヨルダン、9億ドルがパキスタンに向かっている。
参照地図:Here’s where the U.S. sent $35 billion in aid last year
http://www.marketwatch.com/story/heres-where-the-us-sent-35-billion-in-aid-last-year-2015-10-30

米国がイランへの経済制裁を解く一方で、オバマ政権はイスラエルに対しては強面の姿勢を強調しているかのような映像をよく見るが、何といっても米国の最大の同盟国はイスラエルなのだ。この5カ国を見れば、産油国とイラン包囲網、あるいはロシア、中国への牽制が、米国の最大の関心事であると推察される。

また、軍事支援金に限ると、もっと刺激的だ。イスラエルが31億ドルと、同国向け支援総額の100%が軍事支援だ。エジプトには13億ドルで、この2カ国だけで軍事支援金の75%を占める。次いで、ヨルダン、イラク、パキスタンと続く。
参照Map: Two countries get 75% of all U.S. spending on foreign military aid
http://www.marketwatch.com/story/map-two-countries-get-75-of-all-us-spending-on-foreign-military-aid-2015-11-10?dist=tbeforebell


何年か前のアラブの春をご記憶だろうか? エジプトでは民主的な選挙が行われ、モルシ大統領が選ばれたが、軍事クーデターにより投獄、死刑判決が下された。その軍事政権を米国は支援し支えている。

ISテロを「文明の衝突」や、宗教対立、独裁と民主主義との対立と捉える人も多いが、米国の軍事支援金の配分を見る限り、どれもが整合性がない。

米国は選挙で選ばれた首長を軍事クーデターで倒した今のウクライナ政府を支持している。同様に、選挙で選ばれた首長を軍事クーデターで倒したエジプトの軍事政権に軍事支援を続けている。これは米国の思い通りにならなかったイラクのフセイン政権や、アフガニスタンのタリバン政権を排し、傀儡政権を作ったのと同じ流れだ。米国にとっては、シーア派、スンニ派ということなど問題ではない。適当に対立してくれている方が、イスラエルにも好都合だ。

米国は必ずしも民主主義を尊重してはいない。民主主義は米国議会を見ても分かるように、思ったように物事を進めるには面倒なシステムだからだ。自国内はともかく、他国を思うように従わせるには、軍事政権は何かと好都合なのだ。ここには、文明も宗教も、政治体制の理想や理念もない。

私には安倍首相の思惑が分からない。ましてや、米国の思惑など分からない。しかし、資金という「力」の配分をどのように振り分けているかを見ることで、思惑を超えた事情が見え、どういう結果になるかが概ね見えてくる。

一方、欧州主要国のいつくかは旧宗主国として、アジア、アフリカ諸国に大なり小なりの関与を続けており、現地での反発を買っているケースも見られる。

ISテロの根本的な問題は、「欧米の中東政策の失敗」だ。私には、民主主義という錦の御旗を掲げる建前と、資金配分に見られる前時代的な本音との矛盾が、世界を混乱させているように見える。

反アサドの欧米に加え、親アサドのロシアがIS攻撃に加わったことで、ISそのものは壊滅するかもしれない。しかし、1、2、3の要因すべてが、簡単には解決しない問題である現状に変わりがない限り、第2、第3のISが現れる土壌には変わりがない。ISは日本人の誰でもがテロの標的だと警告したが、それが世界の現実であると認識する必要があるだろう。

配信元: みんかぶ株式コラム

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