3. 経営戦略
第八次中期経営計画では「Change as Chance ~変化の中にこそチャンスあり~」を掲げ、行動指針として「新しい5S」(変化に対応できる「Speed」、戦略を立案し実行できる「Skill」、データに基づき科学的に判断できる「Science」、組織を良くしたいという熱意「Spirit」、安心安全な環境と心構え「Safety」)を挙げている。また、重点施策として(1) 全体最適なモノづくりシステムの構築、(2) コア技術・製品によるソリューション提供型開発営業の推進、(3) 新製品事業開発・創出の強化、(4) 人と組織の構造改革(意識改革)、(5) サステナブル企業への躍進、の5つを掲げている。
長期ビジョン及び中期経営計画の目標達成に向けては、自動車業界の動向を踏まえ、(1) 既存事業(自動車エンジン事業)の収益力強化、(2) 新製品事業(非自動車エンジン事業)の育成・確立、(3) サステナビリティ経営の推進、の3つの重点分野にリソースを注力する。
(1) 既存事業(自動車エンジン事業)の収益力強化
既存事業では、環境規制に対応した高品質の内燃機関部品を提供することで顧客のエンジン開発に貢献し、収益力を強化していく。具体的には、他社と差別化した技術でエンジンの熱効率50%達成に貢献する製品開発を進めるほか、e-fuelや水素燃料などカーボンニュートラルに向けた検討に取り組む。また、コア技術を生かして新興国市場への拡販を強化する。インドやアフリカといった新興国はEV化が見えておらず、当面はICE搭載車の拡大が続くと見込まれることから、成長余地のあるこれら新興国市場のシェア拡大を目指す。また、大型商用車のEV化には課題が多く、当面はディーゼルエンジンを搭載していくことが見込まれることから、多くの案件獲得に成功している中国で大型商用車領域のシェア拡大を目指す。さらには、新車がEVに置き換わってもエンジン補修需要は底堅く推移すると見込まれることから、北米・中米・アフリカでアフターマーケットビジネスのシェア拡大を推進していく。
(2) 新製品事業(非自動車エンジン事業)の育成・確立
非自動車エンジン事業では、医療分野や産業機械等といった新製品事業の着実な進展と、M&A・オープンイノベーションを活用した早期事業化を目指す。
a) 医療分野
日本ピストンリング<6461>は、主力事業である自動車エンジン部品の製造販売事業で蓄積した金属材料技術や精密加工技術等のノウハウを活用して、2015年3月期より医療機器分野への事業展開を図っている。医療分野は現在、国内外の有力医療機器メーカーや大学等の研究機関と連携し、医療従事者や患者の立場に立った「人にやさしい医療機器」の開発に注力している。
医療用新材料チタン・タンタル合金「NiFreeT」は、ニッケルフリー・非磁性で生体適合性が高く、体内留置が可能で、医療機器用貴金属(プラチナ)と比較し安価という優位性がある。「NiFreeT」はピストンリング用に自社開発した形状記憶合金だが、ニッケルフリーで加工性に優れているため医療材料に転換した。歯科用スクリュー、ガイドワイヤ、カテーテル補強材など埋入型医療機器への応用が期待され、早期の製品化・事業化を目指している。2022年の世界埋入型医療機器市場の年間売上は約40億ドル(約5,000億円)の見込みとなっており、市場開拓余地は大きい。
また、2022年1月には、救急・災害用医療機器専門商社のノルメカエイシアを子会社化した。ノルメカエイシアは日本でいち早く災害医療の導入を提唱し、日本初の災害医療機器等の専門商社として、災害救急分野での豊富な知識、経験を有する。災害救急医療用資器材や感染症対策商品等を取り扱うほか、災害医療救助訓練の企画立案等も行っている。ノルメカエイシアが持つ幅広い顧客基盤並びにソリューション提供・開発力と、同社のコア技術やものづくり力、国内外の拠点活用を通じた組織対応力・販売力を融合させることでグループシナジーを創出し、非自動車エンジン事業の売上拡大を目指す。
このほか、世界最大手の医療機器メーカーであるMedtronicとの植込型医療機器協同開発プログラムでは、新製品開発を進めている。
b) 産業機器分野
産業機器分野では、メタモールド工法の形状自由度や材料自由度の優位性を生かして、CASE関連部品、ロボット、センサー等へ展開する方針である。また、3D形状圧粉コアを用いたアキシャルギャップ型モータは、インホイールモータに最適で、電動カート、車いす、搬送・農業用ロボット、パワードスーツ等への用途を想定している。
(3) サステナビリティ経営の推進
SDGsへの取り組みについては、社会に存在する様々な課題の中から優先して取り組むべき重要課題として、地球環境との共生(製品を通じた環境貢献、事業活動における環境貢献)、ステークホルダーとの共生(お客様満足度向上、従業員の安全と健康、ダイバーシティの実現)、持続的な成長のための基盤醸成(人権尊重、コーポレート・ガバナンス、コンプライアンスの遵守)を特定し、持続可能な社会の実現に向けた活動を展開している。
このうち、「事業活動における環境貢献」としては、2024年3月期にCO2排出量25%削減(2014年3月期比)、2031年3月期に46%削減(同)、2050年度頃にカーボンニュートラル実現を目指している。これまで「革新的生産ライン」の導入、排熱再利用、照明のLED化、岩手県県有林J-クレジットの活用などに取り組んでおり、省エネ・高効率設備への更新や再生可能エネルギー電力の導入なども検討している。
「従業員の安全と健康」としては、経済産業省及び日本健康会議が主催する「健康経営優良法人認定制度」において「健康経営優良法人2022(大規模法人部門)」の認定を受けた(2020年から3年連続の認定)。また、サステナビリティに関する国際的な評価機関である仏EcoVadisが実施した2022年サステナビリティ調査において、ブロンズ評価を獲得した。「ダイバーシティの実現」としては、本社所在地である埼玉県「多様な働き方実践企業」認定制度において「プラチナ」認定を受けている。
「コーポレート・ガバナンス」強化の取り組みとしては、2020年6月に指名・報酬諮問委員会を設置し、2021年6月に監査等委員会設置会社へ移行した。
このほか、2021年8月には原材料にコバルトを使用しない「コバルトフリーバルブシート」を開発した。これまでバルブシートの材料には、耐摩耗性向上を目的にコバルトが使われてきたが、コバルトは電気自動車の車載用電池に欠かせない原材料であるため市場価値が高騰してきていること、また、希少金属のため責任ある鉱物の調達という観点でリスクがある等、サステナビリティ面も含めて課題の多い資源であることが背景にある。「コバルトフリーバルブシート」の開発により、コバルトに依存することなく、従来と同水準の機能を確保できるようになった。同社は、本製品の拡販に努めるとともに今後も環境問題や人権その他の社会問題に対応し、サステナブルな社会の構築に向けて積極的な取り組みを続ける方針だ。
また、2021年10月にはサステナビリティ推進室を新設した。従来は、持続可能な環境・社会の実現に向けた各種取り組みをCSR推進委員会が中心に進めてきたが、その取り組みを一層強化するため、サステナビリティ関連業務の実行・管理に関する企画推進のための専門組織として、経営企画部内にサステナビリティ推進室を新設した。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 水田雅展)
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