1. 2023年3月期の業績見通し
ウェーブロックホールディングス<7940>の2023年3月期の連結業績は、売上高で前期比16.2%増の24,400百万円、営業利益で同9.2%減の590百万円、経常利益で同21.4%減の710百万円、親会社株主に帰属する当期純利益で同252.6%増の2,310百万円となる見通し。売上高、営業利益は期初計画を、経常利益は2022年7月29日に上方修正した会社計画を据え置き、親会社株主に帰属する当期純利益については、第2四半期累計業績が会社計画を上回ることを受け、10月31日にさらに70百万円上方修正した。なお同社は、2023年3月期を2024年3月期以降の成長を確かなものとする基盤構築の期間と位置付け、生産体制の再構築、マテリアルソリューション事業の収益力強化、成長事業への投資の実行に注力している。
原材料価格の指標となる下期のナフサ価格は81,800円/kl、為替は135円/米ドルを前提としている。ナフサ価格は第3四半期に入り7万円台/klまで下落するなど状況が改善しているものの、原材料価格へ反映されるまでには一定期間が必要であることや、為替が円安で推移していることなどから、売上高、営業利益は期初計画を、経常利益については、2022年7月に上方修正した計画を据え置いた。通期予想に対する進捗率は売上高で46.8%、営業利益で76.0%と利益面での進捗が高くなっているが、マテリアルソリューション事業が上期偏重型の収益構造であることや、アドバンストテクノロジー事業の備蓄生産実施による増益が影響していると思われる。マテリアルソリューション事業の下期の売価転嫁効果や、アドバンストテクノロジー事業の金属調加飾フィルムの販売動向が、会社計画達成のカギを握ると見られる。
(1) マテリアルソリューション事業
マテリアルソリューション事業の売上高は前期比19.2%増の19,500百万円、営業利益は同6.3%減の890百万円とする期初計画を据え置いている。通期予想に対する進捗率は売上高で47.5%、営業利益で51.3%と過去3年間の平均進捗率(売上高53.0%、営業利益67.9%)※を下回っており、現状の市場環境からすると下振れする可能性が高いが、今後の原材料価格上昇分の売価転嫁効果次第と弊社では見ている。増収要因としては、売価転嫁効果に加え、子会社化したエイゼンコーポレーションで10億円程度の寄与を見込んでいる。
※平均進捗率=(直近3期間の第2四半期累計合計額)÷(直近3年間の通期合計額)
既存事業のうち、リビングソリューションは2023年3月末まではオフシーズンのため、下期も低調が続く可能性が高い。ただ、張替用防虫網の特需による反動減の影響一巡により、2024年3月期は数量増が期待でき、値上げ効果も相まって増収に転じるものと予想される。ビルディングソリューションは、売価転嫁が下期にどの程度進むか次第ではあるが、収益性の低い一部製品の撤退などから、減収となる可能性がある。一方、インダストリアルソリューションは防炎垂壁用高透明不燃シートの好調が持続する見通し。また、パッケージングソリューションは売価転嫁の浸透により増収を見込み、アグリソリューションは輸入品の販売動向に注視したい。
利益面については、原材料価格高騰分のすべてを売価転嫁値上げで吸収できないことから、減益となる見込みだ。同社では、収益基盤を強化するため、各製品の収益性や付加価値について見直し、自社で継続していくべき製品であるかも含めて社内で議論を進めている。課題を抽出して改善策を打ち出し、市況が好転した際の収益回復力を高めていく。
新規事業として取り組んでいる地中熱ビジネス※については、2023年3月期は当初400百万円の売上目標を立てていたが、見積もりから受注まで想定以上に時間を要していることもあり、2023年3月期は事業拡大に向けた体制強化に注力する方針に切り替えた。構造計算など設計を行う技術者や技術提案のできる営業担当者の採用に取り組んでおり、数名を新たに採用した。これにより、複数の受注案件を同時並行で進めることが可能となる。現在の主なターゲット市場は、ビニルハウスの空調システムなどアグリ分野としているが、工場や大型ショッピングセンターなどの空調設備としても有効だ。同社では自社の静岡工場への導入を進めており、エネルギー源として地中熱を利用し、工場内のビニル間仕切りシートと組み合わることでエネルギー効率を最適化する。脱炭素社会に取り組む企業や自治体が増えるなか、地中熱を利用した高効率エネルギーシステム「ヒートクラスター(R)」の引き合いが増していることから、エイゼンコーポレーションと協業しながら地中熱ビジネスの拡大を目指す。
※地中熱を利用した高効率エネルギーシステム「ヒートクラスター(R)」の設計・施工、販売事業。「ヒートクラスター(R)」とは、地下10~200mの地中熱を利用したヒートポンプ方式の冷暖房システムで、年間を通して温度がほぼ一定となる地中に熱交換システムを設置し、冬の暖房時には外気より温度の高い地中から採熱し、夏の冷房時には外気より温度の低い地中に放熱することによって、既存の空調システムに対して大幅な省エネ化を実現できる。
(2) アドバンストテクノロジー事業
アドバンストテクノロジー事業の売上高は前期比4.9%増の4,900百万円、営業利益は同12.8%増の390百万円とする期初計画を据え置いている。通期業績に対する進捗率は売上高で44.5%、営業利益で87.1%であった。売上高は仕入れ販売が落ち込んだことから進捗がやや鈍化しているものの、金属調加飾フィルムの販売の好調により営業利益は順調に進捗している。金属調加飾フィルムの販売は下期も好調が続く見通しであることから、営業利益は計画を達成する可能性が高いと弊社では見ている。
なお、金属調加飾フィルムの需要拡大に対応するため、同社では生産能力の増強に注力している。金属調加飾フィルムを利用した自動車向け部品生産能力増強を目的に、名古屋工場の近隣に第二工場を新設し、2022年9月に稼働開始した。名古屋工場、名古屋第二工場では古河工場で製造した金属調加飾フィルムを使用し、自動車向けプラスチック部品を製造する。この投資により、自動車向け部品の生産能力は4割(月25,000台分から35,000万台)増強された。このほか、自動車向け金属調加飾フィルムの生産能力増強を目的に、2022年中に古河工場の生産能力を6割(月150,000mから250,000m)増強する。金属調加飾フィルムの生産能力は現状でも余裕があるものの、中長期的な需要拡大を見据え、投資を実行する。なお、上記の設備投資額は合計1億円となる。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)
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