―環境面から問われる「作る責任、使う責任」、政府もガイドラインで再生促進―
世界的に進む脱炭素の動きやSDGs(持続可能な開発目標)の広がりなどを受けて、さまざまな分野でごみを燃料化する取り組みがみられるようになっている。特にSDGsの17の目標のうち12番目の「つくる責任 つかう責任」では、生産工程での廃棄物の発生の抑制やユーザーへのリサイクル やリユースの協力の呼びかけなどが求められているが、日本では達成に向けた取り組みが遅れているとされる分野だ。
こうしたなか、これまで難しいとされていた紙おむつのリサイクルに向けた取り組みが活発化してきている。環境省が2020年3月にまとめた「使用済紙おむつの再生利用等に関するガイドライン」でも、「使用済紙おむつの再生利用などは、SDGsのゴール12『持続可能な消費と生産のパターンを確保する』に寄与する」としており、さまざまな分野で取り組みの更なる進展も予想される。関連企業にとってもビジネスチャンスが拡大しそうだ。
●増え続ける使用済み紙おむつ
乳幼児や小さな子どもばかりではなく、日常生活動作の低下した高齢者にとっても生活必需品といえる使い捨ての紙おむつだが、生産量が年々増加する一方で、ごみとして処理される使用済み紙おむつが問題視されている。
日本衛生材料工業連合会のまとめによると、19年の紙おむつの生産量は乳児用142億5400万枚、大人用86億5500万枚となり、10年にくらべて乳児用が65%増、大人用が59%増と大幅に増加した。重量にすると乳児用・大人用合わせて年間約95万トンに達し、うち55万トンが国内で消費されているという。背景にあるのは、急速な高齢化の進行であり、今後も更なる増加が予測されている。
使用済みの紙おむつは、し尿を吸収して重量が約4倍になるとされており、国内の紙おむつゴミは約200万トンが排出されている。一般廃棄物排出量に占める使用済み紙おむつの割合は現在、5%程度とされるが、SDGsの期限である30年度には、その割合は7%程度になると推計されており、処理方法が課題となっている。
●再生利用に関するガイドラインを策定
紙おむつは、素材としては上質パルプ、樹脂、高分子吸収剤から構成され、パルプなどは再生利用が可能だが、現在、一般家庭から出る使用済み紙おむつゴミは主に焼却処理されている。し尿などを含み、衛生上の問題があるためだが、焼却処理する際にも、水分を大量に含んでいるため焼却炉の温度を下げてしまい、下がった温度を上げるために助燃剤を使用するなどでコストが余計にかかったり、焼却炉を傷める原因になる。またその分、処理時に排出されるCO2排出量も多くなるといった問題を抱えている。
一方、パルプをリサイクルするにしても、衛生上の問題以外にも、再生利用などの技術が十分でないことなどから安易ではなく、コスト面も高いことからリサイクルが進んでいない。
こうした状況を踏まえ、環境省は今年3月、「使用済紙おむつの再生利用等に関するガイドライン」を策定した。ガイドラインは、市区町村が殺菌などの衛生的処理をした上でのパルプなどの資源再生利用や、熱回収を行うことを検討するために活用することを目的としており、国がこの問題に対して本腰を入れ始めたことを示している。現在はまだ紙おむつリサイクルを手掛ける企業は少ないものの、徐々に裾野は広がりそうだ。
●リサイクルに独自の技術を持つユニチャーム
紙おむつリサイクルの関連銘柄の代表格は、ユニ・チャーム <8113> だろう。
同社は15年に使用済み紙おむつを再資源化するプロジェクトを始動させ、16年12月からは鹿児島県志布志市や大崎町と実証実験を行ってきた。今年10月には、東京都が公募した「使用済み紙おむつのリサイクル推進に向けた実証事業」における、「効率的な収集・運搬手法」モデルの事業者に採用されており、東京都の各自治体・企業・団体と協業し、回収事業などを行う。
また、同じく10月には、使用済みの紙おむつを新たな紙おむつに再生する事業を開始すると発表した。使用済みの製品から独自の技術を使って衛生的で安全な上質パルプを取り出し、新しい製品へとリサイクルするというもので、そのための生産拠点を30年までに国内で10ヵ所以上建設するとしている。このような紙おむつリサイクルの事業化は世界初となる予定で、注目度が高い。
三洋化成工業 <4471> は今年9月、100%子会社SDPグローバルが、使用済み紙おむつの新しい回収・リサイクルシステムの構築に向けて、脱水性に優れた高吸水性樹脂(SAP)を開発したと発表した。これまで使用済み紙おむつのリサイクル工程では、SAPの脱水に時間がかかり、その処理に多量の時間とエネルギーを要することが課題の一つだったが、脱水性を高めることで、リサイクルに貢献する。
日本触媒 <4114> は今年11月、大人用紙おむつメーカー大手のリブドゥコーポレーション(大阪市中央区)及び紙おむつのリサイクルシステムを国内で初めて構築したトータルケア・システム(福岡市博多区)と、使用済み紙おむつ中のSAPに関する新たなリサイクル技術を開発したと発表した。これまでは、尿を吸収して大きく膨らんだSAPがパルプの回収率を低下させたり、あるいはSAPを回収しても性能低下が大きく再利用が難しいといった課題があったが、SAPに処理を施して紙パルプとの分離性を高め、紙パルプ回収率を向上させ、SAPの性能低下を最小限に抑えて回収する技術という。
●燃料化でエネルギー地産地消へ
一方、使用済み紙おむつの燃料化に取り組む動きも出始めている。
ジェイ エフ イー ホールディングス <5411> 傘下のJFEエンジニアリングは12月、新潟県十日町市に使用済み紙おむつをリサイクルし、燃料化する実証設備を竣工させた。市内の高齢者施設から排出される使用済み紙おむつを、エコクリーンセンターからごみの焼却処理に伴い発生する余熱を利用して衛生的に処理した後、燃料ペレットに加工し、排出元の高齢者施設の給湯ボイラー燃料として利用するもので、同市におけるエネルギーの地産地消に貢献するとしている。
このほか、凸版印刷 <7911> は、住友重機械工業 <6302> 子会社の住友重機械エンバイロメント及びトータルケア・システムと組んで、使用済み紙おむつをリサイクルする「完結型マテリアルリサイクルシステム」の構築とその後の事業展開に関する協議を開始した。使用済み紙おむつの分別回収・水溶化処理・再生資源の活用まで、リサイクルシステム全体を構築し、22年度以降の事業化及び自治体採用を目指すとしており要注目だ。
株探ニュース
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