yuhsanさんのブログ
自費出版とセルフパブリッシング
英語にすると同じになりますが、日本語ではだいぶ違います。自費出版は「紙の本」、セルフパブリッシングは「電子書籍」だからです。
今日は、この違いについて、「物書き」を趣味として、本を出版したい人の立場で、どちらを選ぶか検証してみましょう。
アメリカでは、大統領を辞めると「回顧録」を出しますが、日本でも有名人の「私の履歴書」が新聞に連載され、結構読まれています。物書きの原点は「自分史」にあるようですが、中には専門のライターが書き残す「回顧録」もあるといいます。有名人の回顧録は人気がありますが、私のような非有名人では、いくらうまく書いても誰も相手にしてくれません。
それではと、株の成功談を娘たちに残そうと、「株の秘訣」を書き始め、何回か訂正してできたのが「波乗り投資法」です。ですが……。
今から20年ほど前に、正規の出版社から山の本を出版しました。通常の形で出版された「紙の本」でした。私がワープロで打った原稿を出版社に送り、後は、レイアウト、イラスト、表紙の作成、校正、販促などすべては出版社でやってくれました。印税収入はありましたが、販促費の一部負担などあって、収支はトントンでした。それでも、自称作家の夢はかなえられました。
その後、いろいろな本を書き、出版社に送りましたが、いずれも門前払い。現在の出版不況では、よほどの有名人か、話題性のある内容でないと、出版社では本にしません。
結局売ることを諦めて、「記録を後世に保存する」目的で、自費出版を考えてみました。
まず、「紙の本」の出版社に当たったところ、1冊100万円ほどかかり、書店に並べるには、1000冊以上の注文が必要とのことでした。この場合には、300万円ほど掛かります。友達に「ただ」で送りつけても、たいていは「よくできています。あとでゆっくりと拝見します」で終わりです。売れなければ、全額個人負担となってしまうので、「紙の本」での自費出版は諦めました。
4~5年前、自費出版専門の出版社が倒産しましたが、原因は書店販売をうたって出版した本が、書店に並ばなかったことによる返金騒動でした。もっとも、自費出版の本が一般の書店に並べられたとしても、返品で在庫の山となり、結局は個人負担になるだけの話しですが、当時は本屋さんに並べられれば、売れると信じていた人が多かったのも事実です。
紙の本の出版が高いのは、たくさん作らなければならないからです。表紙の作成、校正、販促などの固定費が多く、紙代や印刷費用はそれほどでもないのです。1000冊も作って、売れなかったら在庫費用が大変です。家に保存しようにもスペースや重さに耐える場所はありません。
2010年ころからは、電子出版が普及してきて、表紙の作成、編集、校正などの作業を自分でこなせば、ほとんど無料で出版されるようになってきました。私も作品を電子書籍として、パソコン上で見ることができるようになったのですが……。
出版した喜びがないのです。友達に閲覧するリーダーをつけて送っても、面倒だからといって見てくれません。大学や高校に送っても、紙の本でないと受け付けてくれないのです。せめて、WI-FI設備を持った図書室を作ってくれるように頼んでも駄目です。出版の壁が低くなった分、本の権威がなくなってしまいました。
もうひとつの問題点は、ジャンク本の氾濫です。紙の本では考えられないことですが、電子本はコストがかからないため、膨大な数の本が出版されているのです。もちろん電子本の出版社の大手は、紙の本と同じように値段をつけ、売れる本を出版していますが、中小の電子本出版社には、スクリーニングがありません。ワードからPDFに変換しただけのファイルに題名をつけ、そのまま出版できるのです。「みんかぶ」の日記欄と同じ感覚の本が出版されてしまいます。
背景には、電子書籍のプラットフォームにあります。技術的な話は省きますが、パソコンで入力したファイルでは、電子書籍になっても簡単にコピーできます。そこで、電子書籍の出版社は、版権の確保や著者の権利を守るため、独自のプラットフォームを作り、この規格に合わないファイルは受け付けないことにしています。
ただ、この方法では、パソコンやスマホで閲覧することができませんので、スマホなどでも見える変換用のアプリが必要になります。このような手間がかかるため、現在、「セルフパブリッシング」をしているのは、アマゾンの「キンドル」だけです。アマゾンで出版する限り、ジャンク本はありません。
楽天も、ソニーも、独自のプラットフォームで電子書籍を販売していますが、自費出版本は扱っていません。
現在、「紙の本」については、国立国会図書館法という法律があって、出版社は出版した本を国会図書館に納本することになっています。ただ自費出版については規定がありませんので、納本しても受け付けてくれないと思います。
「電子書籍」には、この制度がないので、後世に残すという点から見ると問題があります。いずれ、電子書籍にも図書館が整備され、書籍が国費で管理される時代がくれば、「電子書籍」のステータスが上がると思いますが……。ただ、著作権は、紙であれ、電子であれ、自費であれ、出版されれば権利は確定され、コピペする人には法的な制裁は可能です。
以上から、「売れなくてもいいから本を出版したい人」へのアドバイスです。
お金がある人は、「紙の本」の自費出版で、原稿をワードで作成し、あとは自費出版専門の出版社(イメージとしては製本所)にお任せする方法がいいでしょう。この場合、1冊あたりのコストは掛かりますが、あらかじめ「ただでも見てくれる人」を想定し、その数だけ本を作ったほうが無難です。そうすれば、在庫の保管に気を配る必要がありません。
お金がない人は、「電子書籍」を選ぶより方法はありませんが、本をたくさん出版したい人にはお勧めです。
「電子書籍」は書籍というよりも、「電子ファイル」といったほうがピンときます。「セルフパブリッシング」といっているように、表紙の作成、編集、割付、レイアウト、校正、電子化技術などをすべて自分でやる必要があります。この作業を、外部委託する方法もありますが、10万円ほどの費用がかかります。出版物を再編集することも容易なので、あとで見直して、訂正箇所を修正することもできます。
出版社(イメージとしては本屋さん)は、アマゾンの「キンドル」以外のところは使えません。図書館の整備、検索、販売数の管理、ロイヤルティ支払い方法、どれを取ってもアメリカでの経験が生かされています。楽天もソニーも今のところ、自費出版はやる気がないようです。それ以外の中小は、出版しても名だけで、後世に残すという趣旨からはお勧めしません。
いずれにしろ、売れることなど夢にも考えないことです。なにしろ、「ただ」の情報が氾濫している時代ですから。