―公的保険適用となった感染検査、国策と足並み揃え動き出す有力企業と今後の展望―
■感染検査が公的保険適用に、「新型コロナ対策」に期待募る
新型コロナウイルスの感染拡大は世界を震撼させており、収束の気配はいまだみえない。感染したかどうかの有無を調べるPCR検査が進まなかったことなど、日本政府の対応の遅れが指摘されるが、ここにきてようやく民間の検査機関などを本格活用する動きが出始めている。「臨床検査」に関連する銘柄は意外に多く、もはや国家的危機といえるなか、感染拡大を阻止するうえで活躍期待が高まっている。臨床検査など新型コロナ対策関連株を点検した。
●医師の判断で直接民間検査機関へ
9日、加藤勝信厚生労働相は、新型コロナに関する政府の専門家会議で、国内については爆発的な感染拡大には進んでいないとし、「なんとか持ちこたえられている」と発言した。ただ、すべての感染状況については見えていないことから、警戒を緩めない方針だ。日本における新型コロナの感染者数については、国内外から検査数の少なさが指摘されており、実態把握にほど遠いとの声が上がっていた。政府はこうした批判に対し、PCR検査などをスムーズに行えるようにするため、新型コロナの感染検査を6日から公的保険を適用し保健所を経由することなく医師の判断で直接民間の検査機関に依頼することができるようにした。当面は、検査にかかる費用は公費で行われ、患者の自己負担は発生しない。ただ、院内感染を防止するため、しばらくは感染防止対策が整った医療機関に限られることになる。
体制強化で検査件数の増加が期待されるが、その一翼を担うことになるのが臨床検査を業務とする民間検査機関だ。株式市場においては、新型コロナ検査の受託や検査キット開発に向けた動きに、発表直後こそ関連銘柄の株価は敏感に反応したものの、全体相場の悪化のなか総じて下落基調にある。しかし、新型コロナ対策に向けた動きはこれからが本番。臨床検査関連株への関心は、今後一層高まりをみせそうだ。
●みらかHDは「非常に多くの問い合わせ」
こうしたなか、臨床検査薬大手のみらかホールディングス <4544> は、6日からの公的保険適用を前にした5日正午に、子会社エスアールエルと日本医学臨床検査研究所の「新型コロナウイルス検査の臨床検査としての受託」を発表。エスアールエルは厚労省及び国立感染症研究所からの依頼に基づき、これまでも行政検査として受託していたが、6日から帰国者・接触者外来を設置している医療機関などでの検査が保険適用されたことを受け、臨床検査として受託した。なお、この検査は感染研のプロトコルに準拠した遺伝子検査(リアルタイムRT-PCR法)となるという。
同社では「少しずつ検体も入ってきており検査自体はスタートしている。ただ、医療機関の準備がまだ整っていない状況に加え、医療機関と都道府県間での手続き上の調整もあり、検査が始まっていないところもある。5日の発表以降、特に今週に入ってからは非常に多くの問い合わせがきている」(広報)という。また、2日には子会社富士レビオが日本医療研究開発機構(AMED)の「新型コロナウイルス(COVID-19)の診断法開発に資する研究」における「迅速診断キットの基盤的研究開発」に参画し、検査試薬の開発を開始したと発表しており、今後の動向から目が離せない。
●医学生物、リアルタイムPCR試薬を短期間で開発へ
臨床検査薬・研究用試薬を製造する医学生物学研究所 <4557> [JQ]は、2月26日に「新型コロナウイルス感染症『COVID-19』の検査試薬開発に着手」したと発表。同社及びグループ会社のG&Gサイエンスが保有する遺伝子検査試薬の開発技術を用いて、汎用機器で測定が可能、かつ検体処理能力の高いリアルタイムPCR試薬を短期間で開発し、供給するとしている。業績も好調だ。1月28日に発表した第3四半期累計(19年4-12月)連結決算では、営業利益が前年同期比3.6倍の11億6600万円、純利益は同6.3倍の9億3700万円だった。主力の免疫・血清学検査試薬は、国内市場で自己免疫疾患検査試薬やがん関連試薬、中国市場で企業向けマテリアルの売上高が伸長した。また、遺伝子検査試薬も昨年度発売した新製品2品目とも販売が好調に推移し業績拡大に寄与した。
●栄研化は独自技術「LAMP法」を利用
臨床検査薬大手の栄研化学 <4549> は2月14日、独自技術である遺伝子増幅法「LAMP法」を利用した新型コロナウイルス検出試薬の開発を進めていると発表した。LAMP法の高感度、簡易、迅速といった特長や、同社の遺伝子検査試薬開発のノウハウを生かし、検体から新型コロナの遺伝子を1時間以内に検出できる試薬を早期に開発・供給することを目標としている。同社は、1月28日の取引終了後、20年3月期業績予想について、営業利益を36億円から43億5000万円(前期比5.7%減)へ、純利益を26億円から34億円(同1.4%減)へそれぞれ上方修正した。海外向け売り上げが便潜血検査用試薬、尿検査用試薬・装置を中心に想定を上回って好調に推移したことに加えて、国内売り上げも堅調なことから収益が拡大する見通しだ。
そのほかでは、検査業務の需要が高まるなか、臨床検査大手のビー・エム・エル <4694> 、ファルコホールディングス <4671> 、臨床検査薬中堅のカイノス <4556> [JQ]などにも目を配っておきたい。
●キョーリンHD、ジーンソックに要注目
こうしたなか、熱い視線が集中しているのがキョーリン製薬ホールディングス <4569> の「ジーンソック」だ。政府は、新型コロナに感染しているかどうかを15分程度で判明できる装置を今月中にも医療現場へ導入することを目指しており、これが子会社の杏林製薬が手掛ける「ジーンソック」であることから注目を集めている。同社では「厚労省、経産省と当社の診断事業の担当者レベルでは情報交換を密にしながら前の方に進めている。政府が公表しており、現段階ではそのような形になる可能性はあると考えている」(広報)と話す。
●ワクチン開発で武田、アンジェス
世界が待望する治療薬やワクチン開発でも動きが出ている。武田薬品工業 <4502> は4日、新型コロナ感染症に対する治療薬(血漿分画製剤)の開発を行うことを発表。また、同社の上市済み製品及びパイプラインのなかで感染者に対する有効な治療薬となり得るものを調査しているという。国内製薬トップの治療薬開発の動きだけに、期待が高まっている。
更に、大阪大学発のバイオベンチャーで遺伝子治療薬の開発を手掛けるアンジェス <4563> [東証M]は5日、新型コロナの感染を防ぐDNAワクチンを大阪大学と共同で開発に乗り出すことを発表。今回の共同開発は、アンジェス及び大阪大学が有するDNAプラスミド製品の開発実績を生かし、コロナウイルスの予防用DNAワクチン開発を目指すというもので、製造はタカラバイオ <4974> が担当する予定だ。この予防用DNAワクチンの開発の発表を受け、アンジェスの株価は急伸、ワクチン開発を待ち望む投資家の熱い視線が株価を押し上げた格好だ。
また、医療機関向け治験支援事業が主力のアイロムグループ <2372> は今後の展開が気にかかる。同社は2月6日、100%子会社IDファーマが、中国の復旦大学附属上海公衆衛生臨床センターと共同で、新型コロナに対する新しいワクチンを開発することで合意したと発表した。
●PSS、自動化システム用いた診断システム実現へ
診断システムや検査キットの開発も活発化している。2月14日の取引終了後、プレシジョン・システム・サイエンス <7707> [東証M]は新型コロナ感染症の問題に対して、自動化システムを用いた診断システムの実現を目指すと発表した。全自動遺伝子診断システム「geneLEADシリーズ」などの活用と改良により、空港や港湾、保健所、衛生研究所、病院の現場で体内のウイルスの有無を迅速かつ正確に判定できるシステムを構築するという。
またデンカ <4061> は2月13日、子会社デンカ生研が新型コロナによる肺炎(COVID-19)の簡易検査キットの開発に着手したと発表した。同簡易検査キットは、新型コロナの抗原をイムノクロマト法により一般の医療施設でも使用が可能で、迅速かつ簡易に検出できる。デンカ生研はインフルエンザの迅速診断キットでも国内トップクラスであり、COVID-19の簡易検査キットでも十分な供給体制をとれるという。ただ、同社は9日取引終了後、20年3月期の連結業績予想について、売上高を4000億円から3850億円(前期比6.8%減)へ、営業利益を350億円から310億円(同9.4%減)へ下方修正した。米中貿易摩擦の影響などからクロロプレンゴムなどの販売が低調に推移していることに加えて、電子・先端製品などへの新型コロナ感染拡大の影響を一定程度織り込んだとしている。
直近では、ジーエヌアイグループ <2160> [東証M]がきょう午前、中国・武漢市同済病院が新型コロナに対するピルフェニドンの有効性と安全性を評価するために行っている臨床研究に対し、子会社の北京コンチネント薬業がピルフェニドンを提供していると発表、これを受けて株価が急反発した。なお、同件は武漢市同済病院の臨床研究で、具体的な臨床研究の結果は同病院に帰属するという。
予断を許さない状況が続く新型コロナによる肺炎だが、感染拡大阻止は待ったなしの状況だ。経済活動にも大きな影響が出るなか、まずは感染の実態把握を行うとともに、治療薬の早期開発が待たれている。
株探ニュース
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