1. 2023年3月期の連結業績の概況
SBテクノロジー<4726>の2023年3月期の連結業績は、売上高が67,227百万円(前期比1.6%増)、営業利益5,557百万円(同7.8%増)、経常利益5,499百万円(同7.1%増)、親会社株主に帰属する当期純利益3,497百万円(同3.7%減)だった。売上高・営業利益・経常利益ならびにEBITDAが過去最高を更新。親会社株主に帰属する当期純利益についても、前期の特別利益に計上した投資有価証券売却益の影響(約6億円)を控除すれば、実質的に前期を上回り過去最高となる。公共とエンタープライズ向け案件が増加し、増収をけん引したほか、エンタープライズや通信で利益率が改善し、営業利益率は0.5ポイント上昇し8.3%となった。前期末及び当期に発生した自治体情報セキュリティクラウドにかかるインシデントについては、再発防止策も含めてすべての対応を期末までに終了。翌期以降に影響があると想定される引当金も期末に積み増し、引当内での収束を見込んでいる。また、中央省庁の大型運用案件を複数年分受注したことから、過去最高の受注高・受注残高となった。
また、今後の成長を目的に、M&Aを含めた事業提携・業務提携のほか、場合によっては企業の買収などに向けて積極的に動いていく可能性がある。そのため、キャッシュフローを確認するうえで、2023年3月期よりEBITDA(営業利益+のれん償却費+減価償却費)を開示しており、同期については7,217百万円(同7.7%増)と過去最高を更新した。
企業によるクラウドの利活用促進の動きなど、事業変革に向けたDX推進により、同社を取り巻く事業環境は良好である。DX投資の需要は堅調に推移し、それに伴うサイバーセキュリティ対策の必要性も顕在化するなか、ICT関連企業においては、DX推進とそれに伴うセキュリティ対策の支援を通じて、大きな社会の変化に対応することが求められている。同社においてもセキュリティ対策に伴う需要は増加しており、この需要に対応するため、2022年7月にセキュリティ監視センター(SBT-SOC)をリニューアルした。スペースを約2倍に拡張し、業務効率や職場環境の向上、グローバル監視センター等との連携強化を図ることで、セキュリティアナリストが働きやすい環境を整備しており、24時間365日体制で顧客のセキュリティシステムやネットワークを監視している。また今後、セキュリティアナリストを現在の80名から、2024年度までに人材採用や育成を進め、150名規模へと拡大する想定である。
2. マーケット別の概況
前述のとおり、同社は2023年3月期より事業ポートフォリオの変革の様子や同社業績と外部環境及び他社との比較がわかりやすくなるように、マーケット区分を「通信」「エンタープライズ」「公共」「個人」に変更している。
通信の売上高は19,575百万円(前期比14.5%減)、売上総利益3,343百万円(同4.2%増)だった。2019年度下期よりソフトバンクのベンダーを同社が集約してマネジメントすることで案件ごとの業務の標準化・効率化を進めてきたが、一定の成果が上がってきたため、前期よりマネジメントをソフトバンクに返却するなど、同社がマネジメントする案件を減らしてきている。マネジメントに関わっていたリソースをクラウド、セキュリティなど高付加価値な領域に振り向けてきたことから、生産性が向上し、通信の売上総利益率は14.0%から17.1%へ3.1ポイント改善し増益となった。
エンタープライズの売上高は30,358百万円(同4.7%増)、売上総利益7,929百万円(同11.1%増)だった。セキュリティ対策のマネージドセキュリティサービスが順調に伸長した。また、製造業向けのクラウド構築も好調に推移し、増益に大きく貢献する格好となった。また、Microsoftのライセンス販売については、ライセンスを販売するだけのセールス手法を止め、利益率を改善している。
公共の売上高は13,223百万円(同29.2%増)、売上総利益1,315百万円(同16.8%増)だった。農林水産省向けの案件や自治体情報セキュリティクラウドの運用により売上高は約30億円増加した。一方、昨年3月と8月に発生した自治体ネットワークにかかるインシデントに対する引当金を積み増したほか、来期以降に及ぼす影響のあるものについても期末に5億円強引当を行ったことから、売上総利益の増益幅は約2億円と小さくなった。
個人の売上高は4,070百万円(同0.0%増)、売上総利益2,606百万円(同4.2%増)だった。これについては、前期のNortonLifeLockとの契約変更(今後、同社は自動更新のみ担当し、新規顧客はNortonLifeLockが担当するというもの)により当初4億円程度の減益を見込んでいたが、業務移管が期初想定よりも遅れたことにより1億円弱の減益にとどまっている。さらに、100%連結子会社のフォントワークスが大型案件を獲得したことにより、全体では増益を確保できた。
3. 営業利益の増減要因
営業利益については前年同期の51.5億円から、増収効果により2.2億円増加したほか、通信、エンタープライズにおける収益性の改善による増加が10.0億円となり、売上総利益率は1.5ポイント上がった。一方で、販管費は8.2億円増加した。社員に向けて3%ほどベースアップを行ったほか、社員の43名増員などが増加の要因であり、これらの結果、2023年3月期の営業利益は55.5億円となり、営業利益率は8.3%と前期比で0.5ポイント改善した。
4. 単体受注高/受注残高(個人向け除く)
受注については前期に133億円だった公共の受注高が207億円と大幅に増加した。これは、農林水産省の複数年分の運用案件を受注したためであり、来期の売上に計上される分も含んでいる。また、エンタープライズも、マネージドセキュリティサービスの受注が順調に積み上がり、前期比17億円の受注増となった。一方、通信はベンダーマネジメント案件が減少した。この結果、期末の受注残高は359億円と前期比83億円増となり、公共が全体の62%を占めている。なお、全体の66%が2024年3月期中の売上になる予定であり、残りの34%は新たな受注分や保守、自治体情報セキュリティクラウドなど複数年にわたるものである。
自治体のデジタル化の遅れがコロナ禍で浮き彫りとなり、行政がデジタル化の遅れを取り戻すべく2021年9月にデジタル庁を発足したが、その成果は見えにくい状況である。ただし、2022年8月10日に発足した第2次岸田改造内閣において、河野太郎氏が新しくデジタル相に就任し、自治体DX化推進の加速が期待されるなか、同社のビジネスに追い風となると弊社では考えている。
(執筆:フィスコアナリスト 村瀬智一)
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