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日立コメント 日経から
日立製作所の株価が20年ぶりの高値圏にある。金融危機後から続く事業構造改革が最終局面を迎え、2022年3月期は連結純利益が2期連続で最高益を更新する見通し。IoT基盤「ルマーダ」を中心に稼ぐ方針を明確化し、事業構成が分かりやすくなった。さらに株価を押し上げられるかは、M&A(合併・買収)に頼らない事業成長の道筋を示せるかが焦点となる。
「事業の入れ替えは9割5分完了した」。4月28日の21年3月期決算発表後の記者会見で、東原敏昭社長は10年にわたって続いた事業構造改革が最終段階に入ったとの認識を示した。
日立はリーマン・ショックの影響を受けた09年3月期に当時の製造業で最大となる7873億円の最終赤字を計上したのを受けて、IT(情報技術)を中心とした事業構造改革を推進した。
16年にあらゆるモノがネットにつながるIoT基盤「ルマーダ」を立ち上げ、データビジネスを推進。ルマーダとの関連が薄いと判断した「売り切り型の事業」を切り離した。日立化成など「御三家」と呼ばれていた中核子会社も対象となり、4月には日立金属の売却も発表した。グループ内に残る上場子会社は日立建機のみとなった。
一方、ロボットを使った生産システムを手掛ける米JRオートメーションテクノロジーズやスイス重電大手ABBの送配電システム事業を買収。約1兆円を投じて米IT企業のグローバルロジックを買収することも決めた。
その結果、事業部門もインフラやエネルギー、自動車部品など主要6部門に集約された。UBS証券の安井健二氏は「電気自動車や電力制御にはITによるデータ利活用が欠かせない。再生可能エネルギーや環境など株式市場のテーマに乗り始めた」と指摘する。
今期の業績予想も株価を後押しする。営業利益は前期比5割増の7400億円と、19年3月期の最高益(7549億円)に迫る。ルマーダ事業の売上高は42%増の1兆5800億円を見込む。シティグループ証券の江沢厚太氏は「構造改革が実を結び始めておりルマーダの成長をポジティブに捉えている」と話す。
5月12日には、小島啓二副社長が6月23日付で社長に昇格する人事を発表した。中西宏明会長が病気療養のために退任することに伴う「予定外」の人事だったが、小島氏の社長就任について市場から否定的な見方は少ない。
小島氏は最高技術責任者(CTO)を歴任し、日立が成長戦略の中心に据えるルマーダを立ち上げた。小島氏は就任会見で「今そろっているポートフォリオ(事業構成)をもとに、デジタル化を速めることに集中したい」と、戦略の軸足をM&Aではなく事業成長に置く方針を示した。
市場からは「『ルマーダの父』と呼ばれる小島氏がトップに立つことで成長戦略が改めて推進される」(海外機関投資家)との期待が広がる。
今後の課題は構造改革の効果をきちんと出せるかだ。東原社長体制下では19年にJRオートメーションを1600億円弱で買収し、20年に買収したABBの送配電システム事業の買収額は約7500億円にのぼる。そこにグローバルロジック買収の1兆円が加わる。日立の3月末ののれんは1兆1612億円と前の期末から約8割増えており、グローバルロジック買収でさらに増える。
SMBC日興証券の吉積和孝氏は5月26日に日立の目標株価を5000円から5500円に引き上げたが、「さらなる評価の引き上げには、大型買収企業の減損リスク低下などの確認を待ちたい」などとコメントしている。
日立の株価は20年末から6月4日にかけて49%上昇し、6000円台に乗せた。電機8社の中では海外ファンドによる買収観測が根強く残る東芝の61%に次ぐ上昇率だ。構造改革が進む富士通とシャープもそれぞれ24%、29%上昇している。
ただ予想PER(株価収益率)でみると日立は10倍台にとどまっており、独シーメンス(約20倍)を大きく下回る。8日に開く投資家向け戦略説明会では、小島次期社長が今後の展望を披露する見通し。市場が納得できる成長ストーリーを示せれば、1988年に付けた上場来高値(9714円)に近づく可能性も見えてくる。
(広井洋一郎)
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