「僕はね、小説の話を酒の場ですることは、ほとんどないんだ。君にだから言うんだぞ」
明らかにショーン・コネリーの風貌をしたスキンヘッドな森さんは、言うのだった。
「僕はね、23歳の頃、新人賞レースに引っかかってイイ線までいってたんだ」
オイラは、太鼓持ちのようになって、その話を聞いていた。
既に日本酒を5合ばかり飲んでしまっていて、オイラはとっくにイイ気分なのだった。
「その時に声を掛けてくれたのが、滝口靖彦だった」
すごいですねー、とオイラは言った。
(いかん、スティーブン・キングの書いたら駄目だという副詞句をここで使ってしまった・・・)
「でも彼が言うのは、私の作品が如何に駄目かということだった」
あちゃーと思ったけど、オイラは森さんの話を何とか繋げた。
(いかん、スティーブン・キングの書いたら駄目だという副詞句を、またここで・・・)
「彼は、耳の痛いことばっかり言うんだ。結局は若輩者の生意気小説という評論だった」
それでも褒めてくれた他の当時の現役作家もいたというのだから、凄いと思う。
オイラなんて、材料になったというのに飲みに連れていってもくれず、
知らんぷりされているんですよと言ったら、森さんは君は甘いとでもいう姿勢になって崩れた。
それをみて、オイラは「あー、みんな春樹を信じていないんだなぁ」と思った。
初めからオイラをコケにするつもりだったら、
オイラが万が一読んだときに(実際に読んじゃったんだけど)、
オイラがわかるような風に書くわけがないし。
それを、オイラがわかるように書いたってことは、それはきっとメッセージなんでしょうと、
オイラは言った。
同時に、もしもその過程が違うというのだったら、
「ものすごい悲劇が起きますよ」と、オイラは森さんに予言しておいた。
この予言は残念ながら、大きく外れることだろう。多分。。