―脱炭素に向け走り出す世界、動力の源である“電池”が地球環境を左右する時代に―
「脱炭素社会」に向けて世界が走り出した。これが株式市場でも有力な物色テーマとして投資マネーを誘引し始めている。次期米大統領の座が確実視されているバイデン前副大統領はクリーンエネルギー関連に4年間で2兆ドル、日本円にして200兆円を超える過去最大規模のインフラ投資を行う計画を掲げており、来年1月20日の大統領就任早々に地球温暖化を防ぐ国際的枠組み「パリ協定」に復帰する意向を示している。欧州でも経済の再生を環境投資に委ねる「グリーンリカバリー」を打ち出した。また、日本では菅政権が2050年までに温暖化ガスの排出量を実質ゼロにすることに正式に言及し、欧米に負けじと環境保全に対する積極姿勢を前面に押し出している。
●再生エネルギーの推進待ったなしの時代に
二酸化炭素(CO2)排出量は中国と米国が世界で双璧となっているが、日本もインド、ロシアに続く高水準のCO2排出国である。日本は省エネ大国として名を馳せ、その技術力は世界でも先行しているが、脱炭素への取り組みでは後れが目立った。しかし、バイデン氏が次期米大統領に当確となり、カーボンニュートラルに向けた潮流がグローバルに発生している現在、それに対応した動きが政治的にも待ったなしで求められる局面となっている。
カギを握るのは再生可能エネルギー の活用だ。太陽光や風力、水力、地熱、バイオマスといった地球上に存在する自然の力で定常的に補充することが可能なエネルギーを指すが、これを使うことにより、CO2の排出量を抑制することができる。
衆議院では19日、地球温暖化対策に挙国一致体制で取り組む決意を示す「気候非常事態宣言」の決議を採択した。脱炭素を必須課題として与野党が足並みを揃える状況にあり、今後、政府は再生可能エネルギー活用を促す技術革新及び環境関連投資を支援し、成長分野への育成を後押しする。
●脱炭素社会で加速するEVシフト
一方、脱炭素社会で最も規制の対象となりやすいのがガソリン車であり、電気自動車(EV)をはじめとするエコカーの普及が今後加速していくことはほぼ必然のシナリオといってもよい。環境規制強化の動きを背景として、世界的なEVシフトの動きが加速していく。
世界の自動車産業の市場規模は250兆円を超えるともいわれている。その巨大マーケットを土台として急速な普及局面に突入しているEVは、産業構造そのものを大きく変えるインパクトを持っている。大気汚染問題に業を煮やした中国では国家戦略としてEVの普及に注力しており、「中国製造2025」のもとでEVを筆頭とする新エネ車(NEV)の販売を全力フォローする構えにある。35年をメドにすべての新車販売を環境対応車にする方針だ。また、英国では直近、ガソリン車とディーゼル車の新車販売を30年までに禁止することを発表したが、もともとは40年までに禁止するという方針であったから、そこから10年も前倒ししたことになる。このほか、EV普及先進国である北欧ではノルウェーが25年にゼロエミッション車(ZEV)100%を目指している。
こうした再生可能エネルギーやEVなどへの国策的な取り組みによって、国際的に脱炭素社会へと突き進むなか、キーテクノロジーとして注目されているのが次世代2次電池の開発である。再生可能エネルギー向けでは定置型蓄電池として大容量・高性能の電池が必要となるほか、EV向けではガソリン車と遜色のない走行性能を確保する電池の開発が必須となる。
●全固体など次世代電池が地球を変える日
現在、EVなどの基幹部品として動力の中枢を担う2次電池としてはリチウムイオン電池 が主流となっている。これは正極材、負極材、セパレーター、電解液の4部材で構成され、正極と負極をリチウムイオンが移動することで充電や放電を行うメカニズムとなっている。
ただ、リチウムイオン電池は軽量で高電圧・大容量という特長はあるものの、EV向けとしては航続距離の問題や中にある電解液が可燃性で安全面に難題を抱えている。そこで、次世代電池の最右翼として全固体電池 などが注目されている。全固体電池は現行のリチウムイオン電池の電解液の部分を固体材料に変え、すべての部材が固体で構成されることで最も大きな課題であった発火リスクを解消できる強みを持つ。また、積層化が容易なためコンパクト化しやすく、電気貯蔵能力の高さや電池寿命の長さなどでも優位性を持っている。全固体電池の市場規模は35年に2兆7000億円前後まで拡大するとの試算もある。
この全固体電池を筆頭に、リチウム硫黄電池、空気電池、バイポーラ電池、コンバージョン電池、クレイ電池といった有力な次世代電池候補がひしめく。再生可能エネルギーやEVが本格的に普及する過程で、電池関連株に対するマーケットの注目度も漸次高まっていくことは必至といってよい。
そして今、株式市場に目を移せば、眼前で繰り広げられているのは脱炭素社会というユートピアに向けた壮大な再生エネ・EV相場の序章といえる。そのなか、急先鋒として株価を変貌させる可能性が高いのは、成長へのシナリオが分かりやすい電池メーカーや部素材などその周辺メーカーということになりそうだ。今回は、そのテーマに乗る銘柄群のなかから見直し余地の大きい5銘柄を厳選した。
●電池関連で注目必至の5銘柄リストアップ
【古河電池はバイポーラで再生可能エネの出世株に】
古河電池 <6937> は5日・25日・75日移動平均線が収れんした1100円近辺を起点に11月第2週以降急速に水準を切り上げ、16日ザラ場に1378円で高値をつけた後調整を入れている。しかし、目先の押し目形成場面は買い場となっている可能性が高い。同社は自動車バッテリー用蓄電池を主力とし、産業用や航空機・宇宙開発用などにも幅広く実績を有している。とりわけ注目を呼んでいるのが、親会社の古河電気工業 <5801> と共同開発した「バイポーラ蓄電池」であり、これは表と裏にそれぞれ正極と負極がある電極基板を積層したもので、現行のリチウムイオン電池と比較して消費電力当たりの単価が半分以下に抑えられ、稼働時の温度管理コストの削減も可能とする。これにより導入・運用のトータルコストも半分以下に低減することができる。来年度中にサンプル出荷を始める見通しにあるが、世界的な再生可能エネルギーへのシフトが強まるなか電力貯蔵用向けなどで高い需要が見込まれ、同社はその関連有力株として頭角を現しそうだ。
【ガイシはNAS電池と半固体電池が輝き放つ】
日本ガイシ <5333> は急動意後、1600~1700円のゾーンで売り物を淡々とこなしているが、ここを踊り場に更なる上昇ステージに歩を進めそうだ。社名が示す通り電気を絶縁して電線を支える碍子の世界トップメーカーとして君臨。また、持ち前の高度なセラミックス技術を駆使して多角化も推進している。そのひとつがメガワット級の電力貯蔵を実現した大容量蓄電池である「NAS電池」であり、再生可能エネルギー分野においても太陽光発電や風力発電など気象に影響される不安定な出力を安定化させる役割を担い、普及に不可欠な製品として世界から注目されている。また、半固体電池と称されるコイン型の新型2次電池で高容量が特長の「エナセラコイン」を開発しており、こちらも注目度が高い。正・負極に可燃性の接着剤を使用しておらず電池寿命も長く、その性能は現在もなお進化を遂げている。105℃の高温下でも動作する高耐熱タイプの量産を開始しているが、125℃でも動作する超高耐熱タイプを今年度内にも実用化する見通しにある。
【FDKは全固体や空気電池で存在感高める】
FDK <6955> [東証2]の戻り相場に期待が大きい。10月末に26週移動平均線まで下押したがその後切り返し上値指向の強さを明示。目先再動意含みで、6月下旬につけた年初来高値1150円奪回を果たし一段の上値追いが見込めそうだ。同社は富士通グループに属し成長分野である2次電池事業に傾注する。全固体電池をはじめとする次世代電池の開発に力を入れているほか、究極の蓄電池と呼ばれる空気電池にも展開し、直近では積層可能な10Ah水素/空気二次電池を開発したことを発表、同製品を用いた蓄電池システム開発を進め、22年度の量産化に向けて取り組む構えをみせている。業績面も好調だ。国内外のセキュリティ・スマートメーター用リチウム電池や、モビリティ・半導体製造装置用モジュールなどの需要が旺盛で21年3月期営業利益は従来計画の10億円から13億円(同54.5%増)へと大幅に増額修正した。2017年10月には株式併合後修正値で3280円の高値をつけているが、現在の利益水準はその当時よりもはるかに高い。
【正興電は住宅用蓄電システムで更なる飛躍へ】
正興電機製作所 <6653> は強力な下値切り上げ波動を形成中。2017年11月末につけた高値1655円を払拭し既に最高値圏に突入している。信用買い残は枯れ切った状態で、浮動株比率の低さなども考慮すると更なる意外高がありそうだ。IoT技術を駆使したソリューションを展開し、電力の供給をサポートする監視制御システムなどで実力を発揮する。再生可能エネルギーの普及を担う先進のパワーエレクトロニクス技術も強みとしており、住宅用蓄電システムでは従来の特定負荷型ではなく、全負荷型のエネパック・ハイブリッドで需要を取り込んでいる。このほか、情報部門では自社データセンターを核に金融や流通、教育など幅広い分野を対象とした高い品質のクラウドサービスを提供している。20年12月期第3四半期(1-9月)営業利益は前年同期比85%増の7億400万円と急拡大した。通期では前期比43%増の13億円を計画するが、21年12月期についても2割前後の利益成長が見込めそうだ。
【日本ケミコンは車載用キャパシタに将来性】
日本ケミコン <6997> は11月初旬に決算発表を受けて急動意し1600円目前まで浮上したが、その後は調整局面に移行しほぼ動意前の水準に戻った。しかし、ここは仕込みのチャンスで、中期スタンスで注目する価値は高い。企業のテレワーク導入加速に伴う通信機器向け需要や5G基地局向けなどで導電性高分子コンデンサー 需要を捉えている。同商品は利益率が高く、20年4-9月期は営業損益が2億700万円の黒字と前年同期実績の16億3800万円の赤字から脱却した。21年3月期は29億円の黒字(前期実績は28億9100万円の赤字)を計画。一方、車載用の電気二重層キャパシタを育成中。これは通常の2次電池と比較して大電流の充放電が可能であり、充放電サイクル寿命などでも優位性が際立つ。今後はハイブリッド車や燃料電池車向けでニーズ開拓が期待されている。新株予約権の絡みで上値は重いが、アルミ電解コンデンサーのトップメーカーにしてPBR0.6倍前後と解散価値を4割も下回っているだけに変身余地は大きそうだ。
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