3. CMの成長性について
国内の2020年度における建設投資は約63.1兆円で、このうち、CMの対象となるマーケットは民間、公共の新規建設投資及びリニューアル投資(住宅除く)にかかる部分で、合計約22.4兆円(重複するデータ分除く)となる。このうち、CMの普及率がどの程度か正確な統計がないため不明だが、明豊ファシリティワークス<1717>の試算によれば約4兆円程度で全体に占める比率は約18%となる。2016年度が約10%、2018年度が約13%だったので着実に普及が進んでいることになる。今後もCMの認知度向上により普及率は上昇傾向が続くものと予想され、全体の建設投資が後退局面に入ったとしても、普及率の上昇によりCM市場は安定成長が続く可能性が高いと弊社では見ている。
特に公共分野では、地方自治体が財政難と建設分野の技術者不足に苦しむなかで、コストの最適化とプロジェクト管理を行うCM事業者の活用がさらに増加していくものと予想される。同社でも公共分野を注力市場の1つと位置付けており、社内で管理する受注粗利益の構成比は2017年3月期の6%から2020年3月期は27%まで上昇しており、今後は30%程度までは安定して公共分野で受注を獲得していくことを目指している。CM業界における同社のシェアは約25%※と見られるが、公共分野ではさらに高いシェアを確保しているものと思われる。これは同社がCM業界のパイオニアとして、国交省が2014年度から取り組んでいる多様な入札方式のモデル事業に当初から参画し、多くの実績を積み重ねてきたことが大きい。既述のように庁舎建替えのCM業務についてプロポーザル方式の案件については多くを受注しており、また、公共施設の老朽化対策にかかるCM業務についても受注が増え始めており、今後の成長が期待できる状況となってきている。さらには経済産業省が先駆して取り組んでいる「働き方改革」のなかでの新たなオフィスづくりが各省庁で進めば、オフィス事業での受注拡大も期待できる。
※日本コンストラクション・マネジメント協会が販売しているCM保険のシェアによる同社推計値。
なお、公共分野では現在、東北から九州まで幅広い自治体から受注し、2020年6月には沖縄県の琉球大学からのCM業務も受注した。同社の事業拠点は東京と大阪しかなく、出張ベースでの対応となり生産性が低下する懸念があったが、2018年以降は、パソコンを使ったテレビ会議システムを同社が顧客へ提供し始めたことで、担当者が直接現地に赴く回数が減少するなど、距離というハードルが従来よりも大きく下がり、受注活動を行いやすい環境となってきたのも追い風となる。無論、近距離の自治体から受注するほうが効率的ではあるが、今後も地方を含めて積極的に受注活動を展開していくことで、受注拡大が見込まれる。
リスク要因として、新規CM事業者の参入により、受注競争が激化するリスクがある。実際、公共分野のプロポーザル方式の案件で落札できなかったケースは、評価項目の中で価格を重要視する案件であると言う。ただ、CM業務で最も重要となる「サービス品質」や「顧客からの信頼」は一朝一夕で構築できるものではなく、今後もサービス品質の維持向上が続く限り、同社の優位性は揺るがないものと弊社では考えている。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)
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