1. クラウドサービス市場の成長
システム開発においては“所有から利用へ”の流れのなかで「クラウド」へのシフトが進行中である。顧客にとって、初期投資が抑えられ最新のシステムがすぐ利用でき、自前で運用・保守をする面倒もない。2020年秋からは、各省庁においても、自前で管理・保有する現在のシステムを順次クラウドに切り替える取り組みが開始されている。情報セキュリティに配慮するとともに、コストを抑制し、デジタル技術の更新も早まる点でクラウドが優位との判断に至った。省庁の動向は、今後、自治体や民間にも波及し、クラウド化の流れは加速すると考えられる。
クラウド化の進展は、同社の成長にも大きく貢献してきた。2016年5月期に全社売上高の20.5%だったクラウド利用料の売上高構成比は、2021年5月期には46.5%まで上昇している。
2. 国内人口カバー率50%を超える主力クラウドサービス「NET119緊急通報システム」
同社の代名詞ともなっているのが2010年※に開始された「NET119緊急通報システム」である。このシステムは、聴覚や発話に障がいのある人のための緊急通報システムであり、スマートフォン・携帯電話のインターネット接続機能を利用して、簡単に素早く119番通報することができる。急病やけが、地震や風水害、火災などの緊急時に、自宅からの通報はもちろん、GPS機能を利用しているため外出先からも通報でき、受信側はすぐに居場所を特定できる。操作性の良さやシステムとしての信頼性の高さが評価され、現在では全国の自治体・消防団体で広く普及している。同システムはクラウドサービスであり、顧客である自治体にとっては自前で運営する場合と比較してコストが安く運営の手間もかからないというメリットがある。なお料金体系は、消防の管轄人口に応じた月額利用料を支払う方式である。
※開始当初のシステム名は「緊急通報システムWeb119」。後にリニューアルされた。
兵庫県神戸市や埼玉県川口市などの自治体を皮切りに導入が進み、2015年12月には東京消防庁、2016年10月には大阪市消防局で稼働を開始し、全国の自治体への横展開に弾みがついた。2021年5月期にも、福岡市、大分市、長野市、川崎市など多数の自治体でサービスが開始され、同システムが導入されている消防本部の管轄人口は約7,229万人(2021年11月末現在、契約済未稼働を含む)、人口カバー率は56.7%と過半数となってなお増加している。2018年3月、総務省は同システムの早期導入を進めるために、地方自治体の各消防本部が同システムを導入した際の運用経費を地方交付税で賄う措置を通知(消防情第98号)した。2018年12月には総務省消防庁から各都道府県の消防に対して、「NET119緊急通報システム」の未導入地域の解消を促すために地域別導入状況の公表を開始した。大都市圏の自治体での導入が進展したため、今後の導入は中規模・小規模の自治体が中心となる。導入ペースが多少鈍化することが予想されるものの、今後も導入自治体の増加が見込まれ、中期的には65%から70%前後の人口カバー率に達すると予想される。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 角田秀夫)
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