―米利下げサイクルで環境好転、日本企業の新興国事業に強まるフォローの風―
コロナ禍後のインフレとの闘いに区切りをつけた米国は、利下げ局面に差し掛かっている。欧州も同じだ。中央銀行による利下げペースを巡る見方が金融市場を左右する大きな要因となっているが、大幅なインフレが再び起きない限り、基本的には欧米の政策金利は引き下げに向かって進むこととなるだろう。ドル建て債務を多く抱える新興国にとって、米連邦準備制度理事会(FRB)による利下げは、金融環境を好転させる要因となる。ドル安・自国通貨高は輸入インフレを鎮静化させ、現地の消費活動の活発化に直結する。
新興国のなかでも東南アジア、南アジア諸国や 中近東、中南米、アフリカ諸国は「グローバルサウス」と呼ばれ、金融市場ではその成長性に着目した投資ファンドも数多く組成されている。欧米主要国の利下げにともなって、グローバルサウス圏の経済活動が上向きとなれば、現地に進出する日本企業の業績の押し上げに寄与する公算が大きい。
●米中対立懸念でも高い成長率
米大統領選は共和党候補のトランプ氏と民主党候補のハリス氏がデッドヒートを繰り広げており、覇権国家のトップがどちらになるのか、現時点で見通すことは難しい。ハリス氏よりも保護主義的な色彩が濃いトランプ氏がリーダーとなれば、米中対立が激化することが予想されるほか、米国第一主義が日本企業の米国ビジネスに向かい風をもたらす恐れもある。一方の中国は成長率の鈍化に喘いでいる。景気浮揚策を相次いで打ち出したが、米国による対中強硬策が強まれば、その効果が限られるシナリオも存在する。
世界情勢が混沌とした状況にあるなかで、新興国地域では経済活動の拡大が続いている。国際通貨基金(IMF)が10月22日に公表した最新の世界経済見通しによると、新興市場国・発展途上国の2025年の成長率予測は4.2%。7月時点の見通しから0.1ポイント引き下げられたが、先進国・地域の1.8%を大きく上回っている。
特にアジアではインドの25年の成長率が6.5%と存在感が際立っている。日本企業はこれまで建設業をはじめ、自動車や電子機器といった製造業を中心に新興国市場に進出してきた。日本国内の内需が停滞するなかで、非製造業においても新興国での事業展開を通じ、成長を図る企業が増えている。
●人口世界一のインド市場に熱視線
人口が世界で1位となったインドでは、スズキ <7269> [東証P]がいち早く市場の開拓に臨み、その成果を満喫している。ビジネスの難易度の高い国としても知られている同国で成長を果たした商売巧者は同社だけではない。塗料大手の関西ペイント <4613> [東証P]のインドの売上高は前期の円ベースで全体の24%を占める。同国での自動車向け塗料のシェアはトップだ。同社はアフリカの建築用塗料でも首位となっている。
ホシザキ <6465> [東証P]は13年に買収した冷蔵ショーケースを手掛けるインド企業を、全社の収益に貢献させるまでに成長させた。製鉄所で使われる耐火物大手の黒崎播磨 <5352> [東証P]はインドにおいて約50社の取引実績を持ち、技術力の活用により更なる事業拡大を狙う。プラスチック容器成形機を手掛ける日精エー・エス・ビー機械 <6284> [東証P]はインド工場への大規模な設備投資を完了。現地での受注は堅調に推移しているようだ。これらの銘柄はインド関連としても位置付けられている。
●食品・日用品も新興国市場で存在感
世界人口ランキングで中国、アメリカに次いで4位のインドネシアでは、自動車関連を中心に数多くの日系企業が進出しているが、現地で成功している日系企業の代表格といえばヤクルト本社 <2267> [東証P]である。前期のインドネシア事業は節約志向から販売本数が低迷したが、「ヤクルトレディ」の販売力のテコ入れを図り、1人当たりの販売本数の回復に注力している。
マンダム <4917> [東証P]はインドネシアでのヘアスタイリング剤でのシェアが8割超に上り、男性向けのみならず、女性用化粧品の売上高も拡大させている。インドネシアはイスラム教徒の人口が世界最大であることでも知られているが、礼拝を呼び掛ける「アザーン」のスピーカーは、TOA <6809> [東証P]が圧倒的なシェアを誇る。蚊取り線香のフマキラー <4998> [東証S]は、地道な営業活動を通じてインドネシアで有力ブランドとなった。
企業のマーケティングやクリエーターの収益化の支援を手掛けるAnyMind Group <5027> [東証G]は売上高の51%を東南アジア、15%を中華圏・インドが占める。このうち東南アジアの24年12月期第2四半期(4~6月)における売上総利益の伸び率は92%と急成長している。
東南アジアやインドはバドミントンの競技人口が多く、ヨネックス <7906> [東証S]の製品の更なる拡販に期待が膨らむ。イオンフィナンシャルサービス <8570> [東証P]は、香港に加えてタイとマレーシアの証券取引所に現地法人が上場している。25年2月期第2四半期累計(3~8月)の営業収益は、中華圏とともにメコン圏、マレー圏も過去最高となった。5月にはマレーシアで初となるイスラム金融方式のデジタルバンクの営業を開始したと発表している。アシックス <7936> [東証P]が持つ「オニツカタイガー」ブランドは今や世界各地に広く浸透しているが、タイを中心に熱烈な支持を誇っており、アセアン地域は収益拡大の原動力の一つとなっている。
●中南米・アフリカで事業拡大の企業も
グローバルサウス地域では種苗大手も攻勢を強めている。サカタのタネ <1377> [東証P]は子会社を通じてブラジル企業のイスラ・セメンテスを買収。同社の製品の拡販などを通じ、南米市場でのトップシェアを目指す方針だ。カネコ種苗 <1376> [東証S]も野菜消費量の多いインドを含め、アジアやアフリカ市場の深耕に努める。
南米ではニッスイ <1332> [東証P]がチリにおいて養殖や水産品の加工業を展開。萩原工業 <7856> [東証P]はパラグアイでコンクリート補強繊維である「バルチップ」を生産するほか、ブラジルに生産拠点を構える衛生用品製造機大手の瑞光 <6279> [東証P]は、南米やアフリカなどで販売実績を持つイタリアの同業メーカーを子会社化し、事業拡大を狙う。トラスト <3347> [東証S]はアジア地域とともにアフリカや中南米を中古車輸出事業での主要市場としており、南アフリカでスズキ車のディーラーを運営。北國フィナンシャルホールディングス <7381> [東証P]は邦銀として初めてコンサルティング業務を手掛ける子会社を通じケニアで現地法人を設立した。
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