2. 今後の成長戦略
(1) 「横浜プロジェクト」「翠嵐プロジェクト」を継続
「横浜プロジェクト」は、横浜市内公立高校トップ9校の合格者数合計で業界トップを獲るプロジェクトとなり、2018年は湘南ゼミナールと僅差で2番手だったが、2019年にトップを奪取した。2020年春の合格者数は前年から85名減少の814名にとどまったものの、2年連続でトップをキープしている。また、「翠嵐プロジェクト」は、湘南高校と並んで県内最難関公立高校である横浜翠嵐高校の合格者数でトップを獲得するプロジェクトとなる。2018年までは湘南ゼミナール、臨海セミナーに次ぐ3番手であったが、2019年にトップを奪取し、2020年の合格者数も前年を14名上回る137名となり、2年連続でトップとなった。来春3年連続で両プロジェクトの目標を達成すれば、横浜・川崎エリアにおける確固たるブランド力をさらに高められるものと考えられる。
現状からすれば、3年連続で両プロジェクトとも目標を達成する可能性は高いが、波乱要因があるとすればコロナ禍の影響によって、入試問題の難易度が下がる可能性のあることが挙げられる。難易度が下がれば、トップ校を目指す学生同士では学力試験で差が開きにくくなり、内申点の重要性が増すことになる。
(2) 新スクールの開校は川崎、横浜北部地域を中心に展開
今後の新スクールの進出地域は、現在、6スクールにとどまっている川崎市や横浜北部・東部などでドミナント展開していく予定にしている。神奈川県内でも川崎市や横浜市北部地区、藤沢市は、今後10年以上、就学人口の増加が見込まれているためだ。県内の公立中学校の地域別生徒数で見ると、川崎市と横浜北部地区で全体の33.0%を占めており(2020年5月時点)、今後10年間でその比率はさらに上昇することが予想される。このため、これらの地域で進学学習塾としての圧倒的なブランド力を確立し、スクールをドミナント展開して生徒数を獲得していくことが持続的な成長を実現していくうえで最も効率的な戦略であると考えている。
従来はこれら地域で同社の条件にかなう不動産物件が見つかりにくかったが、コロナ禍の影響で経営体力のない学習塾等が撤退するケースも目立つようになってきており、同社にとってはスクール数を増やしていく好機と見ることもできる。実際、2021年春に新規開校する3スクールのうち、2スクールの物件は学習塾が撤退した後に入居する物件となっている。
(3) 高校生部門は3~4年に1校のペースで開校
高校生部門では、3~4年に1校を開校するペースを今後も継続していく方針となっている。授業の質を維持しながらスクールを増やしていくためには、教師のリソースがまだ不足しているためだ。ただ、年々国立大学や有名私立大学などの合格者実績も増えており、今後も着実な成長が期待される。
(4) 学童保育は人材育成と組織体制の強化に取り組む
「STEPキッズ」では、湘南教室で構築したノウハウをほかの2教室で共有し、システム化していくことを当面の課題としている。コンテンツの内容に関してはほかの学童保育と一線を画すほど充実しており、あとはそれを支える人材育成と組織体制の構築が成長の鍵を握ると見ている。保育に必要とされる人材は、学習塾の教師とは異なる部分も多い。子どもの可能性や潜在能力などを上手く引き出す力なども求められる。同社では「STEP」の女性講師で結婚後に育児休職から復帰してくる人材など、学童保育部門の適性に合った人材を育成する研修カリキュラムを作って、こうしたリソースを拡充していく予定にしている。将来的には、横浜や川崎など子ども人口の多いエリアへの進出を目指している。
(5) 人材採用・育成の強化
校舎数を拡大していくためには、教師となる人材の採用・育成を強化していくことが重要となる。採用については、新卒採用に加えて2017年より開始したリファラル採用(社員紹介入社)を強化している。同業他社からの入社も多く、会社の状況をある程度理解し共感して入社するので、通常の転職サイトや一般応募から入社する社員と比較して、仕事が進めやすく離職率も低くなるといった効果が期待できる。
2021年春の新卒社員は30数名程度(2020年は30名)を予定しており、中途採用も継続的に行っていく。従来は年齢層で20~30代の若手クラスがほとんどであったが、最近は経験豊富な幹部クラスの人材を採用する機会も増えており、今後の教室展開も進めやすくなると期待される。
(6) 運営方針と生徒募集活動、価格政策について
進行する少子化に対応すべく、今後も校舎規模を必要以上に拡大せず、「何よりも授業の質を大切にする」という基本方針を徹底させ、堅実な成長を目指していく。生徒募集活動については従来、生徒や保護者からの口コミが中心で、一部チラシ広告を行っていたが、今後はインターネットをメインとする体制に徐々に移行していく。教室ごとのホームページの充実とWebの活用を積極的に進め、長期的なスタンスで生徒募集・校舎運営の体制づくりを行っていく方針だ。価格政策については、競合塾がディスカウント戦略を仕掛けているが、同社は「高品質の授業とシステム」を「安売りせず」提供していく方針を継続していく。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)
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