今回の五番勝負は、非常に公平なルールで打たれたと思う。何を持って「人間を超えた」とするかは人それぞれだろうが、私は素直に人工知能が人間を超えたと言ってよいと思う。
一方、よく問われるのは、この事実を棋士としてどう受け止めるべきかということだ。
人工知能がいずれ人間を上回ることは、最初から分かっていることであり、敗れたからと言って決して恥ずかしいことではない。人工知能が必勝法を発見できたわけでもない。囲碁が奥深く魅力ある存在であることは何も変わっていないのだ。
むしろ、アルファ碁がくれた人間の固定観念になかった発想は、大きな刺激となった。他のプロ棋士にとっても同様だろう。囲碁のレベルそのものが引き上げられることで、より高次元の勝負を見せられるようになれば、棋士としてこれ以上の喜びはない。
人工知能技術をぜひ社会の課題解決に
素晴らしい五番勝負を観た後で私は今、人工知能とトップ棋士と対局の機会を今後も設けて欲しいと強く希望している。
中国には直近の成績では李九段を凌ぐ俊英、柯九段がいる。日本の井山裕太九段は現在、十段のタイトルと同時に前人未到の7冠に挑戦中だ(現在は棋聖・名人・本因坊・王座・天元・碁聖)。井山九段は第4局で現れたような複雑な碁を得意としており、好勝負が期待できる。我々は囲碁の真理に近づくのと同時に、人工知能の隠れた弱点をさらに引き出し、改善してもらうことができる。お互いに切磋琢磨できるのではないだろうか。
グーグルはアルファ碁の開発で培ったディープラーニングなどの人工知能技術を、医療や気候モデリングにも役立てていく方針だと聞く。囲碁が社会の深刻な課題の解決に貢献できるのなら、これほど誇らしいことはない。