ドル円「2日間で5円」も急騰。昨年は1年間で10円の変動幅。
円高が止まりません。日銀の金融政策決定会合の結果が「ゼロ回答」だったことから、円は対ドルで106円台前半と、約1年半ぶりの円高水準を付けました。
日銀会合の結果は判明する前に、1ドル111円後半で推移していましたが、その後の2日間で5円も円が急騰しました。
昨年(2015年)1年間を通じて、円相場の変動幅は“10円”ほどでしたので、2日で5円の衝撃は大きく、株価も3週間ぶりに一時16,000円台を割り込むまで売られています。
■円高が今期の業績見通しに影響
円相場は輸出企業の業績に直結します。あいにく決算時期と重なってしまったために、今期の業績見通しを大幅に押し下げる要因になっています。
電子部品大手、村田製作所(6981)は4月28日に今期の営業利益が2,400億円(前年比12.9%減)になりそうだと発表しました。
同社の今期の為替想定は1米ドル110円です。2015年の平均レートは約120円でしたが、10円円高に見直すことで、営業利益を350億円程度押し下げる要因になります。
為替の前提が前期と同じ120円であれば、今期の営業利益は2,750億円程度と最高益水準を確保できていた可能性があります。
また、円相場が111円台後半で推移していた27日以前であれば、村田の業績は保守的と市場で受け止められた事でしょう。
ただ、週明けの2日(月)には一気に106円台まで円高が進行したため、110円の為替前提はむしろ楽観的と捉えられました。
会社計画を達成するハードルは高いとして、村田製作所の株価は13%安と急落。わずか1日で、4400億円もの時価総額を消失したことになります。
■円高が追い風となる銘柄も
ただ、円高は悪い面ばかりではありません。製品や原材料を輸入する企業であれば、業績面で追い風です。
ニトリ(9843)、ABCマート(2670)など内需企業、日本航空(9201)や東京電力(9501)など燃油を海外から調達する企業は円高による業績寄与が期待できます。
日本航空の17年3月期の最終利益は1,920億円(前年同期比10%増)と、再上場後の最高益を更新する見通しです。
また、輸出企業の中にも円高が業績を押し上げる特殊な例もあります。
ブリヂストン(5108)、ソニー(6758)、ファナック(6954)、トヨタ(7203)、ホンダ(7267)、キヤノン(7751)
日本を代表する輸出企業の面々ですが、この中で“1社だけ”円高が業績を押し上げる銘柄があります。お分かりになりますでしょうか?
もったいぶらずに正解を申し上げましょう。答えはソニーです。対ドルで1円円高になれば、年間の営業利益を70億円程度押し上げる要因になるとみられています。
トヨタ自動車が、1円の円高で400億円の営業利益押し下げ要因になるのとは大違いですが、海外生産を進め、部品などをドル建てで調達していることから、円高・ドル安が業績押し上げ要因になります。
■一概に円高が良いわけではない点も注意
一方、対ドルでの円高は好ましいものの、対ユーロでは1円円高に振れると営業利益を55億円ほど押し下げるとみられており、一概に円高が良いというわけではありませんので、その点はご注意ください。
同じ輸出関連と一括りに捉えられがちですが、為替寄与度は各社まちまちです。中には、決算書類に為替感応度(為替レートの変動が業績に与える影響額)を載せている企業もありますので、決算資料の最終ページまで一度目を通してみてはいかがでしょうか。
小野山 功