むかし、変人米国人金持ちおぼっちゃまとつるんでた。とんでもねぇ金持ちで、家は城で、門から戸口までのあいだに湖あり、庭で狩りができた。
変人の親や祖父母は、高確率で変人、っていう法則にもれず、そいつの祖父は、ワをかけて、ちょー変なジジだった。初めて会ったジジイは、趣味のトレードの最中だった。
抵抗線に当たって落ち、支持線に当たって跳ね返っているチャートを示して、あっちと友人に、勝負を挑んできた。
抵抗線近辺にあったチャートを指して、このあと上にいくか、下に行くか、どっちに賭ける? 負けたら1ドル払え、勝ったら1000ドルあげるよって。
あっち達は、形的に感覚的に、下に行くほうに賭けた。だって、同じような所で頭を打たれて落ちてるんだよ? 下に賭けるよね。レジスタンスに当たって反落しかけた。おっし1000ドル来たぁぁぁって喜んでたら・・・
ジジイが成買いで、実弾(お金様)をぶっ込んだ。相場はブレイクアップのロケット噴射。え“-!!!! 卑怯じゃんそれ、と、友人が叫んだ。
あっちが叫ばなかったのは、トレードってもんと、ジジイが何をしたのかが、わかってなかったからだ。
とんでもねぇ金持ちが、生意気な孫と、異国の貧乏学生から、1ドルせしめるために、ただそれだけのために、力業でチャートを作ってきた瞬間と、ねじ曲がったチャートを、あっちは自分の目で見た。
画面の向こう側に、プチパニを起こした市場を見た。
そして、授業料1ドルをぶんどられた。
パンでも菓子でも、この家から、1ドル分以上の土産をせしめて帰るのだと、心の中で拳を握りしめていた自分が、なつかしい。
ジジイは、さくっと利確してグフグフ笑ってた。クソいまいましいったらありゃしないってやつだ。あの経験のおかげで、チャートしか頼るものがないトレードをしているくせに、チャートなんか信用できるかと、わかってトレードできている。
チャートなんてものは、大量の金と、意志があれば作れる。それが出来るのは金額。でかい金額を動かす、大口の少人数だ。
あの変人ジジイのように、相場で遊んでくるでかい実弾が入ることは、めったに無いだろう。
だが、お金様を持っているヤツが、機関が、チャートをつくってくることや、玉拾いのためにチョンチョン節目を切ってくることは、ある。
だから自分の想定の中に、順行、逆行、一時的な逆行のちに順行、なんて場合の想定を持っておくのは当然だ。
画面の向こうに、どんなヤツがいて、どれくらいの実弾(お金様)を持っていて、どんな意志や気まぐれをもっているかなんて、こっちにはわからん。
得がたい経験が、たった1ドル。狂喜乱舞もんの幸運だったと、頭ではわかっている。