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日本の富裕層-その1

 
日本には個人の金融資産が1,500兆円あるといわれています。もっとも負債を差し引くと1,100兆円だとする人もいます。どちらでもいい、日本人はお金持ちで、1人当たりおよそ1,000万円持っていることになります。


この額は、銀行預金、株式、保険、年金といった金融資産だけなので、これに土地建物といった不動産を含めた総資産となると、1億円以上持っている資産家はざらにいるはずです。現にウォールストリートジャーナルによると、日本には金融資産だけで1億円以上を持っている億万長者が100人に1人もいて、アメリカの125人を上回るそうですからびっくりです。


最近見たテレビの経済番組で、面白い光景に出会いました。司会者が日本人に億万長者が多い例として、このことを持ち出したのです。おそらく台本になかったのでしょう。そうそうたるコメンテーター全員が、一瞬無言で相手の出方を窺っていました。


その場に居合わせた人全員が、億万長者であることを示唆しているように見えました。なにしろ、貧しい人の味方を標榜する政党の党首ですら、大臣就任の際の資産公開で個人資産が2億円以上もあり、最低収入で生活するための本を書いた著名の経済学者の年収が8,000万円以上もあったそうですから、100人に1人も作り話とはいえないようです。


それにしても、どうしてこんなに億万長者が多いのでしょうか。


常識的に考えると、サラリーマンをして60から65歳まで働き、倹約して蓄えた預金と保険、それに退職金を加えたとしても、億になるとは考えられません。この間に結婚をして子供を育て、駅近にマンションを買ってローンを払い、2人の子供を大学まで面倒を見ることは考えると、仮に育児終了と共に夫婦が仕事に出て働いても、収入の大半は生活維持と子育てで消えてしまいます。ではなぜ・・・。


金融資産の大半が60歳以上の高齢者によって占められ、しかもこの年齢層の負債額が少ないところを見ると、1990年初頭の資産バブルで膨らんだ収益を、現預金の形で保有しつづけた結果に違いありません。何しろあの時は、不動産、株式、ゴルフ会員権など何でも持っていれば簡単に儲けられました。そればかりか、東京近郊の市役所の運転手が、退職金で5千万円も貰えることが話題になったくらいですから。


お金の価値が今よりずっと低く、億の金をためるのに、そんなに苦労はいらなかったのかもしれません。以後デフレで貨幣価値が上がり、円高でますます資産が膨れていったのです。


それではなぜ膨らんだ資産が、リスクを取って株式市場に戻らないのでしょうか。日本人の金融資産に占める株式の比率10.7%は、アメリカの29.4%(投資十八番2007年から引用)に比べると大幅に低い数字です。もっともイギリスは日本より低く、ドイツは日本より若干高い程度ですから、日本だけが低いともいえません。


バブル崩壊後20年、魅力のなくなった株を横目に、富裕層も資産の維持拡大のためにいろいろやってはいるのです。ところが、その後の小さいバブルと弾けで、億万長者から脱落してゆく人もいます。今回の金融バブルでも、新興国の株式、為替、商品とかなりの資産が海外に流れましたが、バブルの崩壊と円高でやられてしまいました。国内でも、震災と東京電力株の暴落がありました。


結果的にはこの20年間、ほとんど利息がつかない銀行預金に預けた人の一人勝ちになってしまいました。


私は、この富裕層の金が動かないと、株は上がらないと思っています。何しろ資金量が桁外れです。小額の資金をゲーム感覚で株式を売買しても、大きな流れになって相場を動かすことはできません。売買高で過半数を占める外国人も、ヘッジファンドが大半で、名前のとおり上がれば売り、下がれば買うの繰り返しで、基本は短期投資です。


それではどうやって、富裕層の金を動かすのでしょうか・・・。


それはインフレです。物価を上げることです。銀行預金が物価の値上がりで目減りすることが分かれば、1,500兆円の半分を占める現預金のかなりの部分が、リスク資産に向かいます。それどころか、金利の安い銀行から借金をしてでも株や土地を買います。


インフレには、デマンドプルとコストプッシュがありますが、バブル以後20年間、需要を増やすことでインフレを促してきました。学者も経済発展に伴うデマンドプルこそが不況克服の唯一の道とばかり、財政拡大と公共投資に力を注ぎました。


結果デフレは解消せず、借金が膨らむ一方です。このままでは、増え続けてゆく社会保障費を賄いきれないばかりか、国家が破綻するのは誰が見ても明白です。民間でも投資の拡大で、デフレギャップが広がる一方です。


この際は、従来の経済学では異端視されていたコストを上げてインフレにするよりほかに方法はありません。


消費税、相続税などの税金を上げること、電力、ガスといった公共料金の値上げをすること、医療費、介護費といった公共サービス料金を上げること・・・。さらに円安政策をとり輸入物価を上げれば、いやでも物価は上がります。もっとも、物価が上がれば、購買力平価が働いて円安になるという人もいますが。


やり方は簡単ですが、とてもできません。皆が嫌がるからです。誰だって税金が上がり、公共料金が上がるのには反対します。おそらく株式に関心を持っておられる「みんかぶ」の大多数も、この考え方を支持しないでしょう。暴論と決め付ける方もおられるかもしれません。でも、ほかに道はないのです。あったら教えてください。


昨年、ドイツとイタリーに行ってびっくりしました。物価が驚くほど安いのです。20%の消費税込みでも、食費、交通費、宿泊費など、同種の物とサービスと比べてもかなり割安です。消費税が高いといって文句をいう人は一人もいません。当時120円/1ユーロの為替レートでこの状態でしたから、さらに進んだユーロ安ではもっと安いでしょう。日本で消費税が20%になっても、諸外国と比べて物価は高くはありません。むしろ為替のほうが効いてきます。


それでは、これによる経済への影響はないのでしょうか。考えられるのは住宅、自動車、高額の贅沢品などの需要減ですが、住宅ではコストの半分を占める土地に消費税がかかりませんし、値下がり最中で買い控えられていましたから、需要減少はあまり考えられません。自動車は買い替え減税で値上がりが抑えられていますし、贅沢品はもともと価格の弾性値が低いので影響は軽微です。価格に対する影響力のあるのは、むしろ電力料金、医療費の値上げで、買い控えができないだけに庶民生活を直撃します。


もともと値上げで需要を喚起しようとしているのですから、小率の値上がりが起きないと困ります。ただ、弱者対策としてむやみにばら撒きをやるのではなく、一時的に公共投資を増やしたり、介護施設サ―ビスの拡充をしたりして、雇用の増大と即効性のある需要喚起を呼びこむことで、生活を支えるのです。インフレで経済活動は活性化し、株価が上がれば資産効果も期待でき、雇用も安定してゆきますので、プラスの効果も十分考えられます。


不況下で、デフレギャップが広がっているときに消費税を上げれば、景気はさらに落ち込むという人もいます。それでは、いつまで待てばいいのでしょうか。無駄の削減で1年程度は伸ばすことができても、借金は増え続けそう遠くない時期にパンクします。為替は円安となり、コストプッシュインフレが定着する中で、いきなり消費税を15~20%にしたらどうなりますか。ハイパーインフレとなり、資金は海外に逃げ、株は大暴落します。


評論家も経済学者も、すべて億万長者では、現状維持が一番。国が破綻しようが、経済がどうなろうが、仕方ないと思っているのでしょうか。

 


 

6件のコメントがあります
  • イメージ
    syu syu ichiさん
    2012/1/7 10:45
    結果的にはこの20年間、ほとんど利息がつかない銀行預金に預けた人の一人勝ちになってしまいました。
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    呑気呆亭さん
    2012/1/13 23:45
    今晩は。 初めまして。

    > インフレで経済活動は活性化し、株価が上がれば資産効果も期待でき、
    > 雇用も安定してゆきますので、プラスの効果も十分考えられます。

    物価が上昇(=インフレ)でも、経済が不活性というスタグフレーションがありえるので、単に、インフレ=経済活性化 と考えるのは間違いではないでしょうか?

  • イメージ
    yuhsanさん
    2012/1/14 10:44

    呑気呆亭さん

    おはようございます。

     

    コメントありがとうございました。

    おっしゃるとおりスタグフレーションの可能性は高いと思います。

    スタグフレーションについては、このシリーズの「その2」で触れていますが、ここまできたら、どんな対策を打っても好景気にならない今の日本経済を考えると、やむをえないと考えています。

    後は、ならないような対策がどれだけ打てるかと考えています。

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    呑気呆亭さん
    2012/1/14 11:35
    再度のコメントです。 (^_-)-☆

    > スタグフレーションについては、このシリーズの「その2」で触れていますが、
    > ここまできたら、どんな対策を打っても好景気にならない今の日本経済を考えると、
    > やむをえないと考えています。

    「その2」では、
    > 物価上昇とデフレとが同時進行する、
    > スタグフレーションの可能性を否定するつもりはありません。
    > 富裕層の多い少子高齢化社会では、ある程度はやむをえません。
    > 悪性インフレーションでも、ともかくデフレを止めることが先決です。

    たぶん書き間違いだと思いますが、『物価上昇とデフレとが同時進行』ではなく、『物価上昇と不景気とが同時進行』でしょうか? 物価上昇=インフレ ですから、原文ではインフレとデフレの同時進行となり、矛盾します。

    悪性インフレとデフレのどちらが嫌かといえば、たぶん前者でしょうね。
    株価にはプラスでも、生活の面で庶民はひどい状態になるのでは?


    > 日本には金融資産だけで1億円以上を持っている億万長者が
    > 100人に1人もいて、アメリカの125人を上回るそうですからびっくりです。

    実は、アメリカの個人金融資産は約5,000兆円(2007年末)なので、一人当たりの金額でも日本より多くなります。 但し、貧富の差が日本よりはるかに大きいので、億万長者の割合が少ないという状態です。 日本の方が中間層(?)が厚いということでしょう。

    収入構造において中間層が没落している日本の現状で強度のインフレが起これば、庶民の生活が豊かになるのではなく、貧富の差が更に広がり、よりアメリカ的な分布に近付くのではないでしょうか?
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    yuhsanさん
    2012/1/14 14:43

    呑気呆亭さ

    コメントありがとうございます。

     

    ご指摘のように、言葉の点ではいろいろ不備、間違いがあるようです。

    もう少し勉強して、次回といいたいですが、それまでがんばれるか・・・。

     

    消費税問題めぐっては、ここ数日で風向きが変わってきました。

    そろそろ増税後の社会がどうなるか、インフレになるのか、相変らず今のままなのか、資産をどう守っていったらいいのか。

     

    ご意見があれば聞かせてください。

  • イメージ
    呑気呆亭さん
    2012/1/14 20:44

    > 消費税問題めぐっては、ここ数日で風向きが変わってきました。

    > そろそろ増税後の社会がどうなるか、インフレになるのか、

    > 相変らず今のままなのか、資産をどう守っていったらいいのか。


    消費税の問題は、子供だましだと観ています。

    消費税を5%上げたとしても、効果は知れています。

    日本のGDPが500兆円でその全てに消費税が掛るという極端な計算をしても、

    年間25兆円。{現実の消費税の効果はたぶんこの半分にもならないでしょう。}

    この金額では、1,000兆円分の借金(国債)元本を返すのに40年掛ります。

    これには、増税が景気を冷やさないという仮定も付いています。


    政治の舵取りが悪ければ、パイパーインフレという痛い目をみて政府の借金が棒引きされるかも。{昔、日本史で習った、徳政令みたいなものでしょうか。 (^_-)-☆}

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