―3Dデータ共有化で柔軟な生産体制を構築、東京五輪の表彰台製作の話題性も―
新型コロナウイルスで感染力が強いインド型(デルタ型)がアジアを中心に世界各国で猛威を振るうなか、世界経済の先行き懸念が強まっている。きょうの東京株式市場は20日のNYダウが急反発したことを受けて買いが先行したものの、上値追いには慎重さがみられるなど投資家の不安心理は払拭されていない。再び生産や物流が停滞し、サプライチェーン(供給網)が大きな影響を受ける事態となれば、3Dデータを共有して必要とする現場近くで生産できる「3Dプリンター」の利用価値が改めて評価される可能性がある。また、東京オリンピック・パラリンピックの表彰台が3Dプリンターで製作されたことも関心を集めるきっかけとなりそうだ。
●危機で見直される大きな利点
3Dプリンターとは、3次元ソフトウェアで作成された3次元データをもとに、スライスされた2次元の層を1枚ずつ積み重ねていくことによって立体物を成形する機器を総称したもの。複雑な形状や少量生産に対応でき、液状の樹脂を紫外線で少しずつ硬化させる「光造形方式(SLA)」、高出力のレーザー光線を直接粉末状の材料に照射して焼結させる「粉末焼結積層造形方式(SLS)」、熱で溶かした樹脂を積み重ねる「熱溶解積層方式(FDM)」など、さまざまな種類のプリンターがある。基本的には3Dデータさえあれば自由に造形物を出力することが可能で、生産の柔軟性向上や在庫削減につながるほか、危機の際の供給不足を解消できるといったメリットが挙げられる。
●デンソーは米スタートアップに出資
企業の注目度は依然として高く、デンソー <6902> は6月、金属用3Dプリンターを開発・販売する米国のスタートアップ企業であるサラート・テクノロジーズに出資したことを明らかにした。金属用3Dプリンターは、粉末状の金属素材にレーザーを照射し、金属を溶かして固めることで、金属を加工し造形する装置。同社は軽量化や高度な性能が求められる電動車両や空飛ぶクルマに必要な部品の量産などでの活用を見込んでいる。
長瀬産業 <8012> は6月、グループ会社の米インターフェイシャル・コンサルタンツが3Dプリンターで微細な空気穴を多く含む「マイクロポーラス(多孔質)」と呼ばれるスポンジ状の造形ができる熱可塑性樹脂「Caverna(カヴェルナ)PP」を開発したと発表。水を吸いやすいことから、複雑な多層構造の造形物でも水溶性樹脂がきれいに溶けるのが特徴で、今後、ポリプロピレン(PP)以外のさまざまな樹脂に対応した製品をラインアップとして販売する予定で、フィルター、セパレーター、シューズなど幅広い用途に利用できそうだ。
ニコン <7731> は5月から、国内でチタン合金による金属造形が可能な光加工機「Lasermeister 102A」の受注を開始した。同製品は、造形や肉盛りなどの金属3Dプリンティングに加え、マーキングや接合といったレーザーによる高精度な金属加工が可能な同社独自の光加工機「Lasermeisterシリーズ」の最上位機種に位置付けられ、11月には欧米でも販売する予定となっている。
このほかでは、抗ウイルス・抗菌機能を持つ3Dプリンター向け熱可塑性プラスチック材料を開発済みのDIC <4631> 、金属3Dプリンターを手掛けるソディック <6143> 、セラミックス3Dプリンターを展開する新東工業 <6339> 、フルカラー3Dプリンターのミマキエンジニアリング <6638> 、3Dプリンターで独自のソリューションを提供するローランド ディー.ジー. <6789> 、電子ビーム金属3Dプリンターを販売する日本電子 <6951> 、米社製の3Dプリンターを取り扱うアルテック <9972> なども注目したい。
●医療分野で強みを発揮するJMC
最近では3Dプリンターの利用目的に変化がみられ、単に試作品や不足部品の代替品を製造するだけでなく、最終部品の短期的な開発・製造を担う役割へと広がっている。その象徴的な出来事が、昨年に新型コロナの感染が拡大した際に深刻な品不足に陥った医療防護具の製造で、MUTOHホールディングス <7999> などが緊急対策として3Dプリンターを活用してフェイスシールドを製作したことだ。
医療分野ではJMC <5704> [東証M]が1999年に3Dプリンター出力サービスを開始して以来、医療機関や医療機器メーカーにオーダーメイドの臓器模型を販売しており、2015年には自社製品となる心臓カテーテルシミュレーター「HEARTROID(ハートロイド)」を発売し、世界25ヵ国で展開。今年7月には内視鏡でのカテーテル治療に特化した「ERCPシミュレーター」を発売している。
帝人 <3401> グループの帝人ナカシマメディカルは6月、脊椎固定用デバイス「UNIOS(ユニオス) PLスペーサー」が保険収載されたと発表した。このデバイスは、椎体骨との癒合と早期の固定を得るため、椎体骨との接触面に3Dプリンターによる金属加工技術(3次元金属積層造形法)を用いた特殊な微細構造をデザインしているのが特徴で、自家骨を粉砕してケージ内に充填するなどの処置を行わずに優れた骨癒合を得ることが期待できるという。
●クラボウは建設分野を市場開拓
また、建設分野での利用も増え始めている。日揮ホールディングス <1963> は6月、海外EPC(設計・調達・建設)事業会社である日揮グローバルが建設工事での3Dプリンターの本格的な導入に向けた取り組みの一環として、国内のプラント建設現場で有効性の実証に着手したと発表。同社グループは受注競争力の向上を目指し、デジタルトランスフォーメーション(DX)の積極的な活用を推進している。
クラボウ <3106> は5月、セメント系材料を用いた建設用3Dプリンティング事業を開始した。3Dプリンターの利点である短時間での成形と意匠性の高さを生かして、商品開発における試作サイクルの短縮化を支援するほか、外構材や景観材をはじめとする幅広い造形物を製作し提供することで、建設業界の生産性向上やデザインの多様化ニーズに対応する考え。将来的には、セメント系/非セメント系を問わず新規材料の開発によって製作可能なデザインの幅を広げ、土木・インフラ分野などへの展開を図るとともに、海外への事業展開を目指す構えだ。
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