1. 企業理念
「CASE」や「MaaS」の考え方が広がるとともに、カーボンニュートラルに対する社会全般の意識や、所有からシェアやリースなどへとシフトする顧客の自動車に対する考え方、店頭からオンラインへという顧客の購買プロセス、人口減少や多様な働き方など、日産東京販売ホールディングス<8291>を取り巻く事業環境が変化の速度を上げている。これに対して同社は、EV普及によるカーボンニュートラル社会の実現への貢献、個人リースのノウハウを活かした販売、店舗ネットワークや試乗車を活かしたモビリティ事業の開発、リアルとデジタルを融合しブランド体験を促進する店舗づくり、働き方改革や生産性向上に向けた業務・運営体制の改善などを取り組むべき課題としている。
こうした課題の解消に加え、移動の楽しみや安心・安全・快適な運転といった普遍的価値を提供し続けるため、同社は新たな企業理念「モビリティの進化を加速させ、新しい時代を切りひらく 笑顔あふれる未来のために、わたしたちは走り続ける」を掲げた。こうした企業理念の実現へ向けて、お客さまを笑顔に・働く仲間も笑顔に・チームワーク・プロフェッショナル・チャレンジ・考えながら動く・地域との共生・社会的責任という8つの大切にする価値観を重視するとともに、長期視点に立ったサステナブル経営に向けて、気候変動への対応、安心・安全な社会の実現、人権の尊重と人的資本の充実、地域社会への貢献という4つのマテリアリティを特定し対処していく方針である。こうした取り組みを着実に実行していくための通過点として、同社は4ヶ年の中期経営計画(2024年3月期~2027年3月期)を策定した。
2027年3月期営業利益目標はすでに射程圏
2. 中期経営計画
ただし、中期経営計画の目標のうちいくつかはすでに達成してしまった。当初、まず新車販売台数をコロナ禍前の水準に戻して本業であるディーラー事業で増収増益を目指し、ストックビジネスで収益を上積みし、コスト面では人財・デジタルへの投資を強化する一方で設備費・経費の最適化を図り、2027年3月期に売上高1,550億円(2023年3月期1,376億円)、営業利益65億円(同63億円)、配当性向30%以上(同30.5%)など中期財務目標の達成を目指した。また、カーボンニュートラルへ向けた動きも推進し、乗用車の電動化比率90%以上の維持(同92.3%)、EV販売によるCO2排出量1.6万トン削減という長期非財務目標の達成も同時に目指した。このうち、中期財務目標の営業利益は2024年3月期に達成する見込みで、売上高も達成が視野に入ってきた。電動化比率についてはすでに目標を達成している。これは、2023年3月期~2024年3月期第2四半期の業績が想定以上に好調だったことが要因である。今後、中期経営計画はバージョンアップされるかもしれないが、さらなる高みに向けて、ほかの目標や投資計画、重点戦略などの定量目標について注目していきたい。
既存領域、注力領域への投資を積極化
3.投資計画
中期経営計画のなかで同社は、既存領域への投資に加え注力領域への投資も積極化し、4年間で総額300億円規模の投資を実行する予定である。内訳は、持続的成長のための既存ビジネス強化に向けた、ネットワーク刷新や環境対応、事業ポートフォリオ再構成に250億円、変革への推進力となる人財・DXに向け、ITによる効率/生産性向上や事業の多角化、ベストプラクティス強化に20億円、新規事業への参入や資本業務提携による事業領域拡大に向けて、モビリティ関連やEV周辺事業などに30億円を投資する考えである。こうした投資により収益を向上し、2027年3月期にはROE(自己資本当期純利益率)7.0%を計画している。そのため、ネットワークの刷新や新たな顧客接点の構築、効率化投資などにより営業利益率4.2%、収益拡大に向けた投資と資産の有効活用(不要な資産の圧縮)によりROA(総資産当期純利益率)3.4%、財務安全性を確保しつつ資本構成の最適化を目指すことでD/Eレシオ0.26倍を目指す。ただし、好業績やEVの普及など同社への追い風を考えると、定量目標には保守的な印象があるため、営業利益率はもちろん、全体的にもう少し高くてもよかったかもしれない。また、中期経営計画を通じて利益が大きく上振れてくれば、投資計画の前倒しやより積極的な投資、株主還元などに回っていく可能性もあると考える。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 宮田仁光)
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