セメントは重く輸送コストがかかることから、製造拠点と需要地との近接性が求められる「地産地消型のビジネス」である。同社の長い業歴により、セメントの主原料である石灰石の採掘権益や製造拠点を全国に幅広く保有している点は、大きな強みとなっている。また、同社は東日本エリアにおいて優位性を発揮しており、国内販売シェアは4割に近くにのぼり、業界1位となっている。
また、米国やフィリピン、ベトナムなど海外展開にも積極的であり、海外売上比率は全体の約4割に達する。中でも米国事業は利益率が高く、業績に対する貢献度が大きい。
セメント業界を取り巻く事業環境としては、国内において防災・減災・国土強靱化対策、都市再開発、老朽インフラの維持・更新等による一定水準の需要が期待できるものの、人手不足による工期の長期化や建設コスト高の進行による工事中止や先送りの発生懸念等により中長期的には大きな伸びは期待できない状況である。こうした中で、海外市場における安定した事業基盤と収益基盤は、同社の持続的な成長を支える上での大きな強みである。
2025年3月期は、売上高896,295百万円(前期比1.1%増)、営業利益77,750百万円(同37.7%増)、当期純利益57,428百万円(同32.7%増)となった。セメント事業では、国内および米国において販売数量は減少したものの、販売価格の引き上げにより増収となった。利益面では、価格改定および国内の原価改善があり、増益となった。
2026年3月期は、売上高950,000百万円(前期比6.0%増)、営業利益85,000百万円(同9.3%増)、当期純利益60,000百万円(同4.5%増)を予想している。国内において2025年4月からセメント販売価格の改定を実施し、販売数量の減少をカバーする。米国では販売数量・価格とも増加を見込み、全体として増収を見通す。利益面では、米国での関税施策の影響を織り込み、海外セメント事業で減益を予想しているものの、国内セメントの増益でカバーし、全体では増益を確保する見込みである。
2025年3月期から2027年3月期までを対象とする3ヶ年の中期経営計画では、「3D Approach for Sustainable Future」を目指す姿として掲げている。最終年度である2027年3月期には、売上高1兆円以上、営業利益1,000億円以上、売上高営業利益率10%以上、ROE10%以上を目標としている。また、3年間で合計3,600億円の持続的成長に向けた投資を計画しており、内訳は成長投資に1,500億円、工場設備および鉱山の強靭化に700億円、維持更新投資に1,400億円としている。
収益最大化に向けた施策として、「国内事業の再生」と「グローバル戦略」の2つを柱に掲げる。国内事業の再生においては、シェア重視から収益性重視への転換や営業体制の効率化、生産体制の最適化を推進していく。またグローバル戦略では、米国西海岸やフィリピンでの事業基盤強化、トレーディング事業の拡大に注力し、混合セメントの販売を強化する。さらに、米国を中心に骨材・生コンクリート事業など、既存事業とのシナジーが見込める分野・地域でのM&Aも視野に入れている。
なお、混合セメントはポルトランドセメントと火力発電所から発生する石炭灰や鉄鋼産業の副産物である高炉スラグ等を混合して製造される資源循環型の製品であり、産業廃棄物の再利用やCO2排出削減の観点から社会的意義が大きい。さらに、輸出ビジネスの利益率向上や、輸出拡大による国内生産設備の稼働率維持にも効果が期待できる取り組みであり、同社の「サステナビリティ経営推進とカーボンニュートラルへの貢献」に資する重要な施策である。
株主還元については、総還元性向33%以上、年間80円以上の安定配当の継続を基本方針としている。2025年3月期は、前期比10円増配の年間80円(配当性向は15.9%)の配当を実施し、2026年3月期は、20円増配の100円(同18.6%)を予定している。また、総還元性向の目標に基づき、自己株式の取得についても状況に応じて機動的に実施する方針を示している。
株価については、PBR0.6倍台で推移しており、割安感がある。事業基盤と収益基盤の安定性や社会貢献度の高さを勘案すると、株価の上昇余地は大きいと考えられる。
<HM>
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