金融危機以降、金融イノベーションに対する風当たりが強いです。しかし、金融イノベーションは自動車と同じ。うまく使うととても便利ですが、へたに使うと、殺人マシンとなります。情報の偏在問題を緩和し、会社の透明性を増したり、リスクの移転や分散共有を促したり、取引費用を下げたり、といったことに金融イノベーションが貢献することによって、実物経済における様々なイノベーションや革新的アイデアに資金が提供されるようになる。閉塞感ただよう現在だからこそ、金融イノベーションを活用し、成長実現に挑戦しよう。こんなメッセージが、最近読んだ、Financing the Future (Franklin Allen & Glenn Yago)に書かれています。
不確実性には測定可能なものと測定不可能なものの2種類はあると、フランク・ナイト教授が指摘しています。測定可能なものをリスクを呼び、測定不可能なものを真の不確実性を呼び分けるべきとしています。今回の金融危機の根本的原因は、この区別を意識せず、リスク=不確実性として、様々な金融イノベーションがリスクをかなりマネージできると信じてしまったことにあるように思います。ブラック・スワンと呼んだり、投資収益率の変動の確率分布は両袖に非常に長い形状になってしまうという意味でのロング・テールと呼んだりして、思いもよらないことやまさかと思うようなことが現実には起きることを再認識するべきと言われ始めています。
不確実性を可能なかぎり測定可能なものに変える努力は一方で進める必要があります。しかし、真の不確実性に挑戦する企業家精神を発揮してこそ、経済も社会も進歩します。(ちなみに、ナイト教授は、企業家と経営者を明確に区分しています。不確実性に挑戦するのが企業家、業務ルーティンをこなしているのが経営者というのです。自分の任期中のコンプライアンスだけに注力するのは調整型経営者とでも呼ぶべきでしょうか。)Financing the Futureでも、金融イノベーションのおかげで、住宅保有率が上昇し、医療技術も商品化され、新興国への資金提供も可能となり、環境対応のための投資資金も融通されてきたし、これからもするであろう、と説明されています。
社会インフラ市場のグローバル化が進み、日立や東芝などが注目されますが、インフラ・プロジェクトには長期間かつ多額のコミットメントが必要となります。その間に調達コストや運営コストが大幅に変動することがあります。競合に打ち勝って受注できても、採算割れに陥ってしまうケースも多々あると思います。失注したことの意味を吟味しておく必要があると思います。将来の様々なシミュレーションを実施した上で適切な価格提示で失注するケースが否かを考える必要があります。しかし、日立も東芝も財務体質が磐石とはいえない状況です。東芝がビル・ゲーツと共同開発に踏み切ることも東芝とIHIの原発機器の共同生産も一種の金融イノベーションの活用例でしょう。成功したとき失敗したときなどの権利規定など工夫があるはずです。
日本を含む先進国の多くは社会インフラのリノベーションの時期に来ています。新興国の社会インフラ・ニーズはますます高まっています。19世紀が蒸気と鉄道の時代だとすると、20世紀は自動車と電気とITの時代ですし、21世紀は、太陽エネルギー・原子力とICT活用型の社会インフラとそのインフラを活用する多様なサービスの時代と考えるべきかもしれません。
21世紀をこう捉えると、大規模資金を必要とするプレイヤーと、金銭的資本ではなく様々なアイデアや技能を含む人的資本を集約する比較的小規模なプレイヤーとが混在する経済構造を想定するべきなのかもしません。大規模資本プレイヤーには公開株式会社という形態が適していると思いますが、人的資本を集約する企業形態は必ずしも株式会社である必要はないでしょう。しかし、だからといって、そうした人的資本集約型企業にはリスク・キャピタルや透明性が必要ないわけではありません。むしろ、そうした企業のサービス内容やビジネス・モデルが公開されると、一定の規模のリスク・キャピタルが提供され、更なるビジネス・イノベーションが促されることになると考えれます。公開に伴う金銭的インセンティブも多様なサービス創造につながります。こうした株式会社一辺倒の時代(といっても19世紀半ば以降の150年間程度)から企業形態多様化時代にシフトし始めているかもしれません。非株式会社企業形態の活用を社会としてどれだけ出来るかも、各国・各社会の経済上の競争力の決定要素になりつつあるように感じます。
普天間基地問題や選挙もあるでしょうか、日本の成長ビジョンを早期に策定しなければならないと思います。日本には相当のポテンシャルがあると考えていますが、このままではジリ貧です。政治と経済は別という時代は終わっています。政治の貧困が経済の貧困に直結しているのです。最近の円安は、その兆候に呼応しているのかもしれません。
また、銘柄に直結しないことを書いてしまった。orz