紀文食品<2933>は「中期経営計画2023」において収益性向上・財務体質改善による「持続的成長サイクルの確立」を掲げ2027年3月期に「持続的に成長できる強固な企業体質へ」の実現を目指している。基本方針として、「おいしさと楽しさを「タンパク加工技術」と「品質衛生管理技術」の融合により実現し、お客様の満足度を向上し続けます」「食に関する幅広い事業展開により、社会の発展と豊かなライフスタイルの確立に貢献するグローバルな企業グループを目指します」としており、既存事業の拡大、海外拠点の確立、新規商品の開発と収益化、および全社的な業務改善と効率化に取り組んでいく。主要なKPIとしては2027年3月期に、海外売上比率15%、営業利益率5%、自己資本比率40%を掲げている。2024年3月期は「成長性と収益性の基礎作り」と位置づけられ、連結売上高108,419百万円、連結営業利益4,593百万円、海外売上比率は13%、営業利益率4.2%、自己資本比率30%を計画目標とする。既存商品の拡大による売上増加と利益改善、新市場に向けた商品の開発と投入、原材料価格やエネルギーコストの上昇について適切なリスク対応をとりながら、計画的な投資や継続した原価率の低減活動・業務改善によって2024年3月期の達成を目指している。
中期経営計画の骨子は「成長の加速」「経営効率の改善」「経営基盤の整備」により成長性と収益性のある企業グループを目指すとしている。
1. 成長の加速
国内食品事業の安定成長に加えて、成長ドライバーである海外食品事業の拡大により成長を加速していくとしている。国内食品事業では増収を実現するとともに、海外食品事業でも着実に上昇している。国内市場へは長期間にわたり顧客から支持され全国シェアトップの水産練り製品及び中華惣菜などの商品群を中心として売上拡大に取り組み、新たな顧客層を取り込む計画である。同社の製品は長期間にわたりマーケットに受け入れられているため一般消費者に馴染みが深く、安定した売上が見込める商品が多数揃っている。また商品とともにブランドとしての知名度もあるため新商品を展開するにあたり優位な状況でマーケットに商品を訴求できる。同社の「企業ブランド」と「商品ブランド」は、安全安心を優先した商品を提供してきたことで培われてきたブランド力を持っている。「ブランド・ジャパン」「一般生活者編」の調査によると1,000社中291位を獲得するなど、認知力が高いとともに、安全・安心なイメージでマーケットに浸透している。
同社の中期経営計画における海外食品事業の目標は売上構成比で13%としている。海外食品事業は人口増や新商品の投入による需要の増大が見込め今後新規開拓を進め売上を拡大させるドライバーとして注力している。戦略商品であるカニカマを始めとする水産練り製品の新市場(中東、南米、アフリカなど)への導入を目指し、Health Noodle(糖質0g麺)は、既存の米国コストコ社以外への販路拡大と、米国以外の市場(中国、欧州)への展開拡大を図る。同社は海外進出を40年ほど前から取り組んでおり生産工場や物流施設はすでに海外に設置されている。これらの海外拠点とネットワークを使って、原材料調達力を安定化させることができる。調達先を分散させることで購入の安定量を確保するとともに原材料の価格高騰に対する対策も行う。機能性や現地のニーズの高い高付加価値商品を顧客とのコミュニケーションの中で直接入手することで新しい商品の企画に繋げる。これらの情報を、同社が持ち合わせているタンパク加工技術、または顧客ニーズに合わせた商品開発を行い、機能性や現地のニーズの高い高付加価値商品として投入していく。販売ルートは現地市場の人的・物的ネットワークを活用することで売上拡大に取り組む。現在の中国、欧州のシェア自体、1ケタ台の前半しかないため、今後の大きな売上拡大が期待でき、取引量・販路の拡大を図りつつ企業・商品ブランドを構築しながらシェア拡大を図る。
2. 経営効率の改善
コスト競争力のある強靭な企業体質の構築に向けた取り組みを行う。市場環境の変化により原材料価格の高騰、原油価格の高騰といった変化に対応しながら安定した成長を続けるため、トータルコストの見直しによるコスト競争力のある強靭な企業体質の構築に取り組む。グローバルネットワークを使った調達先の多様化や生産体制の効率化に取り組むことで、事業展開のリスク分散を図る。物流網も同社独自のネットワークを用いることにより、サプライチェーンの混乱を招くことなく安定稼働を継続する。同社は紀文フレッシュシステムを用いて食品物流システムを構築しており、物流事業では「物流」と「IT」という2つの軸をトータルに捉え物流オペレーションを展開している実績とノウハウがある。これにより、物流の様々なニーズに応えており、百貨店納品代行、共同送配サービス、流通加工サービスなど幅広いケースに対応ができ、販売エリアのニーズに合わせた物流を組んでいる。これらのノウハウは海外の物流システムにも応用可能である。M&A戦略を推進する可能性もある。食品及び関連カテゴリーでのサプライチェーン上で、ユニークポジション或いはキーポジションにある企業に対して、シナジー効果が期待でき、成長を加速させ将来の企業価値向上につながるような企業を対象としている。
3. 経営基盤の整備
社会に求められ支持される存在であるための経営進化を続け、財務体質の強化とともに、社会課題を解決しつつ持続可能な社会の実現に向けた取り組みを両立させる。同社はサステナビリティへの取り組みも経営の重要課題として認識しており、代表取締役社長の堤裕氏をトップに置いたサステナビリティ委員会を2021年9月に発足させ課題解決に取り組んでいる。国内で幅広く活動し海外でも事業展開を行う同社は、企業の精神とそれに基づく理念等を根底とし企業活動について企業内外で共有と共感を得る取り組みを示すことを目標としている。グローバル企業がサステナビリティレポートを公表しているなかで、同社もその国際基準にかなった経営基盤の整備を進める。2022年8月には同社グループの国内食品事業セグメントを対象としてガバナンス・戦略・リスク管理の3項目についてTCFD提言に基づいた分析検討を行いその内容を開示している。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 石灰達夫)
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