2. 事業モデルと収益構造
BSのチャンネルには無料放送と有料放送があるが、日本BS放送<9414>は無料放送を行っている。同社のほかには民放キー局系列の5社とTwellVのみが無料放送を行っている。すなわち同社は、キー局系列に属さない独立系であることに加えて、無料放送という2つの特徴を持ったBS放送局であると言える。
(1) 収入の構造
無料放送を行っている同社の収益構造は広告収入(スポンサー収入)が基本となっており、この点では地上波のテレビ局と同様である。すなわち「広告枠」が同社の商品であるが、それらは、タイム枠、持込枠、通信販売枠などに細分化することができる。同社の売上高内訳の開示上は、タイム収入、スポット収入、その他に分類されている。2020年8月期第2四半期実績ではタイム収入が74.4%、スポット収入が22.3%、その他が3.3%となっている(個別業績の売上高構成比)。そのほかの収入はアニメ製作委員会への出資に伴う配当金や番組コンテンツ販売による収入などである。
同社は創業以来、同社本体でBS放送という単独セグメントで事業を営んできていたが、2018年1月に児童書特化型の出版社である(株)理論社と(株)国土社の全株式を取得して連結子会社化した。これに伴い、2018年8月期第2四半期決算から連結決算へと移行した。連結子会社2社の合計売上高は約10億円と一定の規模があるため、BS放送事業の動向の正確かつ時系列的な把握のためには同社本体の個別業績を対象とするのが適切と考えられる。同社自身もまた情報開示においては個別業績を中心に分析結果を示している。
BS放送事業の収入源である広告枠の販売動向を左右するのは、認知度(視聴者によるBS各局及び番組についての認知度合い)で、両者には明確な相関関係が読み取れる。この理由は、広告主がより高い広告効果を求めて、認知度調査や前出のBS視聴世帯数調査などの結果を参考にしながら出稿先のBS局や番組を選定してくるためと考えられる。
同社の認知度は毎年着実に向上しており、先行するキー局系5社の売上高(150億円~180億円のレンジ)まであと一歩に迫った状況にあるが、ここにきて事業環境の変化が同社の業績成長にも影響を及ぼしている。売上高150億円の中期経営計画目標実現に向けて正念場を迎えているというのが今現在の同社の状況だ。
(2) 費用の構造
BS放送では放送衛星を通じて日本全国に電波を送ることができるため、1)全時間帯において全国約4,512.4万世帯(2019年度)で同時に同一の放送を視聴可能であること、2)地上波とはまったく異なるコスト構造により高効率の広告ビジネスが可能となっていること、の2つをBS放送の大きな特長として挙げることができる。
コスト構造の面ではBS放送と地上波放送とで大きな違いがある。地上波の放送局の場合は、各地に放送用電波塔を建設し中継基地等を経由する、いわゆるバケツリレーによって電波を届けることになる。したがって、地上波放送においてはネットワーク維持費が原価のなかで大きな割合を占める。それに対してBS放送の場合は、放送衛星から直接全国の視聴世帯に電波を送るためネットワーク維持費は存在しない。一方で放送委託費や技術費などの放送関連費用が発生するが、地上波とBS放送とでは放送コストの面では相当の差があることになる。
BS局と地上波局のコスト構造の違いは、放送局の“商品”である広告枠の価格の差にストレートに反映されることになる。一般論として、広告単価がBS放送と地上波放送とでは10倍~20倍の差があるとも言われている。しかし放送コストが低いため、広告単価がそれだけ低くてもBS放送局の利益率は地上波放送局のそれを上回っていると見られる。
重要なことは、BS放送の広告単価が地上波放送と比べて10~20分の1に固定されているわけではないということだ。同社は半年ごとに広告単価の改定交渉を行っているが、同社の広告媒体としての価値向上を反映して、広告単価は上昇基調にある。同社が広告単価引き上げに成功しているのは、価格差よりも認知度上昇等による高い広告効果が評価されたことが主因であるためである。
費用に関して同社はもう1つの特長を有している。それは、コストコントロールが厳格に行われているという点だ。同社の主要な費用科目は、「番組関連費用」「放送関連費用」「広告関連費用」の3つであり、このうち「放送関連費用」は、BS放送の特長として極めて低位かつ安定的に推移している。また、「番組関連費用」と「広告関連費用」については、売上高に対する一定水準を目安として持つ形でコントロールされてきた。こうした厳格なコストコントロールが可能であることも、BS放送特有の低コスト構造に起因しているものと見ている。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 村瀬智一)
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