1. ZENAS工法
中期的に大きなトピックスとして注目されるのが、東京理科大学発ベンチャーの(株)サイエンス構造と共同研究を進め、このほど開発したZENAS工法だ。
これは、12m以上のワイドスパンを実現する新免震工法である。従来の一般的なマンションのワイドスパンは7m以上となっているが、大スパンを実現させたことによって、今までになかった間取りが可能となる。換気効率が上昇するほか、柱や壁に遮られることのない戸建て建築のような大空間を実現させることができるようになった。
さらには、建設する際に柱の本数が減少することで、コンクリート型枠使用量、型枠合板使用量、作業員数などを削減できる。このように現場負荷を軽減し、コストマネジメントに優れた工法と言えそうだ。
特に、ユーザーにとっては自由設計が行いやすくなるというメリットが大きい。現在、この工法を活用した受注活動を進めているが、2022年5月期あたりには第1号案件を手掛けることになりそうだ。購入者のニーズに沿う物件が提供できる工法とあって、今後の同社の受注において強いツールとなることは想像に難くない。
また、同社が主要事業エリアとしている1都3県(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)の分譲マンション建設市場は、全国的に人口が減少するなかにあって、増加傾向をたどっているほか、同社のこの地域でのシェアは直近で2%程度であり、なお市場開拓の余地が広いと言えそうだ。
当面の事業環境について展望すると、大手ゼネコンは、大型都市再開発事業や公共工事などで手持ち工事が豊富となっており、マンション建設請負に消極的な状況だ。
一般的に建設業界においては、全体的に工事量が減少すると、大手といえども中小規模の案件に手を伸ばすほか、採算を度外視するような形で受注を獲得する業者も出現するなど収益環境は一気に悪化する。工事量が多い現在は、そうした厳しい状況を心配する必要がない。
今後のポイントになるのは、より収益力を高めるための大型案件の受注となる。そのためにも、用地確保に全力を注ぐ考えだ。
九州支店でもビジネスが本格化
2. M&Aを念頭に置いた事業展開
一時期、建設業界を苦しめた資材費の高騰は、このところ落ち着きを見せているものの、慢性的な人手不足は引き続き気になる要因だ。状況によっては、営業費用の増加につながる要因として、人件費の高騰が収益を圧迫する可能性もある。
同社は、その解消策としてM&Aを念頭に置く。人材育成には時間を要するため、現状では規模に応じた受注を心掛けているものの、必要に応じM&Aによる陣容増強に踏み切る。M&Aについてはコストパフォーマンスに留意し、慎重に行っていくとしている。さらに、新たな事業領域を広げるためにM&Aを活用する考えだ。
他方、将来の成長性を考えたうえで重要なポイントとなるのがエリアの拡大だ。そのなかで注目できるのが九州支店だ。同支店については、2018年4月にオープンした後、投資の状態が続いていたものの、直近では博多区においてオフィスビルを手掛け、この案件は2022年4月に売却を予定しており、今後の足掛かりを作った。
同支店は許認可の関係で、当面は建築を外部に委託する不動産会社のような業務となるが、将来的には福岡周辺でも造注方式で案件を開拓していく。施工の部分を除いた造注方式といったイメージだ。
福岡のマンション市況は、アジアへの玄関口であるこの地域の人口が2038年まで増加が見込まれていることから、将来的なビジネスの展開を踏まえても、ここに支店を開設した意味は大きい。
中期経営計画「Innovation2021」を策定
3. 中期経営計画について
このほど中期経営計画「Innovation2021」を策定したが、創業10年目の節目を超えたことで、将来的に「年商500億円企業」を目指すため、業容拡大と利益水準の向上に継続的に取り組むとともに、新たな価値の創出と持続的な成長を目指すことを基本方針として掲げている。
この計画では、前中期経営計画を継承し、重点施策として以下を挙げた。
1) 中核事業強化の継続
2) 再開発事業への注力
3) 事業領域拡大による新たな価値創出
4) 人材の確保・育成、働き方改革の推進
中核事業におけるポイントとなるのは、やはり造注方式の推進だ。造注方式は同社にとって成長の原動力となるため、コンスタントな用地確保がカギとなることは今後も変わりなく、建築事業の強化も図る。
再開発事業は前述したとおり、群馬県前橋市のプロジェクトに続き、横浜市緑区など新たなプロジェクトについての布石を打っているが、この拡充によって中長期的な収益基盤の確立を目指す。さらに、収益基盤を多様化するため、M&Aによる業容拡大や、周辺事業にも力を注ぐ考えだ。
「Innovation2021」の数値目標としては、2024年5月期に売上高30,000百万円、営業利益2,400百万円、経常利益2,350百万円、当期純利益1,595百万円、受注額21,000百万円を掲げている。
受注額が少ない印象があるものの、これは業界における恒常的な人手不足や、同社の事業キャパシティーを考慮して、無理な受注をしないという方針があることが背景にある。さらに、全体としては、現状で確実性のある工事案件をカウントするとともに、不動産事業も手持ちの案件のみを対象としているため、目標数値は保守的と言えそうだ。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 水野文也)
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