―拡大する都市化が招く災害級の暑さ、クールダウン待ったなしで出番到来―
今年も暑い夏がやって来る。近年では、気温が40度を超す日も出現するなど、まさに日本列島はヒートアイランド(熱の島)となる。ヒートアイランド現象とは「都市の気温が周囲よりも高くなる」状況を指す。人工的な構造物や、その排熱が原因となり気温上昇を招く現象で、都市化の進展がこれを助長する格好だ。熱中症による健康被害に加え、ゲリラ豪雨など集中豪雨の発生も、こうした異常ともいえる気温上昇の影響が大きいと言われている。急速に亜熱帯化する日本の夏だが、災害級の暑さに見舞われるなか、「ヒートアイランド対策」は待ったなしの状況だ。対策関連株を追った。
●見えない解決の糸口
言われて久しいヒートアイランド現象だが、なかなか解決の糸口が見えない。気象庁によると、同現象の要因として、都市の産業活動や社会活動により膨大な熱が排出されることや、建築物の高層化・高密度化により地表面からの放射冷却が弱まることなどを挙げる。また風通しが悪くなることで、地表面に熱がこもりやすく、気温の低下が妨げられるという。
関東においては東京都市圏を中心に高温域が広がっているが、都市化の波は四方八方に広がりメガシティーを形成し拡大一途。東京だけではない。来年に大阪・関西万博を控える関西圏はもちろん、全国各地で急速な都市化が進んでいる。もうどうにも止まらない状況なだけに、ヒートアイランド対策は後手後手に回っている。
かつて、夏休みに入ると「朝の涼しいうちに、宿題やっちゃいなさい」と母親に繰り返し言われたものだが、現代では熱帯夜を経て早朝から気温がぐんぐん上昇し、もはや「朝の涼しいうち」などはないに等しい。昭和は遠くなりにけりと言ったところだが、気温の変化は夏休みの宿題事情をはじめ、多くの社会的活動に影響を及ぼしている。
しかし、このテーマとしてのヒートアイランド対策関連は、最近の株式市場では少々影が薄い。世界的にカーボンニュートラルが求められ「地球温暖化」対策関連株が脚光を浴びるが、一言で言えばこちらは“地球規模”、そして人工的な構造物や排熱を要因とするヒートアイランド現象は“都市規模”での対策となる。当然のことながら「猛暑関連」の一角であることも忘れてはならない。
●東京五輪で「遮熱性舗装」にスポットライト
都市の気温上昇を抑制する対策が、株式市場でも近年注目を集めたのが、2021年の真夏の開催となった東京五輪だった。競技のなかでも、特に公道で実施するマラソンや競歩で、夏の日差しを直接浴びる道路は過酷な環境となり、選手はもちろん、観客などへの影響も心配され、熱中症などによる不測の事態も懸念された。こうしたなかスポットライトが当たったのが、日本で開発され路面の温度上昇を抑える遮熱性舗装だった。
遮熱性舗装は多くの道路会社が手掛けるが、三井住建道路 <1776> [東証S]の「サンクールR」は実績も豊富だ。同社の遮熱性舗装は、路面温度の低減効果に加え、排水機能や騒音低減効果との両立が可能となる多機能型の舗装で、ヒートアイランド現象の解決策の一つとして期待されている。同社の25年3月期の連結営業利益は前期比11.6%増の11億1000万円を計画。株価は下値模索の展開が続くが、節目の1000円近辺では押し目買いニーズも散見され、じわり値ごろ感も。
東亜道路工業 <1882> [東証P]の遮熱性舗装「ヒートシールド」は、アスファルト舗装の路面上に遮熱性塗料を散布する工法だ。車道はもちろん、歩行者道路や駐車場でも使用され用途が広いだけに活躍期待が高まる。25年3月期の連結営業利益は前期比9.6%増の60億円を計画。受注競争の激化や原材料費の高騰など厳しい事業環境が続くが、創立100周年となる30年に向けて、脱炭素素材の開発や路面太陽光発電舗装、走行中ワイヤレス給電技術など新分野にも果敢に挑戦しており目が離せない。株価は今月14日に直近安値1134円をつけた後は、急速に切り返す展開。
そのほか遮熱性舗装では、「アーバンクール」の世紀東急工業 <1898> [東証P]、遮熱性舗装ブロック「ランドサーマス」を持つコンクリート2次製品大手の日本興業 <5279> [東証S]などにも活躍の舞台が広がりそうだ。
●塗って温度上昇抑制へ
遮熱塗装もヒートアイランド対策として有効だ。塗料メーカーが中心となるが、3月には関西ペイント <4613> [東証P]が、住宅市場向け建築用塗料の主力ブランド「アレスダイナミックシリーズ」に外壁用塗料「アレスダイナミックTOP遮熱」などを追加すると発表。住宅塗り替え市場において、遮熱塗料への注目が高まっているとし攻勢を強めている。太陽からの「赤外線」と「紫外線」を制御することで、真夏の外壁表面の温度上昇を抑えて室内の住環境を快適にするという。同社の25年3月期連結営業利益は前期比8.5%増の560億円を計画しており、連続での過去最高益となる見通しだ。株価は、今月10日に2749円まで買われ年初来高値を更新。現在は上昇一服、2500円台でもみ合う展開だ。
そのほかの関連銘柄では、シリコン樹脂塗料の強力な結合力により、過酷な環境下でも耐久性を保持することが可能な屋根用遮熱塗料「サーモアイ」シリーズの日本ペイントホールディングス <4612> [東証P]、光を反射し熱を放射する遮熱・断熱塗料「エコクール」シリーズを手掛ける大日本塗料 <4611> [東証P]、数多くの遮熱塗料を展開する菊水化学工業 <7953> [東証S]などにも注目だ。
新たなサービスも始まっている。今月21日には、事務用品大手のキングジム <7962> [東証P]が、CO2排出量・電気代削減に繋がる法人向け「エアコン室外機への遮熱塗料 塗装サービス」事業をスタートしたと発表。夏場の室外機の温度上昇をしっかり抑え、一度施工すると13~15年の耐久性があり、施工費用を数年で回収できるというサステナブルなサービスだ。また、マクニカホールディングス <3132> [東証P]傘下のマクニカも、4月に塗るだけで省エネとなる遮熱断熱塗料「マクニカット」の販売を開始したと発表している。
●屋上緑化に再び関心
大阪・関西万博(25年4月13日~10月13日)も、真夏を通過しての開催なだけに猛暑や熱中症対策は必須だ。そうしたなか、注目を集めているのが大阪ガス <9532> [東証P]が出資するスタートアップのSPACECOOL(東京都港区)だ。日本ガス協会のガスパビリオンに、同社などが開発したゼロエネルギーでの冷却が可能な放射冷却素材を活用した膜材料が採用され話題となっている。万博開催が近づくなか、東京五輪同様に暑さ対策に絡む関連株には熱い視線が向かう可能性もあり、さまざまな分野に目を配っておく必要がありそうだ。
屋上・壁面緑化もヒートアイランド対策として効果があると言われている。一時は、株式市場でも関心が高まったが、ここ数年は話題に乏しかった。しかし、最近では虎ノ門ヒルズをはじめ、さまざまな施設での緑化が話題を呼び、徐々に関心も戻りつつある。大阪・関西万博でも、会場のシンボル大屋根リングで、屋上緑化を採用することが伝わっている。
こうしたなか、大林組 <1802> [東証P]は緑化・ヒートアイランド対策として、さまざまな技術を打ち出し注目されている。薄層緑化システム「Green Cube」シリーズや、屋上緑化と比較して視覚的効果が高く、建物表面の温度上昇の抑制にも有効な壁面緑化システム「Green Cube Wall」(グリーンキューブウォール)などを提案。また、打ち水効果により涼しく快適な屋外空間を造り出す湿潤舗装システム「打ち水」シリーズなど、ヒートアイランド現象と、熱中症の原因となるような暑熱環境の悪化を改善する技術でもニーズを捉えている。同社の25年3月期連結営業利益は前期比17.2%増の930億円を予想。株価は、5月14日に1958円まで買われ年初来高値を更新した後は一服も、1800円を挟み頑強展開となっている。
そのほかの関連銘柄としては、防水性、耐候性に優れた屋根緑化システムで三晃金属工業 <1972> [東証S]、屋上緑化に欠かせない防水シート大手のロンシール工業 <4224> [東証S]などが挙げられる。また芝生、草花の植栽関連でサカタのタネ <1377> [東証P]、カネコ種苗 <1376> [東証S]も関連株の一角として見逃せない。
株探ニュース
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