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仮想通貨「元年」の確定申告到来、戸惑う投資家-国税は監視の目
仮想通貨への投資で「億り人」の仲間入りを果たした小宮寛行さん(36)は16日から始まる2017年の確定申告を前に困惑している。仮想通貨同士の交換でも利益を確定したとみなし、課税されるからだ。「納税のために仮想通貨を現金化するつもり。だけど、そこにもまた課税される」とため息をつく。
ブロックチェーン(分散型台帳)関連のコンサルティング会社経営の小宮さんが200万円で購入した仮想通貨は一時1億円に膨れ上がったが、利益確定はほとんどしていない。申告するのはビットコインからイーサリアムに交換する際に生じた利益約200万円。納税額をねん出するため仮想通貨を売って円に替えるか思案している。
取引急増で仮想通貨元年と呼ばれる17年の確定申告が近付いている。国税庁は同年8月、仮想通貨の取引で生じる利益が所得税の「雑所得」に区分されるとの見解を発表。他の所得と合算して算出し、一律10%の住民税と併せると税率は15ー55%となる。仮想通貨による所得の税務上の取り扱いが曖昧だったため申告をしない投資家も多かったが、政府は税制を明確化して納税意識を高める狙いだ。
汐留パートナーズ税理士法人の税理士、前川研吾氏は1月22日の取材で、「他国を見ても税制が整備されていない国が多い中、日本は進んでいる」と話す。17年に利益確定した投資家が増えたため、最近は仮想通貨関連の顧客が急増しているという。顧客は30-40代が多く、仮想通貨からの平均年間収入は700-1200万円ほど。中には1億円以上稼いでいる投資家もいると説明した。
しかし、税申告を支援する取引所の体制はまだ整っていない。多岐にわたる取引から生じた利益を確定するにも煩雑な作業が必要だ。小宮さんが20時間かけて取引から生じた利益を計算したエクセルの項目は2000に上った。「取引所にとっても初年度。ダウンロードした取引履歴にはバグがあった」と明かす。
三重県在住の投資家、鈴木教平さん(28)も初めての申告作業に戸惑っている。16年12月から仮想通貨への投資を始め、元金100万円で始めた取引の資産規模は一時は数倍にまで膨らんだ。利用した取引所は複数にまたがり、各社から取引履歴を取り寄せたが、フォーマットも異なり、集計に3日かかった。
当初は税理士を探そうと試みたが、同様の依頼が殺到しているため見付からず、自身で申告することにした。「手間も時間もかかるけど、国税庁から申告の方針が出ているから、やらない訳にはいかない」。鈴木さんはそう話す。
脱税と抜け穴税の抜け穴も存在する。汐留パートナーズ税理士法人の前川氏によると、「海外に出ること」が節税方法の一つ。有価証券などの資産価格が合計1億円以上であれば日本居住者が国外に転出する際に課税される「国外転出時課税制度」があるが、仮想通貨の利益は対象外。シンガポールに移住する顧客もいる。
1日、六本木で開かれた仮想通貨投資家のための交流会に参加していた起業家の斎藤功さん(28)は、税金を逃れるための外国への移住は「超魅力的。本気で仮想通貨をやるなら、そういう選択肢はおのずと優先順位が高くなる」と語る。
計算方法によっても大きな差額が発生する。仮想通貨の所得計算には取引の都度計算する「移動平均法」と1年間の平均単価を計算する「総平均法」がある。小宮さんは総平均法で算出し、数百万円分の所得を抑えることができたという。
一方、国税庁は目を光らせている。仮想通貨取引のデータベースを作成し、東京や大阪にある電子商取引チームが監視を続けている。法律では、過去5年間にさかのぼって申告を調査し、不備があれば加算して課税することができる。同庁幹部は、所得計算が困難だとか、今年が初年度だからという理由で、国税の手が緩むことはないと警告している。仮想通貨の利益が20万円以下の場合、申告の必要はない。