2. 同社の強みと事業モデル
ファーストコーポレーション<1430>の強みのなかでも特筆すべきであると弊社が考えるのは、(1)造注方式による特命受注を可能にしていること、(2)社内で事業用地の情報がしっかりと共有されていること、(3)「土地を制するものが全てを制する」という方針のもと、トップが自ら意思決定を行うこと、の3点である。
(1) 造注方式による特命受注
「造注方式」とは、同社の急成長を実現させた事業モデルである。これは、他社に先駆けてマンション用地を仕入れ、企画・設計を行い事業主に提案、特命で工事を受注して施工し引き渡す方式だ。各事業主のニーズに合った事業開発を提案するなかで、精度の高い用地情報を幅広く収集して、用地情報の確保から企画提案までを最短10日間というスピードで実現している。
造注方式の具体的な流れは、まず不動産会社や金融機関、土地所有者など、多岐にわたる独自のネットワークを駆使してマンション用地情報の収集を行い、次に、立地特性を最大限に生かせるよう、周辺環境、マーケティング、権利関係、各種法規制等の調査を実施し、クオリティの高い、そうしたプランから事業主に対し、土地代、建築費、設計料等の諸経費をもとに事業収支を作成し、より緻密で正確な事業計画の提案を行う。そのうえで、事業主の要望を立案する。
そして、効率的なプランをベースに適正かつ有効的な建築費の見積りを行い、オリジナルの各種標準仕様を選定する。最大限に考慮した建築費の見積りを提示し、工事を特命で受注することになる。
造注方式は、同社が土地を押さえることによって主体的に企画提案を行うことができるため、競争入札で建設工事を受注する場合と比較して契約条件が良くなる。一般的に、建設会社はこうした特命工事の比重をいかに高められるかが、収益向上につながるポイントとなるが、同社は「造注方式」により高い特命比率を実現し、事業運営の効率化と高い利益率の両立を可能にしているのである。
(2) 社内における正確かつ素早い情報共有
次に弊社が同社の強みと考えているのが事業用地の情報が社内でしっかりと共有されていることだ。毎週行う会議のなかで、土地開発専任の部署が仕入れてきた用地の情報を営業と共有し、連携を密にとっている。このことにより、デベロッパーに対して営業を行う法人営業は、それぞれのデベロッパーに適した事業用地の情報を迅速かつ的確に提案することが可能になる。こうした社内の風通しの良さが事業用地とデベロッパーを他社に先駆けてマッチングさせることにつながっている。
(3) トップによる迅速な意思決定
同社の哲学の1つである「土地を制するものが全てを制する」に基づき、重要な事業用地に関しては、トップである中村利秋(なかむらとしあき)代表取締役社長が実際に現地に出向き、その場で購入するかどうかの意思決定を行う。一般的に不動産業界においては、事業用地を探しているデベロッパーが多いものの、適した土地が見つかりにくいというのが現状である。都市部などの首都圏においては特に顕著であり、こうした状況のなかで、トップが自ら迅速な意思決定を行うことで、競合よりも先に優良な事業用地を獲得することを可能にしているのである。
(4) 土地情報を獲得する独自のネットワーク
通常、事業用地の情報を取得するためには、地域の不動産屋、金融機関などに足繁く通ってゼロから信頼関係を構築し、土地の情報を仕入れるという長いスパンの活動が必要とされる。もちろん、同社においてもこういった地道な活動によって獲得される情報網もある一方で、中途採用による社員の持つネットワークから土地の情報を取得する事例も多いという。魅力的なネットワークを持った人材を採用することによってゼロから関係を構築するという手間を省くことができ、効率的な情報の収集と土地の確保につながっていると弊社は考える。
上記に加えて、さらに今後はZENAS(ジーナス)工法(12m以上のワイドスパンを実現する新免震工法)も強みの1つになってくると弊社は考えている。ZENAS工法によって、従来よりも特定の部材を少なくできるためだ。これにより、今後建設資材価格が上昇していく状況にあっても利益をしっかりと確保することが可能になってくるだろう。また、コストが下がればその分価格を抑制することができることから、価格競争力にもつながると考えている。さらに同社は現在、ZENAS工法のブラッシュアップとさらなる新工法の研究を行っている最中だ。ワンランク上のZENAS工法、新工法の確立によって同社の施工上の強みに磨きがかかっていくものと推察される。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 清水陽一郎)
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