(3) 東南アジア金融事業
Jトラスト<8508>の2023年12月期の営業収益は38,414百万円(前期比33.8%増)、営業損失は1,019百万円(前期は248百万円の利益)となった。営業収益は、銀行業における優良な貸出金の増加や、保有有価証券の増加に伴う利息収益増加などから増収となった。営業利益は、銀行業における営業収益の増加に加えて、審査体制の見直し等により貸出債権のリスク低下が図れたことや、金利上昇による調達金利の上昇を見込み貸出金利の引き上げを柔軟に行い得る体制を構築したものの、預金残高の増加及び基準金利の上昇による預金利息費用の増加が上回ったことやサービサーで貸倒引当金を計上したこと等により損失となった。
a) Jトラスト銀行インドネシア
インドネシアにおいて長期間にわたって預金保険機構の管理下にあったJトラスト銀行インドネシアについては、最優先課題の1つとして再生に取り組んできた。同行の増資を行うとともに、不良債権の回収に特化した新会社Jトラストインベストメンツインドネシアを設立して、同行からの不良債権を切り離して譲渡することにより、財務体質の改善を図るなど同行の再生を加速してきた。ただ、再生が計画どおりに進まなかったことから、2019年3月期に、買収前からの負の遺産を含めた不良債権を前倒しで一括処理する抜本的な対応に踏み切った。なお、韓国で経営破綻した貯蓄銀行を2年半で通期黒転させた現 代表取締役副社長 千葉信育(ちばのぶいく)氏がインドネシアに入って経営再建を進めている。
Jトラスト銀行インドネシアについては、営業収益は2023年12月期には234億円(前期比75億円増)となった。一方、世界的な金利上昇と金融当局からの流動性確保の指示により預金コストが増加し、将来を見据えて保守的に貸倒引当金を積み増して不良債権処理を進めたことなどから、営業利益は2023年12月期には10億円(同2億円減)となった。法人大企業を中心とする貸出残高は2023年12月末には2,197億円と前期比22%増で着地した。不良債権化抑制と回収による不良債権金額の圧縮に加え、貸出残高の増加もあり、不良債権比率はインドネシア銀行業界平均の2.4%(2023年11月末)を下回る0.99%に低下し、貸倒引当金を控除したネットでは0.69%となった。2023年12月末に貸出残高が前月比減少したのは、金融当局より銀行に対して年末に流動性を確保するように指示があったためで、2024年1月以降は拡大基調に戻っている。2020年1月以降の新体制で積み上げた貸出残高は全体の93.83%まで拡大したが、その不良債権比率は0.10%の低水準に留まり、不良債権はほぼ発生していない。リスクマネジメントを強化した成果が現れていると言えよう。
預金残高も2,945億円(2023年12月末)に増加した。大口の高金利預金を抑制する一方、ショッピングモールでのキャンペーンなどにより小口の低金利預金を増やしたことで、資金調達額は主な競合銀行と比べて大幅に伸長した。一方、政策金利引き上げの影響を受けて預金金利は5.65%とやや上昇したが、インドネシアの政策金利6.00%より低水準で推移していることもJトラスト銀行インドネシアの黒字化に貢献している。なお同行は、2020年1月にインドネシア証券取引所(IDX)で取引再開を果たしている。
インドネシアのサービサー2社、Jトラストインベストメンツインドネシア及びターンアラウンドアセットインドネシアの請求債権残高は、不良債権の買取りが順調に進んだことから、2023年12月末には880億円と順調に増加している。Jトラスト銀行インドネシアから不良債権を引き継いだJトラストインベストメンツインドネシアは、2023年12月期には貸倒引当金の積み増しにより営業損失を計上した。一方、韓国系の金融会社で、主に消費者ローンの不良債権回収を担っているターンアラウンドアセットインドネシアは3期目で黒字化し、今後は利益貢献を見込んでいる。
2023年11月、ジャカルタで開催されたジャカルタ日本祭り(JJM)に参加した。これは、日本の文化や“祭り”の体験・交流を通じ、日本とインドネシア市民の交流と相互理解の促進を目的としたイベントである。また、女子ゴルフ国際イベント「第2回シモーネ アジアパシフィック カップ2023」が開催され、同行が第1回に続きスポンサーとして参加した。これは、アジア太平洋地域の女性ゴルファーの能力・スキルの向上、ゴルフを通じた各国間のスポーツ交流や友好関係の促進、健全なスポーツ文化の普及・浸透を目的として開催されたイベントである。このようなイベントへの参加は、同行の知名度向上に役立っている。
b) Jトラストロイヤル銀行
2019年8月に、同社グループ6ヶ国目の進出先となるカンボジアの商業銀行ANZ Royal Bank (Cambodia)の株式55%を取得し、商号をJトラストロイヤル銀行に変更した。同行の資産規模は、カンボジア42行中TOP10に入る(2018年12月末当時)大手優良銀行である。2023年12月期の営業収益は138億円(前期比21億円増)であった。営業利益はドル金利上昇によるコスト負担と、一部の債権が不良化したことで13億円(同3億円減)となった。貸出残高は、戦略的にコントロールし、2023年12月末には1,431億円と横ばいに留まった。不動産市況の冷え込み等により一部の債権が不良化し、不良債権比率は6.6%に上昇したため、貸倒引当金を積み増し、貸倒引当金を控除したネットでは4.0%である。今後は、担保物件の競売や法的手続き等による回収とモニタリングの強化による不良債権比率の低下に注力する計画である。
預金残高は1,459億円に減少し、預金金利は4.0%である。高金利預金を一部開放するなど、引き続き戦略的にコントロールしている。カンボジアでは信用力の高い米ドルが主に流通しており、銀行の預金金利は米国金利に連動して上昇傾向にあり、預金獲得競争が続いている。Jトラストロイヤル銀行では「Goal Saving」「The One」「Premier Savings Plus」などの普通預金商品を開発するなど、預金獲得施策を推進している。
2023年10月にリリースした上位富裕層向け預金商品「Signature Banking (シグネチャー バンキング)」は好評である。コピチ市庁舎で開催された第10回カンボジアブックフェアでは識字能力向上を支援し、4日間で集まった約20万人の参加者に、同行のブランドや商品・サービスを紹介する機会となった。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 国重 希)
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