世界に広がるSIMロック解除の波
SIMロックとは、特定キャリアのSIMカード(通信に必要なICカード)しか認識しない端末仕様のこと。世界では「SIMロックフリー」のほうが一般的だ。日本でも「販売奨励金」のあり方と共に、2006年以降総務省の「IP化の進展に対応した競争ルールの在り方に関する懇談会」で議論が始まり、2007年からは「モバイルビジネス研究会」に引き継がれ検討が続けられている。販売奨励金モデルと共に検討されるのは、両者の間に不可分の関係があるため。ロックをかけない場合,ユーザーは,本来は高価な端末をキャリアの販売奨励金により安く買って複数台を所有し,1枚のSIMカードを挿し替えて使うといった行為が可能になり,現行の販売奨励金モデルは成り立たなくなる。EUでのSIMロックに関する統一規約はないものの、「一定期間経過後のSIMロック解除」を義務付ける国が多く、「モバイルビジネス研究会」もこの方向を一つの落としどころに想定した議論となっている。
携帯電話業界の現実も、SBMによる端末分割払い販売モデルの登場以来、この販売奨励金モデルの継続に“ほころび”が出始めてきている。NTTドコモもau/KDDIも分割払いの選択肢をユーザーに提示してきたためである。この延長線上に、「SIMロック解除」が頭をもたげてきても何ら不思議が無い。
W-CDMAとCDMA2000の両方の通信方式に対応し、さらに全事業者の独自サービスに対応した端末があれば、SIMカードを差し替えるだけで使い勝手を変えずに事業者を乗り換えられる。しかし、それは技術的には可能であっても、ビジネス上は割に合わずリアリティは薄い。
現時点でSIMカードを採用しているのはドコモとSBMの3G・W-CDMA端末。cdma2000のau/KDDIは、そもそもSIMを差し替えて使える相手(キャリア)は無い。以前であれば、NTTドコモとSBMは通信方式には互換性があるものの、携帯電話専用のメールやiモードなどのブラウザフォン・サービス、Javaアプリケーションといった各事業者の独自サービスの仕様が異なり、仮にSIMロックが解除されても、SIMカードを差し替えて使えるのは通話と電話番号を利用したSMSだけだった。“だった”と過去形にするのには、理由がある。
NTTドコモは既に独自サービスからの標準規格サービスへの転換を図り始めているうえ、SBMのネットワークセンター構成は、Google「Android」を「採用するかしないかは端末メーカー側の判断」と言えるほど、自由度が高い(つまりは標準規格に忠実)のである。ドコモとSBMの間では、「SIMロック解除」による端末共用化は無理な話ではなくなってきている。
ここに、「大きな外圧」が攻め込んでくる可能性も否定できない。欧州で巻き起こりつつある「iPhoneのSIM解除」の動きだ。
AppleのiPhoneは既報の通り、米AT&Tとのエクスクルーシブ(排他的)契約の通り、キャリアだけでなく通信方式もGSM系に制限(それと引き換えにトランザクション収入を得ている)されており、2008年には3G対応...つまりはW-CDMAに対応してくる。
これが日本市場に上陸するとなれば、当然の帰結としてW-CDMA採用キャリア2社、NTTドコモかSBMのどちらかが窓口となる。Appleからすれば、日本の最大手であるNTTドコモへ提供すればより大きな顧客リーチを得ることが出来るわけだが、Googleの「Android」に賛同しOHAメンバーに名を連ねたドコモに媚びるような文化は無い。
とすれば、Appleの打ち手として、日本国内に既に立ち上がってきている“白ロム”市場など、ドコモユーザーの手に流れていくことも視野に入れながら「ある一定期間(例えば端末代金完済)経過までのエクスクルーシブ」を条件にSBMと組んだ日本展開を模索してくると考えるのが妥当だろう。これなら、Appleは“自らのプライド”を守りながら、SBMという相対的に小さなシマを起点として“潜在需要を計り”つつ、既存の大市場(ドコモ)へのリーチも可能となる。
このiPhoneによる“外圧”がなくても、いずれ「SIMロック解除」に移行するのは世の流れである。「SIMロック解除」の“ゲーム”では、“地続き”の最大手ドコモのシマを狙える、“持たざる”SBMが勝者であり、孤立したau/KDDIが取り残される構図となるのは明白だろう。
「厳しい舵取りを迫られるKDDI」③へ続く
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