―学校の一斉休校で「コロナ世代」誕生、オンライン学習で生徒獲得進む―
7月末といえば、学校は夏休みに入り街にはバカンスムードが漂う時期。しかし、今年は雰囲気が全く異なる。新型コロナウイルスの感染拡大による外出自粛もあり、大型の旅行を控える気分が強まるなか、夏休みも小粒なものとなりそうだ。とりわけ顕著なのが教育現場だ。今春の一斉休校で小中学校や高校は授業時間不足に陥り、地域によって差はあるものの、夏休みを大幅に短縮することで授業時間の捻出に動き出した。こうしたなか、授業時間の不足を補うための存在として脚光を浴びているのが学習塾 だ。
●公立学校のオンライン化進まず、同時双方向型の学習指導は5%程度
新型コロナ対策として3月に実施した全国一斉休校が長期化したことで、子どもの学習時間の不足が心配されている。多くの子どもの休校中での自宅学習は「1時間もやればよいほう」ともいわれる。そんな子ども達は、いまや「コロナ世代」と呼ばれ始めている。新型コロナが流行するなかでの休校の穴埋めにはオンライン授業を増やすしかないが、現実には公立学校のオンライン学習の導入はあまり進んでいない。文部科学省が4月16日時点で取りまとめた休校中の学習指導などの状況調査によると、教科書や紙の教材を活用した家庭学習が100%に達した一方、教育委員会作成の動画による授業は10%、同時双方向型のオンライン指導は5%にとどまっている。
7月に入ってからは、新型コロナ感染拡大の波が首都圏を中心に再び日本列島を襲い、東京都では感染状況の警戒レベルが最も高い「感染が拡大している」に引き上げられた。とはいえ、休校措置は何としても避けたい一方で、公立の小中学校ではいまだに授業の代替策を検討していない学校が多い。これとは対照的なのが、大手学習塾の対応だ。例えば、早稲田アカデミー <4718> では4月の段階から双方向Web授業を本格的に導入している。
●夏休みは9日間の小中学校も、それでも学習時間不足は解消せず
そんななか、長い休校で失われた学習時間を確保するために、夏休みを通常よりも短く設定する動きが広がっている。文科省のまとめによると、今年は95%の公立学校が夏休みの短縮を予定しており、最短は小中学校が9日間、高校が4日間といった具合だ。ただ、地域によっては臨時休校期間が3ヵ月あまりにも及んだため、夏休みの短縮だけでは学習時間を取り戻せない。こうしたことを背景に、「コロナでも通塾」の動きが活発化している。中学受験塾などでは例年、夏期講習を設け受験学年の6年生は朝から夕方まで連日授業を行っていたが、今年の夏は学校がある平日も夕方から夜にかけて夏期講習の授業を組み込むことで対応している。通常であれば、学年が上がるタイミングで入塾や夏期講習の生徒募集活動をするが、「今春は全く募集ができなかった分、その反動もあって、今年の夏は例年より生徒数が多い」と学習塾ウィザス <9696> [JQ]では話す。
●オンライン学習を展開するナガセや早稲アカに再評価余地
例えば、大手学習塾のなかでは、傘下に予備校「東進」や中学受験塾「四谷大塚」を運営するナガセ <9733> [JQ]や、前出の難関中高の進学塾「早稲田アカデミー」で知られる早稲田アカデミーなどの動きが注目できる。ナガセは、通信衛星を活用した遠隔地教育に約30年前から取り組み、積極的に海外進出するなど業界のパイオニア。21日に発表した21年3月期第1四半期(4-6月)連結営業損益は7億8300万円の赤字(前年同期は4億400万円の赤字)と赤字幅は拡大している。ただ、これは政府の要請を受けて、4月から5月に営業を停止したことが収入減少の主因となったもの。会社側では、自粛期間中に自宅で受講できる高校生対象の「自宅オンライン講習」、小中学生対象の「全国統一オンライン講座」の無償提供を実施し、短期間で多くの申し込みがあったことなどの考慮し、21年3月期営業利益は47億1000万円(前期比2.9%増)と2期連続の増益を見込んでいる。
一方、早稲アカは私立最難関高校といわれる早慶付属校などに、業界トップの合格者を継続的に輩出するなど高校受験で確固たる地位を築いている。ナガセを筆頭株主に持ち、中学受験で使用する教材はナガセ傘下の四谷大塚から購入している。同社株の魅力は配当性向が高く、株主還元に積極的な点だ。20年3月期は新年度生集客の最重要期が新型コロナの感染拡大に重なったため、1-3月期の売り上げは減少したが、それでも年間配当は20円(前期比実質で2円50銭増)とし、配当性向は4割以上としている。信用倍率は0.12倍と大幅な売り長で取組妙味も増している。
●スプリックスは4%台の高配当利回りが魅力
小中高校向け個別指導の「森塾」や自立学習「RED」などを全国展開するスプリックス <7030> の配当利回りは4%台半ばと高水準だ。今期から連結となり単純比較はできないが、20年9月期の営業利益は単体比で前期比59.9%減の10億9900万円の予想。ただ、第2四半期(19年10月-20年3月)も前年同期単体比で減収減益だったが、期初予想に対しては上振れて着地した。3月などの休校による売り上げ未達分を、新型コロナの自粛で人事関連費、広告宣伝費などの費用減でカバーした。5月に既に自粛要請が解除されている状況を考慮すると、業績の上振れに期待が持てそうだ。
●ジャストシステムやLITALICOは独自性評価
学習の時間を補えるのは、対面の塾だけではない。通信教育もある。大手塾がオンライン学習に積極的なのは、生徒が通信教育に流れていくことを危惧している面もある。通信教育の代表的銘柄といえば業界最大手のベネッセホールディングス <9783> だが、収益性ではジャストシステム <4686> が勝る。ジャストが運営する「スマイルゼミ」ではタブレットを用いるオーダーメイド型の通信教育が特徴だが、20年3月期営業利益は前の期比75%増の130億8400万円となるなど絶好調だ。同社は教育ICTだけでなく、自治体向けのICT投資需要も取り込んでおり、中期成長に向けた伸びしろも大きい。
また、コロナ禍により外出や人と会うことが少なくなる子どもの社会性の低下が心配されている。こういった問題を解決するのが、障害者向け就労支援や子どもの発達に合わせて教育事業を展開するLITALICO <6187> だ。少子化が進む日本では近年、特別な教育へのニーズが高まっているが、新型コロナの発生によってこうした傾向が更に顕著となりそうだ。21年3月期の最終利益は、前期に計上した事業譲渡益など一時的な要因がなくなるため4億4000万円(前期比48.1%減)を見込んでいる。ただ、本業の障害者就労支援や発達障害児教育事業は引き合いが強く、営業利益は12億円(同22.1%増)を予定している。同社が運営する「LITALICOジュニア」幼児教室・学習塾は、子どもの発達支援や保護者向けのペアレントトレーニングを行っているが、新型コロナをきっかけにサービスをオンラインでも受けられるようになっている。
[訂正]
早稲田アカデミー <4718> の記事中の20年3月期配当に関して、「年間配当を35円から20円に減配した」との表現がありますが、同社は19年4月1日に1対2の株式分割を行っています。このため「年間配当は実質2.5円の増配」です。謹んで訂正させていただきます。
(誤)「20年3月期は新年度生集客の最重要期が新型コロナの感染拡大に重なったため、1-3月期の売り上げ減少による業績の未達の影響で年間配当を35円から20円に減配したが、それでも配当性向は4割以上をキープしている。」
(正)「20年3月期は新年度生集客の最重要期が新型コロナの感染拡大に重なったため、1-3月期の売り上げは減少したが、それでも年間配当は20円(前期比実質で2円50銭増)とし、配当性向は4割以上としている。」
株探ニュース
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