井上ひさし絶筆ノート

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井上ひさし絶筆ノート




 4月9日に逝去された作家の井上ひさしさんは173日間におよぶ闘病中の出来事をノートに克明に記録していた。その一部が妻のユリさんの手記の形で「文藝春秋七月号」に掲載されている。
 一番、心を打たれたのは最後のページの次の言葉だ。



『過去は泣きつづけている。---大抵の日本人がきちんと振り返ってくれないので。

過去ときちんと向き合うと、未来にかかる夢が見えてくる。
いつまでも過去を軽んじていると、やがて未来から軽んじられる。

過去は訴えづづけている。

東京裁判は、不都合なものはすべて被告人に押しつけて、お上と国民が一緒になって無罪地帯へ逃走するための儀式だった。

先行きがわからないときは過去をうんと勉強すれば未来は見えてくる。

瑕こそ多いが、血と涙から生まれた歴史の宝石。』


 この最後の言葉は昭和天皇と当時の指導者層が自ら責任をとろうとしなかったことと国民自らが戦争責任を明らかにしなかったことに対する激しい怒りがあると感じる。
 特に翔年は、15日にアップした「映画『カティンの森』を観た」で書いた「死者たちを正当に弔意しなければならない。過去との直面を避ける民族は敗北を宣告されている」というアンジェイ・フラチクの言葉が「過去は泣きつづけている。ー大抵の日本人がきちんと振り返ってくれないので。」と妙に符合して感じられてならない。


 故井上ひさし氏のご冥福をお祈りいたします。(合掌)
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