1. 事業内容
ミマキエンジニアリング<6638>の事業内容は、製品別だけでなく販売市場別にもセグメント区分されている。販売市場別のセグメントは、広告・看板などの製作を支えるSG市場、工業製品や一般消費者向け小物類の加飾をしているIP市場、生地や既製服を捺染するTA市場の3つである。印刷物や看板、スマホケースや電化製品、衣料品など消費者の生活に直結する最終商品も多いため、同社の技術を生かした製品は意外と身近にあふれている。同社は各市場のニーズを迅速に捉え、狙いを絞った開発によって新製品を素早く提供している。一方、SG、IP、TA市場の製品買い替えサイクルはおおむね4~5年のため、各市場に毎年新製品を順番に投入することで、毎期の売上高を積み上げることができる収益構造になっている。
産業プリントではデジタル化が進んでおり、看板などディスプレイグラフィックスなどデジタル化率の高いジャンルもあるが、市場の大きいテキスタイルや家具・インテリア、パッケージラベルなど、依然として従来のアナログ印刷をメインとするジャンルも多い。このため、産業プリント全体のデジタル化率は平均で5~10%と言われるほど低く、産業用インクジェットプリンタの成長ポテンシャルは非常に大きい。また、FAの導入による拡張余地も大きい。ライバルは、米国メーカーやプリンタ周辺の国内メーカーなどである。中国メーカーにも産業用インクジェットプリンタを生産している企業はあるようだが、産業データが少ないこと、比較的小規模なメーカーが多いこと、インクのクオリティが低いことから、シェアを算出する際に省略しているようだ。そうしたなか、同社のIPとTA市場向けの売上高が急拡大している。従来付加価値の低いアナログ印刷が主流だった生産現場で、産業界の多品種・少量生産ニーズの高まりを受け、付加価値の高いデジタル・オンデマンド印刷が広がってきたことが背景にある。このため、IP市場とTA市場は、SG市場に並ぶ第2、第3の柱として大きく成長しているところである。
(1) SG(サイングラフィックス)市場
SG市場では、塩ビシート、バナーシート、ウィンドウフィルムなどのプリント素材を使用して、広告看板、ウィンドウグラフィックス、カーラッピング、ソフトサインなどにプリントを行っている。160cmまでの大判インクジェットプリンタでは、同社は世界市場2位(2022年はシェア27.2%)を誇っている。また、比較的デジタル化が進んでいる分野で、同社を含んだ大手3社で8割程度のシェアを占めている。
(2) IP(インダストリアルプロダクツ)市場
IP市場では、プラスチックやアクリル、ガラス、金属、木材など多種多様な素材にプリントできるUV硬化インクの特性を生かし、自動車の計器パネルや家電の操作パネルなど工業製品のほか、スマートフォンケース、おもちゃ、ノベルティといった小物類のプリントに利用されている。製品の相場が1,000万円を超えていた2010年に、330万円という圧倒的に低価格な製品を発売したことで、同社のシェアが拡大するきっかけとなった。この結果、デスクトップUVフラットベッドで世界市場1位(2022年はシェア63.9%)を誇っている。UV硬化インクは素材を選ばずデジタル化の強みを発揮しやすいため他社も手掛けているが、製品化から20年にわたって蓄積してきたケミカル分野の知見は、市場ニーズへの対応力において大きな差別化要素となっている。
(3) TA(テキスタイル・アパレル)市場
TA市場では、ファッションアパレルやスポーツアパレル、スニーカー(アッパー材)、インテリア、ファブリックなどを対象に、ポリエステルやレーヨン、綿、絹など縫製前の生地(テキスタイル)や既製服布地のプリントに使われている。同社は2012年に世界最速(当時の同社調べ)の昇華転写インクジェットプリンタを開発し、世界的なファッションブランドで採用されたことをきっかけに成長を加速させた。現在では、省スペースでクリーンな作業環境を低コストで実現できる昇華転写インクジェットプリンタで、世界市場2位(2022年はシェア19.4%)の地位にある。
(4) その他の事業
同社は産業用インクジェットプリンタ、カッティングプロッタ以外に、3Dプリンタ事業とFA事業を展開している。3Dプリンタ事業では、1,000万色以上のフルカラーの造形から高さ1.8mまでの超大型造形まで、3Dプリンタによるプロダクトデザインやフィギュア、立体看板向け製品などを製造している。FA事業では、ベクター技術やメカトロニクス技術をもとに、オンデマンド型のデジタルコーティングマシンによって、ロードイン~印刷~コーティング~ロードアウトといった生産工程の自動化に貢献している。
(5) IP、TA市場のチャンス
IP、TA市場の生産現場では、これまで大量生産が主流だったが、ニーズの多様化や商品サイクルの短期化などにより多品種・少量生産のニーズが高まっている。同社製品によるデジタル・オンデマンド生産は、印刷版を使わず、必要なときに必要な分だけをプリントできるため、短納期かつ低コストで多品種・少量生産を実現できる。さらにデジタル・オンデマンド生産は、個性や独創性、季節性といった付加価値を容易に商品に付加して差別化や高収益化を図ることができる。そのうえ、省スペースな設備でクリーンな作業環境を確保できることから消費地に近い都市周辺で生産が可能で、物流にかかる時間やコストも削減できる。こうしたデジタル印刷の生産性や環境対応に関して同社は優位性を持つが、IPやTAのような特定の市場に限定されるものではなく、産業界全体で発揮できる優位性と見なされている。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 宮田仁光)
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