酒井重工業<6358>は2021年6月に、2026年3月期を最終年度とする「中期的な経営方針」を発表した。最終目標として「企業価値・株主価値の向上」を掲げ、これを達成するために「事業の成長戦略」と「効率的な資本戦略」を推進する方針である。また、定量的な目標としては、2026年3月期に売上高300億円、営業利益31億円、ROE8%を実現し、安定的に配当性向50%(DOE4%)を維持することを目指す。なお、売上高が初年度にして計画を上回るペースで進捗するなどしているが、現時点で方針は変わらず、数値目標も据え置いている。
1. 事業戦略
(1) 国内市場:安定化及び次世代事業開発による付加価値創造
ロードローラの国内市場は既に成熟期にあることに加えて同社のシェアも高いことから、既存製品に新たな付加価値(高機能等)を付けること、つまり次世代事業開発による成長を目指す。具体的には以下のような展開を図る計画だ。
a) 安全性の点から、緊急ブレーキ搭載機種の水平展開を推進する。作業中の建機の進行方向に人や障害物がある場合に緊急停止する機能について、国内主要機種へのオプション設定は完了(緊急ブレーキ装着率は中型ローラで約3割)しており、今後は海外市場へ水平展開していく方針である。
b) 転圧管理システム(CCV付)による締固め品質の向上を目指す。工事管理者と現場をリモートで繋ぎ、リアルタイムで締固め品質の確認と管理(転圧回数等)を可能にした。国土交通省ICT路盤施工で加速度応答法による管理が要領化される予定。
c) 自律式(無人)走行ローラの製品化により生産性向上を目指す。自動操縦標準機開発プロジェクトにおいて複数ゼネコンとの現場実装試験を通じた製品化を推進する。具体的には、無人施工により安全な施工現場、効率的な締固め作業による生産性の向上、オペレーターの技量によらない品質の安定化と向上を目指す。
(2) 海外市場:シェア拡大と事業領域の拡大
海外市場においては、需要が拡大している地域(国)も多いこと、また同社のシェアも低いことから成長の余地は大きい。このため、既存市場の深耕と事業領域の拡大の2つの戦略により、道路維持補修機械を海外市場に展開することで成長を目指す。
a) 東南アジア市場では、市場深耕及び製品領域拡大を目指す。具体的には、2019年に新工場が稼働したインドネシア拠点を販売・製造・サービスの中核拠点としてインドネシア国内及びASEANにおける市場活動の深堀を進める。
b) 北米市場では、市場シェア拡大を目指し、北米流通戦略強化とシェア拡大政策を推進する。具体的には、ランチェスター・ブルーオーシャン戦略を基本としたニッチマーケティング戦略と、舗装品質向上に焦点を絞った技術営業によって、シェア拡大を目指す。
c) 海外事業領域の拡大を目指し、ASEAN市場やODAなどにおける道路維持補修機械の市場開拓政策を推進する。
(3) 定量的目標
数値目標としては、2024年3月期に売上高265億円、営業利益20億円、ROE5.5%、2026年3月期に売上高300億円、営業利益31億円、ROE8%を目指す。
2022年3月期の進捗状況としては、売上高は中期経営計画初年度にして計画を上回るペースで進捗している。一方、営業利益については、エネルギー・部材価格の構造的上昇や物流費高騰による収益構造の悪化に対して営業利益率の改善ペースが遅れており、価格改定及びコスト低減による収益構造改革を推進している。ROEについては、米国子会社の繰延税金資産381百万円を計上したことにより6.3%を達成したものの、一過性の税効果会計上の利益であることから、引き続き収益構造改革を進めていく。
2. 資本戦略
資本政策の基本方針として同社は、ROE8%を目標としてそれを支えるための株主還元を実施するとし、株主価値の向上(資本効率の改善)を掲げている。2026年3月期の最終目標として、ROE8%かつ配当性向50%、すなわちDOE4%を掲げている。
一般的に、ROEの向上のためには2つの改善が必要である。1つは言うまでもなく親会社株主に帰属する当期純利益の改善(上昇)であるが、もう1つは株主資本の抑制(必要以上に株主資本を増加させない、あるいは減少させること)である。同社では、前者の事業利益向上のためには既述のような事業戦略を推進していく計画だが、同時に必要以上に株主資本を増加させないために、「ROE3%を下回る場合は配当性向100%の還元」「ROE3%~6%の間はDOE3%の還元」「ROE6%を超えた場合は配当性向50%の還元」とする配当政策を実行する方針である。
自己株式の取得については、2026年3月期までに5~20億円規模を上限とした機動的な自己株式の取得を行うとしている。また、投資有価証券についても、事業戦略観点からの見直しを進める方針だ。なお、成長投資については、資本収益性(ROIC)を重視し、レバレッジの活用も検討するとしている。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 寺島 昇)
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