ここ数年の業界環境の状況を整理すると、パチンコホール業界は、遊技人口の減少、低貸玉化への流れ、消費税増税の影響などを受けて厳しい環境が続いてきた。特に、2015年に業界における自主規制(高射幸性機種の制限等)がパチンコ及びパチスロ機の両方で実施されると、2016年には「検定機と性能が異なる可能性のあるぱちんこ遊技機」の回収・撤去の問題が動き出し、業界全体が停滞感に覆われた。さらに2017年9月に「新規則」が公布されると、業界に対する悲観的な見方や先行き不透明感が広がり、しばらく混沌とした状況が続いた。2020年に入ってからはコロナ禍の影響(ホール休業や時短営業等)も重なり、厳しい環境に拍車をかけた。
ただ、2021年に2022年1月末を期限とする「新規則」機への段階的な入れ替えが進む一方、2022年3月に「技術上の規格解釈基準」の改正が施行され、日本遊技機工業組合の内規制定によって新たな遊技性(「遊タイム」など)を有する遊技機がリリースされた。さらに同年11月からは「スマート遊技機」の段階的な導入が開始され、遊技機市場やパチンコホール業界は新たな時代を迎えようとしている。
警察庁によれば、パチンコホール数は年々減少傾向にあり、2013年から2023年の10年間で年平均5.1%減となっている。特に足元においては、「新規則」の影響等により新規出店の減少が顕著である。ただ、2023年12月末のパチンコホール数は7,083店舗(前年末比582店舗減)であるが、同社のホールコンピュータ顧客数のシェアは40.0%と、年々高まっている。同社の顧客層は地域1番の優良店が多く、店舗規模も市場平均よりも大きい※。したがって、比較的景気変動に対する抵抗力が強く、投資余力にも優れた顧客基盤と言える。「スマート遊技機」による新たな時代を迎え、大型店舗を中心に投資意欲が戻ってくれば、同社にとっては事業拡大の好機になる可能性が高い。
※大型店舗(501台以上)におけるシェアは約60%とさらに高くなっている。
遊技機の市場設置台数については減少傾向で推移しているものの、1店舗当たりの遊技機設置台数は増加しており、店舗の大型化が示されている。既述のとおり、スケールメリットが生かせる大型店舗は同社の得意とするところであり、機能性や付加価値による高い投資効果を訴求できる同社にとっては追い風と考えられる。
さらに直近の動きとして注目すべきは、店舗数が減少するなかでも、市場全体の売上規模及び売上総利益の規模がプラスに転じたことである。2023年の売上規模は15.7兆円(前年比7.5%増)、売上総利益の規模は2.54兆円(同6.7%増)となっており前年比5%以上の増加は実に11年ぶりとなる。これは明らかにスマートパチスロによる効果であり、斜陽産業化のイメージを払拭するとともに、まさに「スマート遊技機」を中心に業界が転換期を迎えていることを示すデータと言える。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 柴田郁夫)
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