(2) 新規ビジネスの開発と育成
中期経営計画の最大の目玉は、新規ビジネス(M&A含む)である。5つの成長分野への取り組みを社長直轄プロジェクトとし、経営資源投入を強化している。5つの成長分野とは、1) 再生可能エネルギー、2) 水素・電池、3) 環境衛生、4) バイオプロダクツ、5) 産業向けDX・IoTである。これらの分野についてはこれまで極東貿易<8093>も何らかの形で関わってきており、市場や技術の知見・経験が生かせる分野でもある。同社はこのなかから、複数の事業化を目論んでいる。ここで注目しておきたいポイントは、同社がM&Aの成功のための知見やノウハウを有していることである。2023年3月期より、5つの成長分野のなかから、重点4新規事業「洋上風力発電関連事業」「自動運転システム関連事業」「バイオプロダクツ」「インド事業」に注力している。重点4新規事業の活動状況は逐次、経営企画室へ報告される。社長直轄マターとして、全社的視点で協業・M&Aやリソース配分などを判断し新規事業の舵取りをしている。
1) 再生可能エネルギー分野:洋上風力発電関連事業
洋上風力発電関連事業は同社にとって最注力分野であり、カーボンニュートラルにも貢献する将来有望なビジネスである。同社は、これまで資源開発関連事業で培ってきた海底探査、掘削の経験と知見を生かし、洋上風力発電に関する事業に注力しており、その一環としてオランダのTWD B.V.(以下、TWD)と戦略的アライアンスを結んでいる。TWDは洋上風車等の建設のための特殊大型治具(Pile Gripper、立て起こし機、Lifting Tool、各種架台、Jacketの抗用のTemplate 等)の設計を行っている。この分野ではTWDはリーディングカンパニーであり、国内外で業界での知名度は高い。
2022年1月には、TWDの日本代理店である(株)トリオマリンテックと同社にて合弁子会社TWD Japan(同社出資比率70%)を設立した。同社は設計だけではなく、その設計に基づく製作にも携わり、将来的には保守・メンテナンスサービスへの事業展開を目論んでいる。同社は、設計・製作段階から運営・メンテナンスまで関われば、洋上風力風車に関する経験・ノウハウが蓄積できると考えている。
洋上風力発電関連事業では、「再エネ利用法海域利用法にかかるプロジェクト」と「港湾プロジェクト」の有望案件のなかから、国内のマリコン※やゼネコンと連携して受注活動を進めている。
※マリコンはマリンコントラクターの略で、五洋建設<1893>や東亜建設工業<1885>などが有名。
「再エネ利用法海域利用法にかかるプロジェクト」では、経済産業省が2022年12月にラウンド2※の4海域の公募を開始し、2023年度中に事業者が選定される。TWD Japanには、ラウンド1(既に事業者決定)に加えラウンド2、3案件について、大手ゼネコン・マリコンから数多くの引き合い・問い合わせがあり本格的受注活動が始まっている。
※ラウンド2:1つの事業体が大半の対象海域を落札しないよう1事業者当たりの落札制限(発電・送電容量の上限を計100万キロワット)を設ける。対象区域は秋田県八峰町・能代市沖、同県男鹿市・潟上市・秋田市沖、新潟県村上市・胎内市沖、長崎県西海市江島沖の4海域
「港湾プロジェクト」は港内に小型洋上風力発電を建設するプロジェクトである。同社では「富山県入善町沖」案件を2023年3月期に受注・納入済みである。それ以外の案件(福岡県北九州港内、茨城県鹿島港内など)も設計及び制作物の受注を目指し積極的に活動している。「港湾プロジェクト」は風車規模が小さいが、受注までのスピードが早く、短期の受注に期待がかかる。
「再エネ利用法海域利用法にかかるプロジェクト」は大型洋上風力発電である。取引関係者が多様かつ複雑で、地元住民や漁業関係者との調整に時間を要し、受注まで時間がかかる。「港湾プロジェクト」案件を確実に受注しながら実績を積み重ね、「再エネ利用法海域利用法にかかるプロジェクト」の大型案件の獲得を目指す。
TWD Japan関連以外にも洋上風力分野の調査からメンテナンス用まで製品の品揃え(海上特殊タラップシステム、メンテナンス用水中探査/作業ロボット)を拡充しており、引き合いもあるようだ。
洋上風力発電関連事業については、2024年3月期の売上高は10億円(前期は5億円)、2026年3月期には20億円を見込んでいる。既に概要設計の複数受注が決まっており、この計画は堅めの数値で前倒しで達成する可能性もある。また、同事業は収益性も高い。TWD Japanの商圏は当面、日本・東アジア(台湾)となるが、まずは日本で事業基盤を強化する予定である。洋上風力発電関連事業ではTWD以外にも様々な種まきを行っているもようで、第2弾、第3弾の事業シナリオも注目したい。
2) 産業向けDX・IoT分野:自動運転システム関連事業
同社は、大手鉄鋼メーカーによる「製鉄所構内で運行する特殊車両を自動運転にできないか」という依頼を機に、製鉄所での構内用特殊車両の自動運転システムの商用化に乗り出した。同社はこれまで、工場向けIoT機器や構内自動運転機関車の開発に取り組んできた。その知見を生かし、自動車試験システムのトップサプライヤーである英国AB Dynamicsグループと、工場構内を走行する現行特殊車両向け障害物検知機能組込み自動運転システムの開発において、パートナーシップ協定を締結した。現時点では、既存車両を改造した自動運転(無人化)の商用化を目指している。
構内用特殊車両の自動運転システムの英国での実走試験と国内デモでは顧客の評価も高く、2024年3月期下期には受注を見込む。当初は製鉄所や化学プラント工場の構内での利用を想定していたが、鉱山現場からの引き合いもあるようだ。
構内用特殊車両の「完全自動運転」を実現するにはあと5~6年はかかると大手鉄鋼メーカーは見ているようで、同社ではアドオン(改造)型自動運転システムは、当分の間(10~15年間)ビジネスになると考えている。特殊車両は大型かつ高額設備で、現稼働車両は償却期間が相当残っているため、一斉に完全自動運転の特殊車両に切り替わることは考えにくい。同社は、その期間に特殊車両の完全自動運転の知見を習得し、完全自動運転に切り替わる頃には市場をリードしていきたいと考えている。
構内用特殊車両の自動運転システム関連事業は、中期経営計画期間内に売上高10億円を見込んでいる。同社は今後、特殊車両のドライバーの高齢化で自動運転ニーズはますます高まると見ている。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 清水啓司)
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