IoTやロボティクスを使い、すべての動詞を楽しく変える 河瀬社長が考える、Photosynthのモノづくりとリプレイス
~新morichの部屋 Vol.8 株式会社Photosynth 代表取締役社長 河瀬 航大氏~
福谷学氏(以下、福谷):始まりました、「新morichの部屋」です。今日からタイトルが少しだけ変わっています。なんだかいろいろと新しくなり、さまざまな門出もありながらお送りしていますが、morichさんはいつもどおり輝いています。
森本千賀子氏(以下、morich):ありがとうございます。今日はいつもよりさらに少し気合いを入れてきました。
福谷:どうしてですか?
morich:来てくださる方の大ファンであるためです。実は2年前にオンラインでお会いしているのですが、ずっと本当に対面で会いたかったのです。
福谷:リアルで会うのは初めてということですか?
morich:はい、そうなのです。やはり、思えば願いは叶うのですね。
福谷:夢は捨ててはいけない、人生捨てたものではないということですね。
morich:そのとおりです。テンションが上がっています。
福谷:今回から「新morichの部屋」というタイトルとなり、リニューアルしてスタートします。
morich:そのとおりです。あらためての第1回ですね。
福谷:そうですね。本日はオーディエンスの方々がかなりいます。
morich:かなり多いですね。
福谷:これほどたくさんいるのは初めてですね。
morich:空気が薄い感じがしますね。
福谷:確かに、空気が薄く感じますね。こちらを1時間びっちりと進めていくのですが、汗もかきながら、気持ちも高く持って、楽しく開催させていただければと思っています。
では、あらためてmorichさんのご紹介をお願いできますか?
morich:「新morichの部屋」でもありますので、私の紹介からさせていただきます。株式会社morichの森本千賀子です。「morich」は森本の「もり」、千賀子の「ち」から取っています。
リクルートに勤めていた時代、近い場所に森本という姓の方がたまたまたくさんいたため、では「『morich』と呼ぼう」ということになり、入社してからずっとこのように呼ばれていました。
福谷:そうだったのですね。
morich:実は、マネージャーや部長になってから書類に記すサインもすべて「morich」でした。「morich」印もあります。
福谷:すごいですね。
morich:その印で正式な承認となるかたちでした。そのようなわけで、そのまま会社名にしているのです。
もともとは新卒でリクルートに入り、約25年勤めました。
福谷:25年も勤めたのですね。
morich:同期は20代でほとんど辞めたのですが、私は気がつけば25年いました。
途中までは、組織マネジメントを中心とした業務にあたっていました。リクルートでマネジメントに携わろうとすると、どうしても、部下育成やチームビルディングが中心になり、少し内向きになるのですね。
ちょうど東日本大震災があった時に、「明日、自分が何があっても後悔がないようにしよう」と思いました。リクルートは大好きな会社でしたので、そのまま在籍しながら自分のしたいことをするという、副業を始めました。
福谷:よいですね。
morich:気がついたら、2足、3足、4足と、副業がどんどん増えていきました。しかし、それでも本業と半々くらいのウエイトだったのです。
2014年にリクルートが上場しますと、そこから少し窮屈になり始めました。そこで、自分のしたいことに自分の時間とエネルギーを100パーセント投入しようと考え、2017年に独立しました。
転職エージェントという仕事が、私の核となるライフワークです。特にCxOといわれるような、組織のピラミッドにおいて影響力のある幹部人材のキャリア支援を中心に携わらせていただいています。
それに加えてもう1つ、「ソウルワーク」もあります。
福谷:ソウルワークですか? 新しい言葉が増えましたね。
morich:言葉のとおり、「魂の仕事」です。スタートアップの支援です。
私が小学生の時に、父親が脱サラし、起業しました。彼の背中をずっと見ている中で、「応援したいな」という思いがいつからか胸にずっとあったのです。今、スタートアップの支援は私のソウルワークとなっています。
社外役員や顧問、アドバイザーというかたちで、20枚くらいのいろいろな名刺を持ちながら、事業を展開しています。
福谷:そうなのですよ。どこに行っても真っ赤のmorichさんを見るのです。
morich:「morich5人説」が囁かれています。
福谷:「morichさんは5人いるのではないか?」ということですよね。
morich:そのようなかたちでパラレルキャリアを体現しています。
福谷:ありがとうございます。では、今回も素敵なゲストもお呼びしていますので、morichさん、ご紹介をお願いできますか?
morich:本日のゲストは、株式会社Photosynth代表取締役社長の河瀬航大さまです。
福谷:よろしくお願いします。
morich:河瀬社長、ようこそいらっしゃいませ。
河瀬航大氏(以下、河瀬):よろしくお願いします。
河瀬社長の紹介
morich:よろしくお願いします。では、まずは河瀬社長から、自己紹介をお願いできますか? 後で詳しく紐解いていきます。
河瀬:わかりました。morichさんのご紹介の後に、自己紹介はすごくしづらいですね。カメラが全部で5台以上もあり、いろいろな角度から視線を感じます。
福谷:そうですね。
morich:意識せず、こちらを向いていてください。
河瀬:株式会社Photosynthという会社を約10年前から経営しています、河瀬航大と言います。スマートロックの「Akerun」というプロダクトを中心とした、クラウド型の入退室管理システムを作っている会社で、今から約2年前に上場しています。本日はよろしくお願いします。
morich:私が2017年に創業といいますか独立した時、最初に入ったコワーキングスペースに「Akerun」がついていました。「すごい。世界はこれほど変わったのだな」と思ったことを、今でも思い出します。
河瀬:ありがとうございます。
福谷:便利で、セキュリティもきちんとしていますね。
morich:すごく便利になりました。では、このあたりで少し、河瀬社長のことを紐解いていきたいと思います。
福谷:本日も河瀬社長の情報のシャワーを浴びて来たのですよね。
morich:この1週間、シャワー浴びまくりです。夢にも出てきました。
福谷:河瀬社長は、いろいろなメディアにも出られているかと思います。
morich:そうですね。私に最初に響いたのは、種子島のご出身ということです。生まれ育ったのですよね?
河瀬:そのとおりです。父の転勤の影響で、幼稚園から小学校まで種子島で育ち、そこから高校までは鹿児島市内で過ごしました。大学は筑波で、社会人になってから東京に来たという感じです。
種子島での幼少期
morich:河瀬社長の原体験といいますか、原点はおそらくお父さまの背中ですよね。
河瀬:大きいですね。そこまで丸調べなのですね。
morich:もちろんです。
福谷:幼少期時代から調べています。
河瀬:原体験の話から始まるのですね。
福谷:どのような影響を受けたかというお話をうかがいます。
morich:お父さまは理科の先生だったのですか?
河瀬:そのとおりです。自分の情報としてネットに載っていますね。
morich:お父さまが理科の先生だったということは知っていましたか?
福谷:ぜんぜん知りませんでした。
morich:初めて知りますよね。意外と知らない人が多いのです。
福谷:ほとんど知らないと思います。
河瀬:父は理科の教師でした。種子島は自然もすごく豊かで、JAXAの宇宙センターがある場所です。
morich:確かにそうですね。
河瀬:種子島は田舎ではありますが、最新のテクノロジーといいますか、迫力ある何かにも触れることができ、さらに大自然に囲まれている環境によって、自分の価値観や原体験が形成されていったと思います。
morich:お父さまからの影響について、小さい頃のエピソードは何かありますか?
河瀬:やはり、常に問いを持って考えることを教えられました。例えば、種子島にはマングローブという植物が生えています。
一般的に植物は塩水を苦手としますが、マングローブは、種子島でも他の場所でも、汽水域と呼ばれる、塩水が入る場所に生えているのです。普通であれば、そのような姿を見逃して、疑問を持たずに終わると思うのです。
morich:「そのようなものかな」と思いがちです。
河瀬:そのような時、父は幼少時の僕に「なぜ植物は塩が苦手なのに、ここに生えているんだと思う?」と問いかけてくれた記憶があります。
「どうしてロケットって飛ぶのだと思う?」「なぜ種子島は、水平線が見えて丸いのだと思う?」と、当たり前のことなのですが、ふっと問いを投げかけてくれました。
幼少時の私は、それに答えるのがすごく好きで、いろいろなものを「あれ、これどうなっているんだろう?」と、斜めに見て考える姿勢が自然と身につきました。
morich:種子島の大自然が、河瀬社長の「これ、なんだろう?」という考え方につながったのでしょうか?
河瀬:そうだと思いますね。
夢はノーベル化学賞
morich:「将来は大自然×テクノロジーでノーベル賞を受賞できるような発明家になりたい」と書かれた記事を拝見しました。
河瀬:そのような恥ずかしい記事も、昔ありました。
morich:小学校の文集などに書いていたのでしょうか?
河瀬:はい。小学校の頃から常に、「夢はノーベル化学賞を取ること」と書いていました。
morich:では、将来はそのような研究や開発に携わることを目指されていたのですか?
河瀬:そうですね。そのような分野に関わってみたいと思っていました。
morich:理科もかなり得意だったのでしょうか?
河瀬:というか、理科だけが得意でした。
morich:化学や物理あたりでしょうか?
河瀬:はい、すごく得意でした。僕は化学が一番得意だったのですが、例えば高校で全教科100点満点のテストがあったとすると、化学はほとんど100点に近いわけです。一方で、当時苦手だった英語などの他の科目は仮に50点くらいだとします。普通であれば絶対、英語を勉強したほうが総合点数を上げられると考えますよね?
morich:普通はそうですよね。苦手科目を克服します。
河瀬:それが、僕はずっと化学ばかり勉強していました。「ここで99点、98点取りたくない」という思いが強かったです。
morich:「100点を取る」という覚悟ですね。
河瀬:「ここだけで勝つ」という決心です。
morich:化学式なども覚えるのはかなり大変ですよね。
河瀬:そうですね。ここで話すのも少しはばかられますが、僕が今使っているアドレスには化学式が入っており、それは中学生からずっと使っているものです。
morich:そうなのですか?
河瀬:「化学式@gmail.com」みたいなアドレスです。
morich:それくらい大好きだったのですね。
河瀬:大好きでしたね。
morich:理科や化学以外で、勉強に関して幼少期に何かしていたことはありますか?
河瀬:自然の中でずっと遊んでいましたね。秘密基地を散々作って、先生に怒られていました。
morich:私の種子島のイメージは「海と山」という感じなのですが、実際にはどのようなところですか?
河瀬:山はあまりないですね。海が中心です。
morich:海に囲まれているのですね。高校は、鹿児島のほうですよね?
河瀬:はい、鹿児島市内で過ごしました。
morich:私は修学旅行で鹿児島に行ったことがありますが、方言が激しいですよね。
河瀬:激しいです。
morich:何を言っているのか、本当にわからなかったのです。
河瀬:そうですよね。おばあちゃんの言葉は、僕も聞き取れません。
morich:やはりそうですか。学校の中では、方言は普通でしたか?
河瀬:学校の中はそうですね。しかし、イントネーションは激しめです。
morich:では、地元に戻ると変わるのでしょうか?
河瀬:変わります。変わりますが、すごく胡散臭い鹿児島弁になってしまい、友人からはかなりディスられています。
友人につられて鹿児島弁に戻るのですが、完全には戻りきれず、「河瀬、かなり気持ち悪い」と言われます。
morich:そうですよね。私も関西人なのですが、やはりエセ関西弁になってしまいます。
河瀬:やはりエセになってしまうのですね。
morich:東京での生活が長いですのでね。
河瀬:「東京なまりですごく気持ち悪いよ」と言われます。
morich:当時からやはり、将来は化学者とか研究者とかを目指されていたのですか?
河瀬:研究者になりたいと思っていました。
morich:高校時代から思っていたのでしょうか?
河瀬:高校時代からずっとです。高校でも、部活動は化学部でした。
morich:そうだったのですね。もしかして、そうかなとは思っていました。スポーツはしなかったのですか?
河瀬:スポーツもしており、中学はバスケ、高校はバドミントンだったのですが、それだけでは足りず、化学部でも活動していました。
morich:物足りない状態だったのですね。
河瀬:はい、それで化学部を立ち上げました。
morich:立ち上げたのですか?
河瀬:そうなのです。昔はあったらしいのですが、僕らの時代にはなかったため、立ち上げました。そこから、論文というほどでもないのですが、鹿児島大学に行ってレポートを書いたり、研究室を借りて、全国大会や国際化学オリンピックなどいろいろなものに出たりしていました。
morich:高校生にしてそのようなことをしていたのですね。そこから筑波大学を志望したのには理由があるのですか?
河瀬:僕が大学で勉強したのは化学の放射線だったのですが、筑波大学は、種子島と同じようにJAXAの本拠地ですので、その影響は大いにあったと思います。
僕のいた放射線の研究室からはJAXAや東京電力に行く人たちが多く、そのような観点で、筑波大学に興味を覚えましたし、研究に集中できるというところをおもしろく感じました。
ビジネスへの興味
morich:では4年間、基本的にはそのような研究開発に携わっていらっしゃったのですか?
河瀬:はい、そうでした。ただし、大学に入って初めて「ビジネスの世界にも触れてみたい」と思うようになりました。技術はこれからの人生において突き詰めていくだろうと思う一方で、これまでまったく触れたことがなく、まだよくわからないビジネスの世界では、どのような属性の方々が活躍しているのだろうかと興味が湧いたのです。
鹿児島の公務員の家庭で育っていますので、東京のスーツを着ている人たちがなにをしているのかを一度見てみたいという気持ちがありました。
そのため、筑波大学に通いながら東京に出向き、実は早稲田大学のインカレサークルの代表も務めていました。
morich:そうなのですか? それは、まったく触れられていませんでした。すみません、見逃していました。
河瀬:自然環境問題をビジネスという切り口で解決するサークルに、週2回から3回のペースで通っていました。
morich:そのサークルの代表になったのですか?
河瀬:そうです。15年以上前の話ですが、当時はそのようなサークルはすごく珍しかったのです。
morich:それは、どのようにして見つけたのですか?
河瀬:ネットで調べて辿り続きました。
morich:では、筑波大学で研究しながら、早稲田のインカレサークルでも活動する生活だったのですね。
河瀬:環境問題に関してはもともと、「どのようなアプローチでもよいから必ず解決したい」「テクノロジーで解決したい」と思っていたのですが、それをビジネスという切り口で解決できれば、さらにおもしろそうだと思ったのです。
そのサークルは、自然環境問題をビジネスというアプローチで解決する、合宿型のビジネスコンテストを開いており、そこでずっと経験することで「ビジネスって意外とおもしろいな」という感覚になりました。
morich:気づきにつながったのですね。
河瀬:そうなりました。
morich:しかし、おそらく河瀬社長のいた学部であれば、通常は大学院に行くのではないですか?
河瀬:そうです。みんな大学院に行きます。
morich:おそらく9割9分は行きますよね。
河瀬:むしろ、劣等生だけが大学院に進まないという感じです。
morich:そのような中で、就職活動をされたわけですか? なぜでしょうか?
河瀬:自分たちが研究している、特に化学や放射線分野は基礎研究に近いため、この研究が社会にどのように還元されていくかは未知数だと、学生団体における4年間の活動を通して気づいたのです。
自分のテクノロジーを基に、基礎研究を社会に還元していく方法をデザインするのがビジネスだと思い、そこに携わってみたいと感じました。また、研究よりもビジネスのほうが物事のスピード感が自分に合うと感じられたため、ビジネスの世界で働きたいと思うようになりました。
ただし、いきなり起業する道は当時、選択肢としてそこまで強いものではなかったため、まずは新規事業やビジネスを立ち上げることのできる会社に入りたいと考え、就活を行いました。
morich:今の理系の学生は、起業される道を取る方が多いですよね? それをあえて、事業会社で修行されることの意義や意味、価値は、どのように考えていらっしゃいましたか?
河瀬:当時は、起業という選択肢はほぼなかったのです。大学卒業は2011年頃で、確かに起業する方が少しずつ出てきている状況ではあったのですが、まだそこまで多くはありませんでした。資金調達の環境も、今と比べれば完全に違う状況でしたので、まずは企業で働くというのが最初に考えたことでした。
morich:そのような中で、いろいろな選択肢のある就職活動の末に、ガイアックスさまを選ばれました。実は私、リクルート時代にガイアックスさまを担当していたのです。
福谷:そうなのですか?
morich:上田社長のカウンターパートとして、採用のお手伝いをさせていただきました。かなり優秀な方が本当に多かったです。ただし、そうは言っても、それほど目立つベンチャーというわけではないですよね。
河瀬:そうですね。ですので、上田さん自体がいろいろな起業家を育てて、人材を輩出していきたいと考えていました。ご自身で「人材輩出企業じゃなくて、人材流出企業だ」とおっしゃっていたくらいです。
morich:どちらかと言いますと、そこで育った方が出ていくパターンがけっこう多かったですよね。
河瀬:僕自身もそうです。起業する頃、ガイアックスで働きながら「Akerun」のようなサービスを作っていた時期があったのです。
morich:副業みたいな感じでしょうか?
河瀬:副業というほどではありませんでした。その頃、ハードウェアを3Dプリンタで作るという、ある種の電気回路工作のようなことに取り組んでいました。すると「起業すれば?」と、逆に背中を押していただいたのです。
morich:上田社長がそのように言ったのですか?
河瀬:そうなのです。「出資するよ」というお話をいただいたのですが、僕は「出資って何ですか? もらえるのですか?」というレベルでした。デットとエクイティの違いもぜんぜんわかっていませんでしたので、「返さなくてよいのですか?」という反応をしていました。
morich:「起業するぞ」と思って起業したのではなく、自然な始まりだったのですね。
河瀬:はい。まずはそのようなところから始まりました。
ネット選挙の事業責任者に
morich:ガイアックスさまは、新卒にしていきなり事業開発をさせてもらえる会社ですよね。
河瀬:そのとおりです。2013年の話ですが、その年の夏頃に参院選がありました。いわゆる「ネット選挙」が解禁され、インターネットを使った選挙活動ができるようになりました。
当時、選挙に詳しい人もネットに詳しい人もたくさんいましたが、ネット選挙に詳しい人は当然、誰もいなかったのです。「海外にはいるが日本にはいない」という感じでした。
morich:いないですよね。
河瀬:僕はネットに詳しい側の人間でしたので、選挙や政治について勉強しつつネット選挙についても知識を仕入れ、当時優勢だった自民党の中に入り込んで講演し、「ネット選挙によってこのように変わります。ネットをこのように活用していきましょう」という活動を行いました。
morich:今で言う、ロビー活動ですね。
河瀬:さらに、選挙活動中に発信される情報や世論をネット上から抽出し、「今、世論はこのように傾いています」などとレポートにすることなどを行いました。
morich:米国では、そのようなことがけっこう進んでいたのですか?
河瀬:そうです。事例としてはけっこう上がっており、それが日本にやって来たところでした。しかし、米国の商習慣とはぜんぜん違いますので、日本ならではのネット選挙の勝ち方として推進したという感じですね。
morich:ものすごく感度が高くないですか? そのような取り組みは、周りにはまだなかったですよね?
河瀬:なかったと思います。それを新規事業として手掛けたことが、ビジネスはかなりおもしろいと思った部分です。
morich:きちんと導入されているわけですよね?
河瀬:そうです。一番大きなお客さまが自民党でしたので、そこに導入してもらいました。
morich:それはすごいですね。
河瀬:ネット選挙に関する事業を始め、自分が事業責任者になりました。ローンチしたその日はキー局もすべて取材に来てもらいました。
morich:そうなのですか? 「Yahoo!ニュース」などに大きく載ったのでしょうか?
河瀬:バーンと大きく載り、なんとガイアックスの株価が、最大瞬間風速で50倍になりました。50倍ってあり得ないですよね?
morich:あり得ないですね。50倍ですか?
河瀬:そのくらいですね。世の中としてはけっこう、インパクトの大きいことでした。
morich:上田社長、すごいですね。
河瀬:あまりにも最大瞬間風速で終わってしまったところはありますのですが、そのくらい、世の中としては「ネット選挙が日本にも来るぞ」ということで注目されたのです。
morich:「ガイアックスって何だ?」という感じだったのでしょうか?
河瀬:そうです。「ネット選挙のど真ん中でビジネスをしている会社があるぞ」という熱さですね。
morich:バズりましたね。
河瀬:そのようなことを経験し、事業を作るのはめちゃくちゃおもしろいと感じました。
morich:本来であれば、そのままガイアックスさまに残って続けますよね。
河瀬:自分で言うのも変ですが、僕が上田さんだったら絶対に引き留めます。
morich:普通なら引き留めますよね。
河瀬:これだけ、好き放題に新規事業させたわけですものね。
morich:実績も出して「よし、これからだ」という時です。
河瀬:ネット選挙が2013年でしたので、2014年になったタイミングで独立しました。
morich:選挙がいったん落ち着いたためでしょうか?
独立後、プロジェクトで自分探し
河瀬:選挙はやはり一時的な盛り上がりですので、少し時間ができました。
morich:ガイアックスさまとしては、ネタを探してこいという感じだったのですか?
河瀬:そうですね。次のネタも仕込んではいたのです。それ以外にガイアックスの枠組みを超えたビジネスをしてみたいと考え、腕試しのような感じでいろいろなプロジェクトを5個から10個くらい進めていました。実は副業というほどでもないのですが、プロジェクトを回していたのです。
morich:オープンイノベーションのような感じでしょうか? いろいろな友人や知人と手がけていたのですね。
河瀬:そうですね。当時キュレーションアプリなどが流行っており、本当にたくさん進めていました。お笑い系のサイトをキュレーション化させたアプリなどです。
また、弁護士保険ができる年だったため、その比較サイトを作ってマネタイズに取り組んでみました。
morich:それはガイアックスさまの外で進めていたのですか?
河瀬:完全に外で行っていました。
morich:それはぜんぜん問題ないのですね。
河瀬:OKです。
morich:「好きにして」という感じでしょうか?
河瀬:はい。当時もなにも伝えていませんでしたし、承認もなくてよいくらいです。
morich:この頃、社会課題解決のNPOも立ち上げていますよね?
河瀬:そうですね。NPOも2つくらい立ち上げてみました。
morich:どのようなNPOですか?
河瀬:1つは教育系で、もう1つはお手伝い程度ですが、障害者を雇用して農場を経営するNPOです。
あとは、ハッカソンなどまだ原石でしたので、グリーンハッカソンをヨーロッパから持ってきて、グリーンハッカソンの日本版を立ち上げました。すべて副業的に行っており、その中に「Akerun」があったのですよ。
morich:そうなのですか?
河瀬:20代前半に行っていたその活動が大変良かったと思っています。
弁護士保険などで儲けるためのビジネスもしましたし、どちらかと言いますと、グリーンハッカソンは社会的な意義のために手を出してみました。他にもバズりそうなコンテンツを手掛け、名前が知られることが気持ちよいということもわかりました。
morich:認知やブランディングなどの面ですね。
河瀬:そのようなことも含めて、自分にとって一番テンションが上がることは何だろうと、ある種の自分探しをさまざまなプロジェクトの中で行っていたのです。
「Akerun」の誕生
河瀬:そこで出会ったのが「Akerun」でした。「Akerun」は男同士4人で飲んでいた飲み会で生まれたアイデアで、「なんだかわくわくするよね」という話になりました。
morich:それは「なにかビジネスをしようぜ」みたいな流れではなく、たまたま飲み屋でしゃべっていたのですね。
河瀬:そうなのです。4人で飲んでいた時に「酔って鍵をなくしてしまったことがある」「それでホテルに泊まったことがある」「かばんからガチャガチャと取り出すのは大変だよね」などという話から生まれました。
morich:わかります。私の場合は息子から「鍵がなくなった」という連絡を受けるのが一番困るのです。鍵ごと変えないといけないではないですか?
河瀬:そうですね。しかも高いですよね。
morich:鍵ごと変える必要がありますので、困るのです。私は1回、出張先から鍵を買ったことがあります。本人が入れないと言うため、仕方ないと思って買いました。
河瀬:それも大変ですね。
morich:原体験ですね。そのようなことを、飲み会でしゃべりながら、話が進んだのですか?
河瀬:その4人はパーツがたまたまうまくはまっており、1人がパナソニックで携帯を作っており、3Dプリンターなどをけっこう使えてメカ系を作れます。
もう1人はソフトバンクで働いており、けっこうBluetoothや通信周りには詳しいです。
もう1人が小林というのですが、彼は当時、家事代行のエニタイムズという会社で、アプリやWebサービスを担当していたため、その領域に強いのです。
morich:エンジニアですね。
河瀬:僕は、ガイアックスでビジネスに多少触れてきましたので、この4人で力を合わせたらなにかサービス作れるのではないかということになりました。
morich:「ゴレンジャー」ができると最強なのです。私はよく言っているのですが、経営幹部も「ゴレンジャー」は大事です。補完し合うというバランスが最高の布陣ですね。
河瀬:たまたまそのようなメンバーが揃っていましたので「それなら今週末みんなで秋葉原に行って、少し部品集めをしよう」ということになりました。
morich:その週末にですか?
福谷:すごいですね。
河瀬:そんなところからプロジェクトが始まりました。
morich:プロトタイプを作ろうと思ったのですか?
河瀬:そうです。しかしプロトタイプを作っても、販売するかどうかまでは考えていなかったのです。
morich:そうですよね。まだ構想段階ですものね。
河瀬:ただ、自分たちの家の鍵がスマホで開いたら格好いいという程度で考えていましたね。
morich:それはできてしまったのですか?
河瀬:要は、モーターを90度回転させるだけと言えば回転させるだけですので、プロトタイプ自体はそれほど難しくないのです。当時は、秋葉原の秋月電気などに、けっこう通ったのですが、いろいろな部品が買えて3Dプリンターも一応、外装は作れました。
当時は「Arduino」という開発用の基盤も一般的に販売されており、開発しやすい環境も整っていましたので、プロトタイプ自体は数ヶ月で出来上がりました。
morich:そうでしたか。
河瀬:数ヶ月もかかっていませんね、1ヶ月と少しで作ることができました。それでげらげらと笑いながら、「本当に鍵が開いたよ」と話していました。
morich:なにか取材を受けたのですよね。
1本の記事をきっかけに起業へ
河瀬:そうです。「儲けよう」「誰かの課題を解決しよう」というよりは、「自分たちの家の鍵が開いたらすごくない?」という程度のわくわくドリブンで始めたプロジェクトでした。こちらがものすごくハマり、日経新聞の記者と知り合いだという人に話をしたら、記事にしてもらえてバスりました。
morich:そうですよね。
河瀬:自分たちは量産するつもりもありませんでした。
morich:翌日、メールが100件来たのですよね?
河瀬:100件くらい来ました。当時、何となくバズるような気がしていたため、慌てて1日でWebサイトを作りました。
morich:本当ですか?
河瀬:あの時、作ってよかったなと思います。
morich:受け皿がないですものね。
河瀬:当時会社もありませんでしたので、「若手技術者集団がこのようなものを作っている」という内容のコラムにしてもらったのです。
Photosynthという会社もまだありませんので、「若手技術集団」「若手電器メーカー出身」という格好で紹介してもらいました。電器メーカーはパナソニックにいた彼のことですが、パナソニックとして作っているわけではありませんので、「電器メーカー出身」という書き方にしてもらいました。
おもしろいことを進めている連中がいると書いてもらってバズりましたので、「進めているのはこのプロダクトで、『Akerun』といいます」とホームページにリンクさせて、そのバズりに乗っかってみると、堀江貴文さんなどいろいろな方にコメントをいただきました。
morich:そうだったのですか。
河瀬:さらにバズが膨らみ、最終的に出資したい、買いたい、業務提携したいという声がたくさん集まりました。
morich:では、本当にその記事1本で広がったのですね。
河瀬:1本です。
morich:そのような意味では、プロトタイプの製品ができているわけでも、誰かに使ってもらっているわけでもなかったのですね。
河瀬:そうなのですよ。
morich:すごいですね。
福谷:すごいですね。
河瀬:そのようなところから、そこまで盛り上がってしまったのなら量産したくなりますし、量産ということになると法人を立ち上げる必要がありますので、起業してみようかという感じでした。
morich:そうなのですか。それで会社を作ったのですね。
河瀬:会社を作りました。
morich:しかし普通は、プロダクト名がそのまま会社名になることがあると思いますが、分けたのはなぜでしょうか?
河瀬:当時からその葛藤はありました。
morich:実は、プロダクトとPhotosynthがつながらなかったのです。
河瀬:そうですよね。たぶん、Photosynthという会社を誰も知りません。誰も知らないというよりは、「Akerun」という認知に比べて100分の1ぐらいしかないのではないでしょうか? サービス面ではけっこう知られているのですが、企業名の認知度は低いです。
morich:タクシー広告で、ずっとサブリミナルで入ってきます。
福谷:確かに。
河瀬:そうですね。タクシー広告もPhotosynthのロゴではなく「Akerun」です。しかし、メーカーとしての側面を大事にしたいと思っています。
例えばトヨタという会社にトヨタという製品はありません。ソニーという会社にもソニーというプロダクトはありません。日立もパナソニックにもないです。
いろいろな商品、いろいろな価値を生み出していくようなIoTベンチャーとして、名前と製品を分けたいというところから始まったのですが、思いの外「Akerun」がおもしろ過ぎて、ずっと「Akerun」関連のビジネスを進めています。
morich:プロダクトは本当に「Akerun」一色ですね。
河瀬:ほとんど「Akerun」です。「Akerun」に関連したビジネスですね。
morich:そうですよね。ブランディングについては、戦略の中でどのように考えているのですか?
福谷:気になります。
河瀬:「Akerun」としてのブランドですよね。やはり「Akerun」は、ブランドに非常にこだわりを持っています。それはいわゆるクリエイティブの話だけではなく、ハードウェアの設計からこだわりを持っており、素材や丸み、光り方、箱を開けた瞬間の匂いなどもこだわりがあります。開けた時に「プラスチック臭くて嫌だ」と思われないようにしています。
「お客さまを未来にいざなう」と僕らはよく言うのですが、その未来を開けた瞬間の大事なことですので、すごくこだわりを持って作っていますね。
morich:確かに、あのデザインは鍵を開ける時に楽しい感じがするのですよね。
河瀬:本当にありがとうございます。開けた瞬間に「ファン」という音がします。
morich:音が本当にすごいのですよ。
河瀬:あの音も自分たちで1音1音、全部作っています。
morich:そうなのですか?
河瀬:正直なところ、本当にたくさんのサンプルデータをクリエイターに作ってもらったのですが全部気に入りませんでした。唯一気に入ったのが、RPGゲームの『ファイナルファンタジー』の音源を作っていらっしゃる方に原型を作っていただいたものでした。
ただし、未来感が少し薄かったため、一緒に創業した熊谷というパナソニック出身者と一緒に、一つひとつ「ここは少し音程を上げて、こちらは下げて」ということをしながら作りました。
morich:コワーキングスペース内に入って、後からお客さまなり、そこのスペースを使う人なりが入ってくる時に、必ずその「ファン」という音がするのですが、邪魔にならないのですよね。
福谷:逆に心地よい音です。
morich:心地よいです。本当にぜんぜん邪魔になりません。
実はこれ、最初は家庭用の商品だったのですよね。
河瀬:よくご存知ですね。家庭用で売り切りの商品でした。
morich:実はtoCから始まった商品です。
「Akerun」の大転換
河瀬:そうなのです。3万6,000円の売り切りの商品だったのですが、そこから半年後ぐらいにピボットして、オフィス向けの「Akerun Pro」という商品を月額サブスクで提供するようになりましたね。
morich:ある種、大きなピボットですよね。製品も少し作り変えたのですか?
河瀬:金型から作り変えました。
morich:機能もでしょうか?
河瀬:はい。工場といいますか、工場のラインも場所を変えて作り直しました。結局、大量生産を前提に、日本だけではなく中国にもラインを作りました。
morich:不退転ですよね。家庭用で売れてはいるものの、実はなかなか使ってもらっていないという事実があったのですよね。
河瀬:そうなのです。家庭向けをリリースし、ありがたいことにかなり注目していただいたため、飛ぶように売れました。売れたのですが、1ヶ月半くらいは使ってくれていても、それ以降は使ってくれていないことが、アプリのユーザー数を見ていくとわかってしまいました。
要はおもしろそうだと思って買っただけで、課題解決など、ユーザーのためになっていないということがわかりました。そうであるならば、なにを期待して買ったのか、なぜ使ってくれないのかを掴む必要がありました。
継続して使っていただいているお客さまのごく一部に、かなりの頻度でお使いのお客さまがいらっしゃいましたので、使ってくれている理由や欲しい機能をヒアリングしていくと、個人というよりは複数名が軒並み、オフィスなど商用利用の要望が大きかったのです。
こちらの想定とニーズがぜんぜん違いましたので、「それならばそこに特化したハードウェアを作りたい」ということで「Akerun Pro」を作り直したということです。
morich:そこはみなさまが同意して、一気に変えたのですね。
河瀬:創業メンバーは6名いましたが、全員にけっこう納得感があったと思います。当時はメーカーズブームだったゆえに、バッと立ち上げてバッといなくなるようなところがあったのですよ。
morich:IoTなどですね。
河瀬:そうです。IoTと言っておけばお金が集まった時代があったのです。
morich:ありました。
河瀬:それにはなりたくないと思い、ユーザーに向き合うことをものすごく意識してきました。
morich:そこから今、導入社数は何社になりましたか?
河瀬:今は累計で7,000社に導入してもらっています。
morich:7,000社ですか? 最新の数字が出てきませんでしたので、調べ切れていませんでした。
河瀬:会社単位で使っていただいています。要は1つの会社で使いつつ、さらにユーザーさまが同じ会社で使っていただいているケース以外にも、1ヶ所で使いながらコワーキングスペースなどいろいろなユーザーが使ってくださるケースが多いです。
morich:そうですね。本当に便利です。
河瀬:ですので、台数よりもユーザーの伸びのほうが圧倒的に増えている状態です。
morich:おそらく「Akerun」を一度入れてしまうと、他の鍵はもう使えないですよね。
河瀬:そうですね。もちろん利便性もあるかもしれませんが、やはり物理的にベタッと貼りつけてしまうため、外せなくなります。
morich:そうなのですよ。
河瀬:これは冗談です。
morich:いやいや、本当に外せません。
河瀬:そうなると、やはり他のものは使えないという点はあると思いますね。
これからの展開について
morich:河瀬社長としてはこれからの展開をどのように考えていますか?
河瀬:やはり「Akerun」があることによって、いろいろな施設自体を無人化・省人化することができていると思っています。
例えばオフィスもコワーキングスペースを使って無人化しているところがありますし、会員制のサウナやフィットネスクラブ、バーなども、いろいろなところが無人化、省人化しています。
morich:最近、本当に増えましたね。
河瀬:ものすごく多いですよね。そのようなところにはかなりの割合で「Akerun」が入っています。ある種、無人化・省人化産業を作ってきたことに大きく寄与していると自負しています。
その中でやはり、これからは学校も病院も、小売もアパレルも含めたすべてのサービス業全般でますます無人化・省人化が進むと思いますので、そのような無人化・省人化産業を作っていくような展開にしていきたいと思っていますね。
morich:もともとのミッションあるいはビジョンは、モノづくりのところにありますよね。スマートロックを通して、無人化・省人化という1つのソリューションやイノベーションを作っていくと同時に、モノづくりのほうに関して次の一手はありますか?
河瀬:アイデアは非常にたくさんあります。背景として、これから労働人口がどんどん減っていきますが、労働には大きく分けて、知的な労働と物的な労働があります。
知的な労働に関しては、AIがほとんどリプレイスしていくと考えています。もちろん日本でがんばっているベンチャーもたくさんあるものの、基本はお金勝負になることがありますので、GAFAMなどにはなかなか勝てないだろうと思います。もはや彼らは言語の概念を超えているためです。
そのような意味では、ここで戦うべきではないと思います。むしろ、うまく活用するべきだと思っています。
ただし、やはり物的な労働をリプレイスしていくためには、どうしてもIoTやロボティクスが必要な場合があります。
morich:そうですね。
河瀬:この領域は、いろいろなものを組み合わせて作っていく余白が大いにあると思います。ですので、Photosynthでは「開ける」という動詞を「Akerun」にすることで楽しくしているのですが、今後も「なんとかルン」という語感で、いろいろな動詞を楽しくしていきます。
morich:「なんとかルン」のサービスがたくさん出てくるわけですね。
河瀬:すでにけっこうドメインはたくさん取っているのです。
morich:そうなのですね。例えばどんなドメインがありますか?
河瀬:ネタのようなものでいいますと、ドローン系のビジネスであれば「ハコブン(運ぶ)」や「タモツン(保つ)」「シャベルン」もあります。
福谷:広報さまがここにいらっしゃいますが、言っても大丈夫ですか?
河瀬:大丈夫です。これはもう創業の瞬間に取ったドメインです。ドメインを取った瞬間に、それは事業として展開するかどうかは別ですが、今のはすべてドメインとして取っているものです。
morich:ちなみに何個くらいあるのですか?
河瀬:今取っているのは10個くらいですかね。動詞というのは一般的なもので1,000語くらいあるのです。
morich:それを全部「ルンルン」にするのですか?
河瀬:「ルンルン」にできれば最高だと思っています。
morich:ポートフォリオがすごく広いですよね。
河瀬:動詞をリプレイスするというのは冗談としても、これからの時代、必ずロボティクスやIoTのような技術が必要になってくるのではないかと思います。
Photosynthの課題とかつての上司の背中
morich:さて、こんなに素敵な河瀬社長ですが、会社として課題はあるのでしょうか?
河瀬:課題はたくさんあります。僕がまだ子どもなのです。
morich:今、35歳ですか?
河瀬:今35歳で、精神的に幼い気がします。
morich:少年のようなところがあるというのは、周りの方に聞きます。
河瀬:いろいろなことに対して、上場前も上場後も、常にジェットコースターのような喜怒哀楽の中で生きているような感じです。
morich:きっと正直なのですよね。
河瀬:ですので、もう少し自分の心をコントロールしたいと思うことはもちろんあります。
morich:会社や組織として、先ほどの「ルン」という楽しさを作っていくにあたり、足りないものはありますか?
河瀬:今、事業自体はけっこう順調に進んでいるような状況かと思います。しかし、非連続的な成長ができる組織という観点では、もう少し強化していきたいと思っています。
「Akerun」はサブスクリプションモデルで、The Model型の組織です。
morich:ストック型のビジネスモデルですね。
河瀬:誤解を恐れずに言いますと、縦割り型でKPIを持って事業を進める組織を作ったことで、効率の良い営業活動をすることができ、上場までたどり着くことができました。しかし、その弱点は非連続的な成長がないことで、変わり種の人材をどのように育てていくかがキーワードになっています。
今は、創業メンバーを中心にいろいろな新しい事業を模索していますが、そのようなことは第二の創業として、人材プールや事業自体に投資していけるところに力を入れていきたいと思っています。
morich:今でも、上田社長と接点はあるのでしょうか?
河瀬:接点はもちろんあります。
morich:例えば、人材流出というお話もありましたが、ロールモデルとして上田社長から学んで活かしていることはありますか?
河瀬:もちろん、これだけ自分が副業的に事業をさせてもらいましたので、僕らの会社が「副業禁止」と言ったらとんでもないですよね。
morich:そうですよね。
河瀬:したがって、僕らの会社も副業はぜんぜんOKですし、承認もいりません。
morich:承認もいらないのですか?
河瀬:いらないです。ですので報告もいらないです。
morich:上田社長の背中を見て、行っているということですね。
河瀬:もちろん、会社を出て起業する方も全力で応援したいと思っています。
福谷:すごいですね。
河瀬:それは学びといいますか、恩返ししたいという気持ちがあるためです。
morich:河瀬社長の中で、上田社長以外にロールモデルとしている経営者や、ベンチマークとして見ている企業はありますか?
河瀬:例えば、僕らの株主にラクスという会社があります。尊敬しているため、株主として入ってもらっている部分があります。
morich:そうですね。
河瀬:すごく勢いのあるSaaSの会社で、スタートアップの界隈とは一線を画す強い理念と世界観を持っている会社です。そちらの中村さんや井上さんなどにも日々いろいろなことを教えていただきながら、経営哲学みたいなものに触れています。
また、SHIFTの丹下さんなどにも出資していただいています。そのような方々は目線の上げ方といいますか、議論している世界がぶっ飛んでいます。少し言葉にしづらいですが、自分で本当に実現したい世界と「だってしたいんだもん」と言い切る力を持っています。
福谷:よいですね。
morich:行い抜く力ですね。
河瀬:「したいんだもん」と言い切っていることが、逆にノーロジックですよね。
morich:もともと創業がそうですものね。したいことから始まった会社です。
河瀬:そうなのです。本当にすばらしいと思っています。芯を曲げずに手を出してみたい世界に突っ走っていくところが、自分も本当はそうしたいものの、いろいろな葛藤と迷いもあって躊躇してしまうため、すごく学びになっています。
morich:理科の先生だったお父さまの背中を見てモノづくりの道に向かい、自分の好きなものを作るという思いからビジネスが始まっているのが、少年のようですよね。
福谷:そうですよね。
河瀬:このような感じで上場までできるということはありがたいです。
福谷:いやいや、本当に夢がありますよ。
河瀬:社員がついてきてくれるのも感謝ですね。
morich:おそらく「おじさんキラー」といいますか、世の中にいる1世代上の先輩たち、経営者の方が放っておけないのでしょうね。
河瀬:おそらく投資家も「応援するか」という感じで見てくださるのだと思います。
行動あるのみ
morich:今日聞いていただいている方の中にも、起業家を目指している方、場合によってはすでに起業されている方もいると思いますが、実際に先を行く起業家として「このようなことを意識したほうがよい」というアドバイスはありますか?
河瀬:「行動あるのみ」だと思っています。ビジネスアイデア自体に価値はないと思っています。いくらでも競合は来ると思いますし、真似することもできます。
また、起業するためにはよく「雷に打たれたような原体験」のようなものがあり、起業ストーリーを綺麗に並べていく方がけっこう多いです。
morich:そのような本もたくさん出ていますね。
河瀬:もちろんそのようなこともあるとは思いますが、けっこうレアなケースなのではないかと思っています。
大前提として、雷に打たれたような原体験を持つ人の感度が高く、雷に打たれる避雷針だったために雷に打たれることができたと思っています。普通のコンクリートくらいの感度が低いビルでは、雷は落ちてくれません。
morich:確かに、落ちないですね。
河瀬:「鍵っておもしろい。こういうふうに世の中を変えていきたい」というのは、日々行動していく中で思ったことで、正直なところ、鍵のために人生を捧げようとは思っていませんでした。「鍵をなくして」という体験だけでは走れません。
morich:「あれはもう人生の挫折だった」ということにはならないですよね。
河瀬:それ自体は「あの時は辛かった」ということにはならないです。しかし、そこからいろいろなお客さまの声や、いろいろなエピソードが生まれます。
例えば、終末期を迎える方で、息子さんや娘さんたちは東京に出てきて同居しておらず、本来であれば介護施設で終末期を迎えなければいけなかったところ、「Akerun」があるからこそ訪問介護ができたということもあります。
morich:確かにそうですよね。
河瀬:ずっと寝たきりでしたので、鍵を開けることもできなかったそうですが、「終末期を自宅で迎えることができました。ありがとうございます」というお声をいただきました。他にも「『Akerun』はそのようなことができていたんだ」などと感じる声をいただきます。
それこそ、少子高齢化の話も含めて、解決できた課題も解決していない課題も明らかになり、徐々に手掛けたいこととミッションが見つかってきたと思っています。
morich:したいこととミッションがイコールになってきたということですよね。
河瀬:そうです。したがって、ビジネスがうまく展開するためにはPDCAをたくさん回せというお話もありますが、実際は雷に打たれることや、どの領域で起業するのかということを見つけるためにも、「行動あるのみ」であると考えています。
例えば「Akerun」も、5個から10個のいろいろなプロジェクトを進める中で、初めて当たったうちの1個です。
morich:それも「何かを議論しよう」という場で生まれたわけではありませんでしたよね。
河瀬:そこがすごく大事だと思いますね。
morich:「計画的偶発性理論」という、キャリアや人生の約8割は偶発的な予期せぬ出来事で決まるというキャリア理論があります。スタンフォード大学の教授が提唱しているものです。
実は、私は今静岡ラグビーフットボール協会の理事を務めています。
河瀬:そうなのですね。
morich:河瀬社長は『スクール☆ウォーズ』というドラマを知っていますか?
河瀬:わかります。
morich:私はあのドラマに感銘を受け、大学時代はラグビー部のマネージャーをしており、結果的に今、「ラグ女」としてお声がけいただきました。行動を起こしたことが、きっかけとなって結果につながるということです。
河瀬:morichさんが言うと説得力がありますね。そのような偶発性の瞬間を見ていらっしゃるわけですものね。
morich:ですので、「行動あるのみ」には強く同意します。
福谷:「類は友を呼ぶ」にも、けっこう似ているかもしれません。
河瀬:そうですね。
福谷:自分たちがどのような行動をしているかによって、たどり着くものであったり、いろいろな人との出会いのあり方であったりが、行動によって変わってくるのではないかと思います。
河瀬:あると思いますね。やはりたくさんのプロジェクトを進める中で、「Akerun」で起業するとなった瞬間に、いろいろなプロジェクトで関わってもらっていた優秀な人全員を「おいで」と誘う流れになりました。やはり「類友」ではないですが、そのようなところから起業したところがあります。
morich:ちなみに鍵の話をした時に飲んでいた4人は創業メンバーですか?
河瀬:創業メンバーです。創業メンバーは全部で6人います。6人の頃はとても大変でした。
morich:ちなみに今もみなさま残っているのですか?
河瀬:3人辞めて、今は3人です。
morich:そうなのですね。しかしそこはおそらく、絆が本当に固いですよね。
創業メンバーとの絆
河瀬:ちなみに1人は、先ほどお話しした、パナソニックに勤めていた熊谷です。実は彼とは鹿児島の中学で同じクラスでした。
morich:そうなのですか?
河瀬:中3と高3のクラスが同じで、化学部も同じでした。さらに、私は筑波大学に進学しましたが、彼は早稲田大学に進学しましたので、サークルも同じでした。職場も同じですので、ずっと隣を走っていますね。
morich:切っても切れない縁ですね。
河瀬:副社長の渡邉も、早稲田のサークルで代表を務めていた時の副代表が彼でした。本当に友達で集まって起業したという感じです。
morich:そうなのですか? そのサークルもたまたま見つけたということでしたよね。
河瀬:そうですね。
morich:起業された後は紆余曲折あったと思いますが、そのような同志とは辛い時や苦しい時でも絶対に離れないですよね。
河瀬:そうなのですよ。やはりそこの信頼関係ですよね。結果論になりますが、やはり古くからの友人である3人が最後に残りました。
辞めた創業メンバーも価値観としてはすごく合っていたのですが、やはり「河瀬に最後の1票を預ける」という信頼感が大切であると思いました。最後は誰かが決めなければいけませんので、学生の頃から寝食を共にしていたり、お互いの実家を知っていたりといったことが意外と大事だと思います。
河瀬社長の夢
morich:最後に河瀬社長に聞いてみたいのが、ご自身の夢やこれからのビジョンなのですが、何かありますか?
福谷:個人的なビジョンということでしょうか?
morich:そうです。
河瀬:あまりよくないことなのですが、自分の個人格と法人格がかなり重なっている部分があります。
morich:そうなのですね。人生ですものね。
河瀬:やはり、会社で実現したいことをしていきたいと思っています。しかし、最初に話した種子島の頃のエピソードで言いますと、やはりノーベル賞のようなものを受賞することになります。
morich:そうでしょう。私はその言葉を待っていました。
河瀬:待っていたのですか?
morich:はい、それを言っていただかないと終わらないと思っていました。
河瀬:当てられてよかったです。やはり、ノーベル賞受賞に匹敵する発明家、ノーベル賞を取れるくらいのインパクトのある発明家になりたいです。スティーブ・ジョブスもノーベル賞は取っていませんが、それに匹敵する功績を残していると思っています。社会や人類を前進させた発明家であると思っています。
今は本当に時代が変わるとてもおもしろいタイミングです。
morich:そうですよね。今はいろいろなものの常識が変わってきていますよね。
河瀬:そうなのですよ。しかも、僕らは、その時代においてITだけではなくハードウェアも作れる、本当に稀なベンチャーです。できるオプションが多いため、そのようなことにチャレンジしていく発明家になっていきたいと思います。
会社の中で一番楽しそうに働く
morich:それは会社でも、そのようなことを常に説いていらっしゃるのですか?
河瀬:「発明家」はよく言っているワードです。特に開発メンバーには「未来を作る発明家であれ」、特にビジネスサイド、営業サイドには「未来へいざなう伝道師であれ」とよく言っています。
新しい価値観やライフスタイルを切り開くような集団でもあり、僕個人がそのような立役者でもありたいと思っています。
morich:河瀬社長はすごく言霊の方ですよね。誰かの影響を受けているのですか?
河瀬:そんなことはないと思います。
morich:発するワードがすごく心に響きます。
福谷:響きますね。思いに芯があると感じ、言葉がどんどん響きます。
morich:会社の中ではどのような存在ですか?
河瀬:会場に広報がいますので聞いてみたいですね。どうなのでしょうね。
morich:リーダー格なのでしょうか? 例えば、4人のうちで誰が社長になるかという話になったと思いますが、そのあたりはいかがですか?
河瀬:そこは僕が言い出しっぺで、その4人の飲み会も僕が幹事でした。さらに6人になる時も、残りのメンバーは僕が誘いましたので、社長は僕になる流れでした。
そこからいろいろな変遷がありましたが、もしかしたら社員からは「河瀬は楽しそうに仕事しているな」と思われているのではないかと思います。
morich:「会社の中で一番楽しそう」という感じですね。
河瀬:今、とても楽しいです。
福谷:良いですね。
morich:そのように言い切れる社長はなかなかいませんよね。
河瀬:今はきちんとしていますが、楽しくないといいますか、きちんとしていない時期においても守りをしっかりしていき、上場前など何か新しいことをする際は、属人化をなくしていくことが大切であると思います。
僕は、大株主として事業部長にコメントしていく立場の時期もありますし、時期によっては手掛けたいことを、ある意味、独断と偏見でプロジェクトを選んで深く入り込み、急速に立ち上げていくということもあり、時期によって使い分けている状況です。
今はまさにその時期ですので、「楽しく働いているな」と思われていると思います。「また無茶な要望が来たな」「これ、明日までに作れって言われたよ」などですね。
morich:そのようなことも日常茶飯事ですね。
河瀬:そうだと思いますね。
福谷:後ろのほうでうなずく人が1名いらっしゃいます。
河瀬:後ろを見ないようにします。
morich:しかし、会社の中で楽しそうにしている人というのは良いですよね。実は、リクルート時代の「リクルートグループの中で一番楽しそうに仕事をしている人」というアンケートで一番になったことがあるのです。とてもうれしかったです。
河瀬:それはすごいですね。
morich:リクルートは、みんなのテンションが高く、モチベーションがすごく高いのですが、その中で楽しそうに仕事している人に選ばれました。「仕事ができる人」などではなくて、楽しそうに仕事している人です。
福谷:それはモチベーションも継続的に上がりますよね。
morich:そうなのですよ。共通点が見つかりました。
河瀬:morichさんと一緒にいると元気をもらえますものね。
福谷:元気もらえますよね。
morich:とてもうれしいです。
福谷:今日も真っ赤な姿ですね。
morich:今日はさらに真っ赤なのです。光沢のある生地です。
福谷:今日は特に気合いが入っていると思っていました。
計画的偶発性理論
morich:そうなのですよ。今日は特に待望の回でした。このように、これまで画面越しにお見かけしていた方に対面でお会いできることが、「morichの部屋」を行っている中ですごくうれしいことなのです。
実は最近、求職者の方に鍵に強くこだわりのある方がおり、最近調べていたのですよ。
河瀬:そうなのですか? ニッチな方ですね。
morich:とてもニッチですよね。ものすごく鍵好きで、家の中でもいろいろな鍵を買って集めているというコレクターの方だったのです。「そういえば」と思った時にこのお話が来て、本当にシンクロしました。
「河瀬社長は最近どのようにされているかな」と思っていましたので、2年越しにお会いできるということで気合いを入れてきたのです。これも、先ほどの「計画的偶発性理論」ですよ。
福谷:行動がかみ合ったということですね。
福谷:今日もそろそろお時間が来てしまいそうです。本日も本当に良い出会いだと思いました。私もお話を聞いて、ドキドキと言いますかわくわくと言いますか、「夢持つのって良いな」とあらためて思いました。
morich:ノーベル賞を取っていただきたいです。
福谷:取っていただきたいです。私たちも応援させていただきたいと思っています。morichさん、今日はいかがでしたか?
morich:小さい頃にずっと思い描いていたものを、今ビジネスにできていることは、すごく幸せなことですよね。
河瀬:そうですね。
morich:私はやはり、世の中の方には、したいことをしてもらいたいのです。したいことをすれば、潜在的な能力が3割増しになると立証されていますので、そのような意味での体現者でもいらっしゃると思っています。これから「ルン」をたくさん見させていただくことを本当に楽しみにしています。
福谷:「『ルン』してルン?」みたいな感じですね。
morich:そうです。「して『ルン』?」みたいなかたちで、流行語にしたいくらいです。これからたくさん生み出していただきたいという期待でいっぱいです。
福谷:ありがとうございます。今日は明るい未来のお話ができたと思っています。オーディエンスもたくさん来ていただいており、良いお話が聞けたのではないかと思います。
morich:食い入るように、すごく真剣に聞き入っていただいていますよね。
福谷:「新morichの部屋」もこれからも継続していきますし、いろいろなコンテンツや、私たちも新しいわくわくすることがあれば、実行に移してみたいです。
morich:そうですね。
福谷:「これしてみようよ」といった感覚でですね。
morich:型にはまったものではなくてですね。
福谷:いつでもピボットできます。
morich:河瀬社長にもまた来ていただきたいですね。
福谷:来てほしいです。
河瀬:ぜひ、いつでも呼んでください。
福谷:我々も成長させていただきたいと思っています。本日はお越しいただき、本当にありがとうございました。
morich:ありがとうございました。
河瀬:ありがとうございました。
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