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黒田日銀と日本株に「2年目のジンクス」はあるか=嶋津洋樹氏
黒田日銀と日本株に「2年目のジンクス」はあるか=嶋津洋樹氏http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPTYE9BT05D20131231?sp=true嶋津洋樹 SMBC日興証券 シニアマーケットエコノミスト(2013年12月31日)デフレ脱却こそがアベノミクスの核心だと考える筆者にとって、2013年は小さいながらも重要な一歩を踏み出したと評価できる年となった。そのことは、当初「願望リポート」と揶揄された黒田日銀の最初(4月26日公表)の「展望リポート」のうち、13年度の見通しが現実味を帯びたことからも明らかだろう。長らく米連邦準備理事会(FRB)や欧州中央銀行(ECB)をウォッチしてきた立場からみると、日銀の金融政策の効果に否定的で「願望リポート」と批判していた側の見通しこそが、金融政策には効果がないという「願望」に基づいたものだったようにみえる。もっとも、足元の消費者物価指数(CPI)の上昇を「物価面での好転」と素直に評価しているのは、黒田日銀総裁ぐらいだろう。大方の見方は、円安やそれに伴う輸入物価の上昇に主な原因を求めている。公共料金など、必ずしも需給を反映しない財やサービスの上昇も指摘されている。しかし、そうした説明も上昇品目が50%に迫ってくるなかで説得力を失いつつあるようだ。最近は、CPIが上昇し続けても日銀が「量的・質的金融緩和」で目指す「2年で2%」の達成は難しいと、矛先を変えたうえで金融政策の効果に疑問を投げかけているのも耳にする。黒田日銀の最初の展望リポートが民間の経済予測よりも正確だったことを踏まえると、15年度のCPI上昇率(消費税率引き上げの影響を除く)が政策委員予想の中央値であるプラス1.9%に近づく可能性を否定することは難しい。FRBやECBの金融政策運営が物価安定のピンポイントでの達成を目指していないことからも、黒田日銀が「2年で2%」を達成する可能性は十分にあると考えている。<重要なのは為替変動より世界景気動向>もちろん、「景気回復の実感がない」という声に代表される通り、デフレ脱却からの一歩が日本全体に行きわたっているわけではない。「日用品の値上がりで、かえって生活が苦しくなった」との批判があるのも承知している。しかし、株式や不動産などの資産価格が上昇し、大企業や都心部が中心とはいえ、景気の回復が続いているのは事実だろう。そのすべてを黒田日銀の成果というつもりは毛頭ないが、バーナンキFRB議長が金融緩和策の波及経路として「住宅およびその他の資産の価格上昇は順次、家計の富と消費者の信頼感を回復させ、消費支出を押し上げ、生産と雇用の増加に貢献する」(5月22日議会証言)と説明したことに日本の現状が重なるのは偶然ではないはずだ。そもそも筆者からみると、「量的・質的金融緩和」で為替相場に影響を与えることはできないとか、株価上昇は続かないといった批判がいつの間にか、「設備投資は増えない」「賃金は増えない」「景気回復を実感できるのは大企業や都市部だけだ」などに、すり替わったことが不思議でならない。その設備投資や賃金に関する批判も今では、「更新投資に過ぎない」「所定内給与が増えない」といった具合に、視点や定義が変わっている。それほど頻繁に評価方法が変わるのでは、「量的・質的金融緩和」の効果が見つからないのも当然だ。最近は、日本企業が長引く円高に適応したことで、円安に伴う輸出増の効果が大幅に低下したとの批判もある。筆者もその可能性は否定しない。しかし、それで説明できるのは、全体のうちのわずかだろう。実際、日本の輸出にとっては、為替相場の変動以上に世界景気の動向そのものが重要だ。そして、世界景気に連動すると考えられる輸出(輸出金額/輸出価格)は11年8月から13年9月までほぼ横ばい圏で推移。この間、輸出の伸び悩みは中国や台湾、韓国、ドイツなどでも観察されている。日本だけが輸出の伸び悩みに直面しているわけではない。しかも、その世界輸出も13年10月にようやく11年8月の水準を上回った。このまま増加が続くという前提に立つと、日本の輸出が今のまま伸び悩むとは考えにくく、世界景気の回復とともに足取りをしっかりさせる可能性は高い。<株価が冴えなかった福井総裁2年目>それにしても、黒田日銀に対する批判はなぜいつも金融政策の直接的な効果が及びにくい物価以外へも向かうのだろうか。FRBは「物価の安定」と並び「雇用の最大化」を金融政策の目標としているが、同時に物価以外は財政や税制、規制などの非金融政策で決まるとの立場も明確にしている。筆者は中央銀行が、金融政策の直接的な効果が及びにくい「物価の安定」以外を目標とすることに慎重だ。金融政策の効果に否定的な意見が多い日本で、それを万能薬とみなす傾向が強いという矛盾は、「量的・質的金融緩和」に効果(作用)がないとしつつ、副作用を指摘する構図にも反映されているように思える。黒田日銀総裁は12月25日の講演で「日本経済にとって、現在は、実体経済や金融市場、人々のマインドや期待など、好転の動きが幅広くみられており、デフレ脱却に向けた千載一遇のチャンスである」と発言。「経済界・産業界においても、経済の好循環の実現に向けた前向きな動きが拡がっていくことを強く期待している」と締めくくった。筆者も14年は、13年に踏み出した小さな一歩が次の大きな前進につながることを期待している。金融政策が実体経済へ波及するには1年から1年半の時間がかかるという一般論に比べて、「量的・質的金融緩和」の効果が早く顕在化してきたことを踏まえると、なおさらだ。ただ一方で、黒田日銀は14年に試練を迎える可能性が高いと警戒している。1年目にブレークした新人が陥りやすい「2年目のジンクス」だ。たとえば、黒田総裁が上述の講演で言及した米国のニューディール政策の時代を振り返ると、ルーズベルト大統領の就任2年目の株式市場は不調だった。日本でも、デフレからの脱却に最も近づいたとされる福井日銀総裁時代の株式市場を振り返ると、就任2年目のみが冴えなかった。それぞれを取り巻く政治的、経済的な環境は違うものの、期待のハードルが低かった1年目に比べ、2年目はやりにくさがあるだろう。成功による慢心はケアレスミスを引き起こしやすい。また、そこに付け入る「敵」も現れやすいだろう。筆者は依然として黒田日銀がデフレ脱却に成功し、物価の安定を達成する可能性が高いと予想しているが、それにはまだいくつもの試練を乗り越える必要がありそうだ。*嶋津洋樹氏は、1998年に三和銀行へ入行後、シンクタンク、証券会社へ出向。その後、みずほ証券、BNPパリバアセットマネジメントを経て2010年より現職。エコノミスト、ストラテジスト、ポートフォリオマネージャーとして、日米欧の経済、金融市場の分析に携わる。
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