―デジタルシフトで目覚めたもう一つの中枢、“守り”のニーズが成長の原動力に―
菅政権ではその看板政策としてデジタル庁創設に始まるデジタル政策を積極推進していく構えにあり、株式市場でも「国策に売りなし」として関連銘柄を幅広く買い進む動きが顕在化している。
もっとも、こうした社会のデジタルシフトを買う相場は安倍政権時代から既に活発だった。今を遡ること2年半前、2018年5月に経済産業省が「デジタルトランスフォーメーションに向けた研究会」を立ち上げたが、ここでまとめられた報告書では、今後数年内にデジタル化によるシステム刷新を集中的に進める必要性が叫ばれ、それを怠った場合は年間で最大12兆円という経済損失が発生すると警鐘が鳴らされた。これは「2025年の崖」としてメディアでも広く喧伝され、デジタルトランスフォーメーション(DX)関連相場の引き金となった経緯がある。
そして、このDX推進と相まって、企業のデジタルシフトと表裏一体であるサイバーセキュリティー 分野への取り組みも重要性を一段と高めることになった。
●サイバー攻撃の巣窟となり得る5G環境
次世代高速通信規格「5G」の商用化がグローバルで進展しており、これも新たな波紋を投げかけている。10月中旬には比較的出遅れていた米アップルが満を持して5G対応iPhoneを発表しマーケットの耳目を集めたが、いうまでもなく5Gはスマートフォンの性能を高めるだけではなく、ネット空間とつながるすべてのIoT機器にこれまでにはなかった高付加価値化の可能性をもたらすことになる。5Gは情報の高速大容量化にとどまらず、低遅延・多数同時接続の特長からIoTによる接続端末数を爆発的に増やす呼び水となる公算が大きいとみられている。となれば、それに伴うサイバー犯罪の増加が容易に想起され、これに対応したサイバー防衛のニーズもまた急膨張することは自明である。
世界的な見地に立っても政府機関や大手企業を狙ったサイバー攻撃が激化の一途をたどっており、さながら電脳空間における国際戦争の様相を呈している。国家安全保障の観点からは各国政府や国を代表する大資本企業を中心に、その対応に尽力することが必須課題となる。政府は今秋、欧米やASEAN各国と共同のサイバー演習を主催する方針。今から4年前のトランプVSヒラリー・クリントンの米大統領選では、ロシアが米国に対しサイバー攻撃を仕掛けたとされているが、その後は中国がロシアに倣う形で近隣諸国への「サイバー政治介入」の動きを強めていることは周知の通りだ。この両国を中心として国際間のサイバー攻撃は年々先鋭化しており、看過しておけば国益を大きく損なうことになる。
●デジタル政策と同時進行する強力テーマ
国内に目を向けても、デジタル政策と同時進行で進化するサイバー攻撃への対応は、官民を挙げて迅速に対処すべき課題だ。自民党はデジタル政策を早急に進めていく構えにあるが、来週明け19日に、甘利税制調査会長を座長とする「デジタル社会推進本部」の初会合が開かれる予定である。デジタル庁創設に向けた党内協議の担い手となり、マイナンバーやサイバーセキュリティーなどテーマごとに小委員会を設置して、法改正の詳細を詰めていく計画だ。ここでは政府のIT政策の基本方針を定めたIT基本法の20年ぶりの全面改正を行う。サイバーセキュリティー基本法や官民データ活用推進基本法などの改正も対象となる。
こうしたなか、各省庁はサイバーセキュリティー分野への取り組みを強化している。21年度予算の概算要求で過去最高水準を計上した防衛省は、そのなかで宇宙空間やサイバー攻撃など新領域への対応を考慮して、「宇宙作戦群」や「自衛隊サイバー防衛隊」といった組織を新設することが伝わっている。前述したように、サイバー防衛は国家安全保障面で極めて重視される段階に入った。サイバー分野については前年度比で約100億円の増額を要求するとも報じられている。
また、総務省では民間企業や自治体を対象に行っているサイバーセキュリティー対策演習を遠隔操作でできるシステムを開発し、21年度からの導入を目指すとの報道も出ている。サイバー防衛の実地訓練を全国規模で実施し、対策の底上げを狙う姿勢を明示している。そして、金融業界もまた風雲急を告げている。電子化の過程でサイバー犯罪のターゲットとなりやすく、その対策が急がれる状況にある。金融庁は直近、10月13日に金融機関110社を対象にサイバーセキュリティー演習を実施することを発表。最近ではドコモ口座を使った不正出金などキャッシュレス決済サービスを悪用した犯罪が相次いだ。こうした事案を踏まえ対策に全力を挙げていく方向にある。
●実力を備えた最強株候補5銘柄を選出
DX化投資とサイバーセキュリティーは切り離すことが不可避の、いわば両輪として推進していくべき国家戦略といって過言ではない。株式市場でもサイバー防衛分野で実力を備えた銘柄は、投資資金の流入が今後加速していく局面に突入したといえる。今回はここから脚光を浴びそうな、最強選抜5銘柄を取り上げた。
◎FFRIセキュリティ <3692> [東証M]
未知のウイルスを検知する技術で強みを持っており、標的型攻撃に特化したソフトを輸入製品ではなく自社で開発している点がポイント。独立系ながら世界トップレベルのセキュリティー専門集団を擁し技術力で業界を先駆する存在。サイバー防衛では攻撃者の心理や技術動向を考察し、脅威を先読みして攻撃側の進化に対応することを可能としている。また、政府機関や大手企業との協業実績も豊富で今後に生かされそうだ。株式需給面では、三井住友トラスト・アセットマネジメントなどの機関投資家が同社株を9月以降買い増す動きをみせている。株価は3000円大台を回復し、年初来高値圏に浮上したあと押し目を形成中。15年7月には1万8500円の上場来高値に買われたことがあり、天井の高さは魅力となる。
◎デジタル・インフォメーション・テクノロジー <3916>
金融業界を主要顧客に競争力の高い情報サービスを展開、ソフト開発にほぼ特化しサイバー攻撃向けシステムなどセキュリティー分野で高い実力を持っている。また、同社独自の開発実績や技術の蓄積をバッグボーンに基幹系、オープン系、ネットワーク系、組み込みソフト、運用支援まで一括して対応する統合的ソリューションでも優位性がある。時流を捉えた新戦略にも積極的で、大興電子通信 <8023> [東証2]と協業で中小企業向け電子契約の外部委託サービスをスタートさせるなど、業容拡大への布石に余念がない。株価は目先ひと押し入れているが、日足一目均衡表は雲を抜けており、25日・75日移動平均線のゴールデンクロスを示現した矢先で中期的にも狙い目。6月1日の戻り高値1650円奪回から戻り本番へ。
◎ラック <3857> [JQ]
情報機器の販売及び高度なセキュリティー技術を売り物としており、ネットワークシステムのセキュリティー診断、ネットワーク監視などの実績で先行する。大株主のKDDI <9433> とは業務面でも連携し展開力の高さは強み。また、最近のテレワーク 導入加速に伴い、サイバー攻撃対策ニーズにいち早く対応して商機を捉えている。近年のサイバー攻撃は特定の組織や個人を対象とした標的型攻撃メールが増加傾向を強めているが、同社は直近10月1日から「サイバー保険付き標的型攻撃メール訓練“プレミアム”」の提供を開始、今後2年間で500案件の契約数を目指す。株価は6月2日の年初来高値1378円を約4ヵ月ぶりに奪回し、19年6月の高値1863円をクリアする大出直り相場に向けて現実性が高い。
◎SIG <4386> [東証2]
官公庁向け給与システムなどに強みを有するシステムインテグレーターで、セキュリティー分野ではコンサルティングや脆弱性診断、指紋認証ソリューションなどで高い競争力を誇る。クラウド市場トップシェアのAWS向けセキュリティー診断サービスでも実績を重ねている。また、同業の会社でグループ人員約1200人という規模を持つアクロホールディングス(東京都中央区)の持分法適用会社化を企図し、資本・業務提携に動いていることもポイント。業績は14年3月期から20年3月期まで7期連続で増収増益を継続、21年3月期も収益成長路線を維持する見通し。株価は直近急動意しているが押し目買いで対処。上場時の18年6月につけた最高値1655円(修正後株価)更新も十分に想定される。
◎ブロードバンドセキュリティ <4398> [JQ]
監査やコンサルティング、脆弱性診断などのIT分野におけるセキュリティーサービスを総合的に展開し、時代に即したテレワーク向けサービスも充実させ成長トレンドに乗る。8月には「テレワーク環境情報リスクアセスメントサービス」を提供するなど同分野への展開力を強化、直近10月12日には情報セキュリティー製品の販売を手掛けるフーバーブレイン <3927> [東証M]との業務提携を発表し、企業のテレワーク環境の構築支援などに一段と本腰を入れる構え。大日本印刷 <7912> とも人材育成を含め情報セキュリティー分野で資本・業務提携している。業績は好調を極め、20年6月期は営業利益段階で前の期比2.8倍と急拡大を果たしたが、21年6月期も17%増益の4億円と2ケタ成長継続の見込み。
株探ニュース
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