2. 中長期ビジョン
明豊ファシリティワークス<1717>は発注者支援事業の社会的貢献と人的資本経営に関する考え方を踏まえ、事業創造会議「将来像セッション」を実施し、社員とともに10年後の明豊ビジョンを策定した。具体的なビジョンとして、事業面では「唯一無二の存在として」透明で納得感の高い社会へ導くこと、発注者に伴走して新しい価値を共創することを掲げた。また人的資本経営の面では、正しいことをやり抜き生き生きと働く職場環境を形成し、個人の成長や成果に見合う高収入を得られる「家族が誇れる会社」を目指す。社会還元のテーマとしては、透明で納得感の高い社会への貢献や、ESG投資及び株主還元の充実を通じて社会に貢献する「発注者支援事業が社会還元」をビジョンとして掲げた。
(1) 事業戦略
2021年度以降、建設資材の高騰や人手不足を背景に建設コストの上昇傾向が続くなか、発注者の意思決定も一層難しくなり、CMに求められるサービスレベルの要求も格段と高まる状況にある。こうした発注者ニーズの変化を見据えて、従来の発注者と受注者の二者による標準の建設プロジェクトに対して公正な競争環境を醸成し、発注者側に立つプロ(CM)を加えた三者体制によって、より高い価値を発注者に提供していくことでCM事業を拡大していく戦略だ。
CM事業の基本的役割として、1) プロジェクト立ち上げ支援・リスク検証(建物方針及び予算、工期、発注スキームの早期検証)、2) 基本計画策定及び設計・施工者選定支援(早期の意思決定支援と設計・施工者選定条件整理)、3) 顧客の合意形成支援(専門性を補完し、選択肢を提示しながら納得感の醸成を図る)、4) コスト推移管理(コストの妥当性、物価スライド条件の検証)、5) アカウンタビリティ向上・品質確保(顧客の社内外への説明責任向上、現場確認等による気づきの提供)があり、こうした発注者支援を軸としながらも、受注者の環境も良く理解したうえで建設プロジェクト全体を円滑に推進し、成功に導くことが重要となってきている。同社では、こうしたサービス品質の高い業務を遂行できる人材の育成とデジタル技術を組み合わせることで、CMサービスの付加価値向上に取り組んでいく。そのための人材育成とDX投資については、今後も優先的に継続していく方針だ。
建設プロジェクトでは「脱炭素化」が必須のテーマとなってきており、専門的な知識も必要となることから今まで以上にCMサービスの重要性が高まっている。加えて、公共施設の老朽化による維持保全対策、あるいは学校の統廃合といった案件も今後増加することが予想され、こうした案件を取り込んでいくことで事業拡大を目指していく。
(2) 人的資本経営の取り組み
同社は成長の基盤となる人材の採用・育成を経営の重要課題と認識している。採用については、引き続きスキルの高いキャリア人材を採用していくほか、女性やCMの社会的意義並びに同社の企業理念(フェアネス、透明性)に共感する人材の採用に注力する。また、育成面では代表取締役会長をトップとした社員教育のほか、社内研修やナレッジセンター※による社内教育のコンテンツ充実を図り、社員が互いの成長を支援する組織マネジメント及びOJTの推進に全社で取り組み、社員一人ひとりの成長と組織力の強化を図っていく。社員のエンゲージメント向上に向けては、社員が効率の良い働き方を選択できるデジタルワークスタイルのさらなる進化や、男女育児休業制度活用の奨励、ダイバーシティ・インクルージョンを推進していく。こられの取り組みを継続していくことで人的資本を拡充し、企業価値の向上につなげていく考えだ。なお、今後も人材採用については厳選して実施していく方針であり、年間10名弱程度の増員ペースになるものと予想される。
※デジタル基盤上に構築したナレッジセンターにおいて、業務上のベストプラクティスが共有できるほか、サービス品質向上に不可欠なドキュメントレベルの周知や学習が行えるようになっている。
(3) ESG/SDGsへの取り組み
同社は、企業理念である「フェアネス」「透明性」「顧客側に立つプロ」のもと、持続可能な社会の実現に向けて社会課題の解決に取り組んでいる。環境面での取り組みとしては、社内にCASBEE建築評価員48名、LEED AP3名が在籍しており、顧客側に立つプロが顧客の環境対策を環境CMによって支援することで、企業価値の向上と地球環境の保全に貢献している。具体的には、社内技術チームによる脱炭素化CM支援の提供を行っており、環境に配慮した施設の導入・運用支援(ZEB、オフグリッド等脱炭素化に資するCMの提供)や、施設の長寿命化のための各種提案、実現支援(MSPの運用等)を行うなど、発注者支援事業を通じて顧客の環境対策ニーズに貢献している。
さらに、同社は気候変動に関するリスク等への対応について、TCFD提言※の趣旨に賛同し、TCFDコンソーシアムに加盟し、気候変動に関する推奨されたフレームワークの整備と透明性向上に取り組んでいる。開示基礎項目であるガバナンス、戦略、リスク管理、指標と目標を策定しており、このうち二酸化炭素排出量削減に関しては2020年3月期比で2024年3月期は35.4%の削減を達成しており、2031年3月期までに50%削減、2051年3月期までにカーボンニュートラルの達成を目指している。
※金融安定理事会(FSB:各国の金融関連省庁及び中央銀行からなり、国際金融に関する監督業務を行う機関)によって設立された気候関連財務情報開示タスクフォースの提言。気候変動に起因する財務的影響の分析、開示が推奨されている。
そのほか、ESG投資として東京都発行のグリーンボンド(2019年10月、2021年10月、2022年10月、2023年10月)への投資を継続的に実施している。同グリーンボンドは気候変動への適応、自然環境の保全、生活環境の向上に関連した事業等に充当されている。また、日本学生支援機構が奨学金事業の財源を目的に発行したソーシャルボンドにも、2021年5月に投資した。
一方、ダイバーシティやワークライフバランスの充実を図るため、多様性の確保に向けた人材育成やITを活用した職場環境の整備などに取り組んでいる。女性の活躍を重要テーマの1つとして産休・育休制度、時短勤務、健康活動支援、リフレッシュ休暇制度などを整備しており、2022年6月には「くるみん認定」※を受けた。
※「くるみん」は、仕事と家庭を両立しやすい職場環境づくりに取り組んでいる企業として、一定の基準を満たした場合に申請を行うことによって「子育てサポート企業」として、厚生労働省より認定を受けた証となる。認定を受けた企業は「くるみんマーク」を広告等に表示し、子育てサポート企業であることを公表できる。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)
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