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 【サンフランシスコ】このコラムの愛読者なら、私が特定のテクノロジー株を勧めることはないことを知っている。私はトレーダーではないし、個別企業の株も保有しない。つまり、投資指南は私の仕事ではないのだ。



 

リンクトイン上場日のニューヨーク証券取引所


 ジャーナリストとして私が心がけていることは、可能なかぎりテクノロジー企業の情報を収集し、それを投資家に提供して投資の判断材料としてもらうことだ。

 私は、多くの場合、情報を慎重な方法で提示するが、それには2つの理由がある。

※ 第一の理由は、数万人を雇用し、数兆ドルを運用する大規模な投資業界があるということだ。この業界は、株式を売ることを唯一の目的としている。もしあなたが銘柄選定の指南役を探しているなら、苦労はいらないはずだ(そういう業界に頼めばよい)。私が業界と同じことをしていては、読者のためにも私のためにもならない。

※ 第二に、IT(情報技術)バブルがはじけ、投資家から7兆ドルを奪い去った2002年初め、次のシリコンバレーの「大化け株」を推奨するか、歴史の過ちを検証するかを選ばなければならないとするなら、自分は後者で読者の役に立とうと心に誓った。

 というのも、私は、かのバブルのさなか、勤務先だったビジネスウィーク誌で、早い段階でシスコシステムズについて痛烈な記事を書いていたにもかかわらず、さらに批判を強めることには、私も編者も二の足を踏むことが幾度となくあったからだ。

 シスコシステムズの株価上昇が止まれば、買収を軸とした同社の成長モデルは立ち行かなくなる、との趣旨の記事を1999年から2000年にかけて書くことは、容易ではなかった。私がそうした記事を書いた際、あるエディターは、その2年前にも同様の記事を書いたが、シスコシステムズの株価が倍々ゲームを繰り返すなかで、シスコの広報と投資家の攻勢に遭い、「シュレッダー行き」となったと話した。

 この反省をふまえて、2004年、私がグーグルの新規株式公開(IPO)の規模に関する記事を書いた時、IPO株は平均すれば市場パフォーマンスを長期的に下回るといった事実など、慎重な情報をできるだけ盛り込むべきだと編集者に意見した。

 無論、グーグルは例外だ。IPO後の数日、数週間、数カ月で投資した向きは、かなりの利益を上げた。

 長々と書いてきたが、これは本題に入る前に必要な前置きだ。本題とは――私は、自分の掟を破って、率直な投資アドバイスをしようと思う。あなたがアップル株を保有し、かつ長期保有の投資家でないのなら、今が、アップル株の利益の大部分をリンクトインに再投資する時である。


なぜアップル株を売るのか

 株価が大化けするとの観測を正当化するために、時価総額が1兆ドルに達するなどという話が出始めたら、利食い売りをまじめに考えたくなるところだ。

 アップルについては強気の見方がある。同社は、急成長のスマートフォン市場で最高の技術を持ち、高機能携帯電話「iPhone(アイフォーン)」と多機能携帯端末「iPad(アイパッド)」がMacの潜在的な顧客を次々と引き付けている、とみられている。スティーブ・ジョブズ氏が病気療養から復帰せずとも同社の成長は揺るがない、との意見もある。

 そうした意見について、あまり異論はない。しかし、未来永劫上昇する株などない。アップルはすでに、7年と驚くほど長期にわたる上昇を続けている。しかし、ジョブズ氏の金儲けの才能が「大数(たいすう)の法則」に勝てないとしても、アップルの3120億ドル(約25兆円)の時価総額は実に巨大だ。アップルがエクソン・モービルを追い抜き、米企業時価総額のトップに君臨する日が来るのかもしれない。しかし、頂点、または頂点に近づいた企業の株を購入、継続保有するのは、賢明な投資戦略ではない。

 2000年初めのシスコシステムズ株にも同様の観測が広がっていた。同年3月28日の終値でシスコシステムズの時価総額は5550億ドルを付け、マイクロソフトを抜き去り、時価総額で世界最大の上場企業となった。

 しかし、11年経った今、同株の時価総額は910億ドル。ピーク時の約6分の1に縮小している。シスコシステムズ株の上昇過程で、利益の最後の「一滴」まで執着する投資家に対して、市場は決して甘くはなかった。


なぜリンクトインなのか

 グーグルのIPO後の株価上昇で証明されたように、投資家は、利益を得るために同株を上場初日や1週目で買う必要はなかった。

 テクノロジー志向の投資家は、成長シナリオを求めている。しかしそれには、利益を生むという条件が付いている。私がリンクトインに上昇余地があると考えるのはこのためだ。

 7年の試行錯誤を経て利益を上げる方法を見出せなかったスカイプが、IPOの発表に至らなかったという事実は、資金運用担当者が売り上げの驚異的な成長に目を奪われて資金を投じるほど甘くはない、ということを物語っている。

 つまり、リンクトインのように、利益が出る企業ならば、より多くの投資資金が控えているということだ。

 第二に、リンクトインは、始まったばかりのトレンドの恩恵を受けている。フェイスブックが、消費者動向を知るためにソーシャル・ネットワークを利用する企業の増加の恩恵を受けているように、リンクトインは、求人サービスを利用する企業の恩恵を受けている。

 リンクトインは、今、企業の求人で起きている大変化を最大限に利用できる立場にある。筆者の前職は、ウォール・ストリート・ジャーナル・デジタル・ネットワークの転職サイトFINSの記者だ。最高技術責任者や人事部長への取材の過程で、どうやって求人を行うのか聞いたところ、彼らは例外なく、リンクトインの名前を挙げた。

 当時、よく聞かれたのは、「リンクトインは採用にとても便利。我々のような急成長企業は、採用にあまり時間をかけられない」という声だった。このように、リンクトインでの求人のために料金を払う企業は何万とある。

 第三に、リンクトインのユーザーはビジネス上のユーザーであり、広告を出す側にとっても魅力がある。フェイスブックのユーザー数はリンクトインを上回るかもしれないが、ユーザーはビジネスではなく、個人的な交流のためにサイト上で「時間」を使う。

 一部の私設取引で、フェイスブックの価値は500億ドル、その2倍、もしくはその半分と、様々な見方がある。しかし、フェイスブックの価値がどれほどであろうと、リンクトインには、現在のバリュエーションの95億ドルを超える価値がある。

 日頃、私は、時流に乗ることはしない。しかし、今、リンクトインのリスクと利益をアップルと対比してみれば、アップル株からリンクトイン株への投資は検討に値する。

 最後になるが、あなたの大切な資金の運用に幸運を祈る。このコラムも含め、すべての投資アドバイスは割り引いて聞くことが肝要だ。

(筆者のジョン・シナール氏は、サンフランシスコ在住のマーケットウォッチの元テクノロジー・エディター)

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