―サプライチェーン見直しで再脚光、製造業から医療、住宅まで広がる活用分野―
さまざまな業界で 3Dプリンタービジネスへのアプローチが強まっている。その用途先は製造業にとどまらず、医療や食品などの分野に広がり、最近では住宅建設に活用される事例も出てきた。こうした背景には、グローバルな競争力強化に向けて付加価値の高い製品や部品の製造が求められているほか、労働人口の減少や技術の継承、新型コロナウイルスの感染拡大やロシアのウクライナ侵攻に伴うサプライチェーン(供給網)の見直しといった課題の解決策として、3Dプリンターの少量多品種を短納期で生産できる特徴が注目されているからだ。6月下旬には「次世代3Dプリンタ展」が開催されることもあり、関連銘柄に目を配っておきたい。
●製造現場のDX実践に欠かせない機器
3Dプリンターとは、3次元ソフトウェアで作成された3次元データをもとに、スライスされた2次元の層を1枚ずつ積み重ねていくことによって立体物を成形することができる機器を総称したもの。複雑な形状や少量生産に対応でき、液状の樹脂を紫外線で少しずつ硬化させる「光造形方式(SLA)」、高出力のレーザー光線を粉末状の材料に照射して焼結させる「粉末焼結積層造形方式(SLS)」、熱で溶かした樹脂を積み重ねる「熱溶解積層方式(FDM)」など多くの種類がある。基本的には3Dデータさえあれば自由に造形物を出力することが可能で、生産の柔軟性向上や在庫削減につながるほか、供給不足を解消できるといったメリットが挙げられる。
政府が5月31日に閣議決定した「2021年度ものづくり基盤技術の振興施策(ものづくり白書)」によれば、製造業を取り巻く環境はカーボンニュートラルの実現に向けた取り組み、デジタルトランスフォーメーション(DX)、レジリエンス(困難や脅威に直面している状況に対して、うまく適応できる能力)強化の重要性などから急激に変化している。その対応策のひとつとして注目を集めているのが、製品開発のスピードアップ及び変種・変量や生産プロセスの柔軟性につながる3Dプリンターだ。
●歯科矯正用マウスピースを製造する事例も
企業の関心は依然として高く、直近の活用事例では鹿島建設 <1812> [東証P]が金沢工業大学と共同で3Dプリンターと二酸化炭素(CO2)を吸収するコンクリートの技術を組み合わせる研究を始めたほか、ヤマトホールディングス <9064> [東証P]傘下のヤマト運輸は歯科矯正サービスを手掛けるDRIPS(東京都千代田区)と3Dプリンターを活用した歯科矯正用マウスピースの製造・配送サービスをスタート。三菱電機 <6503> [東証P]は宇宙で3Dプリンターを使って人工衛星のアンテナをつくる技術を開発し、高周波熱錬 <5976> [東証P]は誘導加熱コイルの製作用に3Dプリンターを導入すると発表している。
また、サンワカンパニー <3187> [東証G]はこのほど、日本初の3Dプリンター住宅メーカーのセレンディクス(兵庫県西宮市)と業務提携した。同社は22年9月期から「新事業の創造」を経営方針のひとつとして、スペースデザイン事業(住宅事業、マンションリノベーション事業)の収益化を基本戦略として取り組んでおり、今回の提携で新たなシナジーを生み出す構えだ。
●JMCは3Dプリンター出力事業が好調
このほかの関連銘柄としては、3Dプリンター及び砂型鋳造による試作品や各種部品・商品の製造、販売などを展開しているJMC <5704> [東証G]に注目したい。足もとの3Dプリンター出力事業は顧客の試作・開発や展示会、催事に伴う需要が徐々に増加しており、5月13日に発表した22年12月期第1四半期(1-3月)の単独営業損益は9500万円の黒字(前年同期は400万円の赤字)で着地。通期業績予想は従来の2億7300万円(前期比2.7倍)を据え置いたが、進捗率は34.8%となっている。
ソディック <6143> [東証P]は放電加工機の大手で、金属3Dプリンターなども手掛けている。4月には多様化する金属3Dプリンターへの要求に対応するため、ダイカスト金型向けの新素材「SVM(Sodick Versatile steel for Mold)」を発売すると発表した。新素材は耐ヒートチェック(過熱と冷却が繰り返されることにより生じる表面亀裂)性及び耐溶損性を高めていることから、部品寿命の向上や金型のメンテナンス負荷の低減につながるという。
ミマキエンジニアリング <6638> [東証P]は広告・看板向け産業用インクジェットプリンター大手で、UV硬化インクジェット方式フルカラー3Dプリンターも手掛けている。5月11日には3Dプリンター用ピュアクリアインク「MH-110PCL」の発売を発表。同社は中長期成長戦略のもと、3Dプリンター販売チャネルの開拓・強化を進める意向だ。
セイコーエプソン <6724> [東証P]は3月、産業用3Dプリンターを開発したと発表、同市場に参入した。この3Dプリンターは独自の材料押出方式を採用し、一般的に価格が安く入手しやすいペレット材(樹脂・金属)、環境に配慮したバイオマスペレット材、高い耐熱性を実現できるPEEK材など、さまざまな汎用的な材料を使用でき、造形部品の精度と強度の両立も実現している。
ナブテスコ <6268> [東証P]グループの3Dプリンターメーカーであるシーメットは、従来価格の半分の価格帯で高精度高精細造形可能な樹脂「TSR-851」を5月下旬から販売を始めた。この樹脂は現存する3Dプリンターのなかでも最上位の造形品質を発現しつつ、造形コストを削減できるため、試作開発業務のコスト競争力の向上につながるという。
アズワン <7476> [東証P]は今春から、三井金属鉱業 <5706> [東証P]及びオーストリア企業と協働し、ファインセラミックス3Dプリンティング受託サービスを開始した。背景には宇宙航空機や自動車の部品の軽量化・複雑形状化、歯科・再生医療におけるオーダーメイド品のニーズの増加など、さまざまな分野で高精度・複雑形状なセラミックス部品の需要が高まっていることがある。
●新東工、ロランドDGなどにも注目
また、6月22日から24日にかけて東京ビッグサイトで開催される「第5回 次世代3Dプリンタ展」に出展する企業も見逃せない。
現時点では新東工業 <6339> [東証P]グループの新東Vセラックス、C&Gシステムズ <6633> [東証S]、ローランド ディー.ジー. <6789> [東証P]、キーエンス <6861> [東証P]、桜井製作所 <7255> [東証S]などが出展を予定している。
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