中期経営計画の業績目標を達成するための、3つの基本戦略の詳細は以下のとおりである。
(1) 基本戦略I 安定した財務基盤の確立・収益力の強化
財務戦略では、安全性と効率性を重視しつつ、「攻めの姿勢」に転じるための財務戦略を目指す。安全性では、グループ内資金の弾力的な活用により、必要十分な資金の確保を図る。効率性では、ROEを重視した高効率な連結経営や事業会社単位のKPI設定により、資本コストを意識した効率性を追求する。また、成長性では、戦略的な投資枠の拡充や積極的な業務提携、M&Aにより、投下資本の最適配分を図る。さらに、株主還元方針として、株主に対する利益還元を経営上の重要な施策の1つとして位置付け、将来への投資や内部留保のバランスを考慮しながら、安定した配当を継続する方針である。基本戦略Iの安定した財務基盤の確立・収益力の強化は、主として基本戦略IIで推進する成長戦略を下支えするものであると考えられる。
(2) 基本戦略II 研究開発の強化による価値創造と、2030年に向けた種まき
同社グループでは、既存事業の強化・新たな柱の創出を成長戦略に掲げる。その実現に向けて、事業基盤を維持するための投資を263億円とし、前中期経営計画並みの規模を確保しながら、そのうち環境投資の割合を大きく増やす計画だ。地域別には、北米では、太陽光発電だけでなく風力発電の導入も予定しており、ASEAN地域では新たな拠点の設置や、現地パートナー企業の選定を行う。また、新たに戦略事業投資として100億円を設定、研究開発費も前中期経営計画から26億円増額し新規事業の創出を加速させる計画であり、技術研究所では先行開発に注力する。事業セグメント別の成長戦略は、以下のようになっている。
(樹脂加工製品事業)
高付加価値化による利益率の向上と、積極的な販路拡大を目指す。すなわち、ベースとなる保有技術を磨き、高付加価値製品の提案によって利益率の向上を図る。グループ内で、素材やコンパウンドの調達から設計、量産まで行える強みを生かして、バイオプラスチックなど環境商材へのチャレンジも進める。既存顧客以外の自動車メーカーに積極的に販路を拡大するだけでなく、異業種にも目を向ける計画だ。
また、強みを生かし、ニーズを先取りする提案型開発に注力する。従来保有している要素技術に加え、近年では多層成形や、ホットスタンプ(金属光沢を装飾することができる「箔押し」と呼ばれる印刷技術)、LED照明設計などに力を入れている。これらの技術を内外装部品に応用して、提案型の開発を行い、展示会への出展などを通じて積極的なセールスプロモーションを進める計画だ。
(ケミカル事業)
まず営業機能の大胆な組織再編により、ターゲットの4分野で案件創出のスピードアップを図る計画だ。具体的には、モビリティ部と電機・電子部の統合により、自動車のEV化に対応する。また、ファインケミカル部とコーティング部の統合により、環境対応ニーズに応える機能性化学品に注力する。さらに、生活材料部とフード&ヘルスケアの統合により、例えば食品と包装材をセットで提案できるようにする。これらの営業部門の大胆な再編により、従来に比べて付加価値の高い商品を提案する計画だ。併せて、事業企画部を新設することで、成長戦略の実行力を高め、スピードアップしていく。
ケミカル事業は商社機能であることから元々付加価値が小さいが、今後は「ものづくり機能」を強化することで付加価値拡大を目指す計画だ。まずは、「ものづくり事業推進室」を新設し、営業部と同列に置くことで顧客との距離を縮めて、マーケットインの技術開発を加速する。そして、森六ケミカルズと、ものづくり機能を持つグループ会社との連携強化を図る。具体的には、化学品の合成受託や自動車用機能材の製造を行う五興化成工業(株)では、総額8億円の投資を継続し、研究開発の強化によりオリジナル商品を開発する。また、高機能多層フィルムの成形を行う四国化工では、総額30億円規模の投資を継続する。これらの施策によって、ものづくり機能を強化し、付加価値の高いトータルソリューションを提案する計画である。
(新規事業の創出)
さらに、既存事業の成長戦略に加えて、グループのシナジーを発揮して「新規事業の創出」にも取り組む。特に、グループの持つ資本や強みを生かせる環境・ライフサイエンスの領域で新しいテーマを探索する。第13次中期経営計画では、常に複数のプロジェクトを並行して進めることで、新規事業を創出する計画である。
以上の成長戦略の着実な実行が、第13次中期経営計画で掲げた業績目標の達成を確実なものにすると考えられる。今後の各成長戦略の進捗状況に注目したい。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 寺島 昇)
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