AeroEdge、中長期目標として航空機エンジンMRO市場参入を目指す チタンアルミブレードの加工・積層技術を活用
設立の経緯と日本の製造業への想い

森西淳氏(以下、森西):AeroEdge代表取締役社長兼執行役員CEOの森西です。よろしくお願いします。
当社AeroEdgeは、航空機エンジンのグローバル大手メーカーであるフランスのSafran Aircraft Engines社と日本の中小企業として初めて直接取引を締結し、中小型機向け次世代エンジン「LEAP」のチタンアルミ製タービンブレードを主な事業として展開しています。
2015年9月に、栃木県足利市で創業80年を超える菊地歯車株式会社から、スピンアウトするかたちで設立した創業10年を迎えたばかりのまだ若い企業です。
「ゼロからイチを創る」という経営理念のもと、日本の製造業のあり方に新しい風を吹き込むことを目標に活動しています。
目次

森西:本日はこちらの目次に沿って説明を進めます。
At a Glance

森西:当社のビジネスのハイライトです。「LEAP」エンジンのチタンアルミブレードについては、2028年から40パーセント台後半のグローバルシェアで供給する予定です。現在は40パーセントとなっています。
搭載される航空機の受注残高数では1位と2位を誇っています。具体的には、Airbus社の「A320neoシリーズ」とBoeing社の「737MAXシリーズ」です。
また、世界で最も売れているこのエンジンに対し、グローバルでも2社のみでチタンアルミブレードを供給しています。契約期間は2016年から2034年です。
営業利益率は18.2パーセント、EBITDAマージンは28.8パーセントです。
事業内容

森西:チタンアルミブレードが航空機のどの部分に搭載されているかを簡単にご説明します。
スライド中央にも記載しているように、1枚1枚の羽根を100枚以上重ねて1つのリングにしたものが、エンジンの一番後ろに位置するロープレッシャータービンモジュールに搭載されています。チタンアルミブレードは、そのモジュールの中で最も後ろの段数に使用されています。
現在はチタンアルミブレードの実績を基に、異なる機体やエンジンの量産部品も手がけています。また、「空飛ぶクルマ」とも呼ばれるeVTOLの量産部品やガスタービンの部品なども手がけています。
LEAPエンジンの先端技術の一つがチタンアルミブレード

森西:次世代エンジンの最大の特徴は、燃料効率の向上です。省エネ化や公害の低排出化、さらには騒音の低減などが次世代エンジンと呼ばれる理由ですが、これらの課題に最も直結する手法として部品の軽量化があります。その代表的な部品がチタンアルミブレードです。
LEAPエンジンのチタンアルミ製低圧タービンブレードを量産

森西:あらためてチタンアルミブレードについてご説明します。
従来はニッケル基軸などの耐熱高合金を用いてブレードが生産されていましたが、チタンアルミブレードはその半分の重さで搭載されています。軽量化は燃費や低騒音、低公害といった面で非常に有益な手法であり、それを代表する部品となっています。
川合直也氏(以下、川合):先ほど、100枚連なっているうちの一番後ろがチタンアルミブレードだと説明がありましたが、なにか特別な理由から一番後ろに搭載されているのでしょうか?
森西:スライドの図では少しわかりづらいかもしれませんが、ロープレッシャータービンモジュールは後ろにいくほど部品が大きくなっていきます。そのため、一番大きな部品を軽量化することは理にかなった解決策の1つです。
加えて、チタンアルミブレードの耐熱温度も重要なポイントです。図の中央あたりが、ジェットエンジンのホットセクションと呼ばれる部分で、ここは1,000度以上の高温になります。
しかし、ロープレッシャータービンに進むにつれて温度が下がり、1,000度以下になります。チタンアルミはおよそ800度以下の温度に適していますので、そのような箇所で有益な材料であることから、最後部に使用されています。
川合:試行的な意味で、さらに後ろ、または手前に使用される可能性はあるのでしょうか?
森西:十分あり得ると考えています。具体例を挙げると、Boeing社の「787」シリーズで使用されている「GEnx」エンジンでは、前の2段または3段にかけてチタンアルミが使用されています。
そのため、必要に応じて「LEAP」エンジンも、将来的にいわゆるマイナーチェンジなどで前の段数にチタンアルミが使用されていく可能性は十分にあります。
川合:新しいエンジンや機体を製造する場合に需要があることはイメージできますが、熱による摩耗や劣化によって交換する需要もあるのでしょうか?
森西:交換需要はあります。ただし、交換頻度だけを純粋に比較すると、ホットセクションのHPCブレードなどは非常に交換頻度が高いのに対し、ロープレッシャータービンモジュールはそれと比べると交換頻度が低くなります。また、ロープレッシャータービンの一番後ろの段にあることから、衝撃は受けにくい構造になっています。
ただし、現在チタンアルミは修理ができない材料であるため、この部品のライフリミットが到達した場合は新品と交換することが現行の手法となっています。なお、後ほど触れる開発の話でもご説明しますが、当社はこの材料を修理可能にする技術の開発にも着手しています。
ビジネスモデル

森西:ジェットエンジンのビジネスモデルについて簡単にご紹介します。
「LEAP」エンジンを例にすると、「LEAP」エンジンを販売しているのは図の右側にある航空機エンジンメーカーです。これは米国のGE社とフランスのSAFRAN社によるフィフティフィフティの合弁会社CFM International社です。
CFM International社はエアラインにジェットエンジンを販売しますが、そのエンジンの納入先はBoeing社もしくはAirbus社です。
チタンアルミブレードはSAFRAN社が担当している部品であるため、SAFRAN社にブレードを納入しています。
その後、SAFRAN社とGE社でアッセンブリされたものをCFM International社がAirbus社もしくはBoeing社に納入し、最終的に機体がエアラインに納入される流れとなっています。
そのため、当社が直接エアラインや機体メーカーとビジネスを行うわけではなく、エンジンメーカーとの取引が当社のビジネスとなります。
仏Airbus社・米Boeing社の航空機に採用されているエンジン部品を生産

森西:チタンアルミブレードのマーケットを具体的にわかりやすく図にしたものがこちらのスライドです。
まず、Airbus社の「A320neo」ファミリーとBoeing社の「737MAX」は、業界では「ナローボディ」と呼ばれる大きさの航空機です。日本語では「中小型機」といったイメージのもので、これらが航空機全体の需要の80パーセントを占めています。
残りの20パーセント弱は、ナローボディよりも大きな「ワイドボディ」と呼ばれる大型機と、より小さな「リージョナル」と呼ばれる小型機です。
そのため、航空機の中で最も売れているのは中小型機で、その中小型機の中で最も売れる機種がAirbus社の「A320neo」ファミリーとBoeing社の 「737MAX」であり、これらがナローボディ市場の大半を占めています。
その「A320neo」「737MAX」の中で「LEAP」エンジンの需要は77パーセントを占めています。さらにその中で、当社のグローバルのチタンアルミブレード市場のシェアは現在約40パーセントです。この数字が2028年頃には40パーセント台後半に移行することを見込んでいます。
川合:御社のマーケットシェアが40パーセントから上昇するとのことですが、どのようなかたちで契約更改がなされ、シェアがアップしているのですか? 今後の見通しや期待も含めて教えてください。
森西:少し遡ってお話しすると、当社がこの業務を受注した当初は、35パーセントで契約していました。その後当社の活動が評価され、5パーセント上昇して現在の40パーセントに至っています。
今後、当社は材料からの参画も計画しており、その戦略的な取り組みも含めてマーケットシェアの40パーセント台後半までの増加が見えている状況です。そこからさらにシェアを拡大することも、戦略的には可能です。
あえて「戦略的」とお伝えしたのは、多くを引き受けるほど販売単価を下げる必要が生じる部分もあるためです。その点を踏まえ、バランスを重視しながら、最も効果的なマーケットシェアをリードし、獲得していきたいと考えています。
川合:御社がスピンオフのベンチャー企業であったことを考えると、最初の契約時点で35パーセントのシェアを得られたことはかなり順調な優れたスタートに聞こえます。これは技術的な評価が合致し、選ばれた結果なのでしょうか?
森西:おっしゃるとおりです。同部品の開発に際して、世界各国のメーカーがビットを行い、エントリーして競争しました。その過程で6社が競り合う中、唯一部品を確保できたのがAeroEdgeでした。その結果、技術評価で第1位を獲得したのです。
一方で、企業規模やSAFRAN社とのビジネスの歴史、当時の競合他社の状況などから、セカンドという位置が与えられました。
当初はトリプルソース、つまり3社で供給を予定していたものの、部品確保が可能なメーカーが他に見つからず、結果として供給メーカーは2社に絞られ、割り当て率は35パーセントとなりました。
川合:そこから、必然的にシェアが拡大しているのでしょうか?
森西:そうですね。評価していただきながら、実績を上げていくことが必要となります。そこは着実に実績を積み重ねていくことができました。
会社沿革

森西:当社の沿革についてお話しします。私はもともと、当社と同じ足利市内にある菊地歯車の従業員でした。当時、技術を売りにしているその会社の中で、私はNo.1エンジニアを目指していました。
その過程の中で、ハードもソフトもどんどん進化していき、それらをどこよりも先に手に入れたいと思うようになりましたが、それを実現するためにはビジネスが必要でした。
会社にも何度か相談してみたものの、なかなか投資をしてもらえません。その結果、私は自ら手を挙げ、営業職へと移ることにしました。
営業職として、私が求めていた機械やソフトが必要となるような、利益を上げられるビジネスの獲得に努める中で出会ったのがチタンアルミブレードでした。
当然、当時は菊地歯車でこの仕事に取り組もうと考えていましたが、社内外ではこのビジネスに対して不安視する声やリスクを指摘する意見が多く、ポジティブな意見を聞くことはなかなかできませんでした。
しかし、これは世界で最も売れるジェットエンジンに関わる仕事であり、十分すぎるほどの価値があると感じていました。また、この航空業界で誰もが挑戦したいと思うプログラムの1つでもありました。
そのため、初の海外取引や当時の為替の影響などの課題がありましたが、将来を見越せば必ず成功・成長する産業だと思い、独立を決意しました。
所属していた菊地歯車の経営者を説得した上で、金融機関をはじめ、会社設立に向けて第三者割当増資を検討し、投資家一社一社を自ら訪問して説得しながら会社を設立しましたので、当時は非常に大変でしたが、貴重な経験をしました。
当社の生い立ちを振り返ると、上場は1つの成長手段であると同時に、賛同してくださった投資家のみなさまへの恩返しでもあります。そのため、創業当初からそのような目標を計画的に視野に入れながら会社を立ち上げ、今日に至っています。
川合:SAFRAN社が調達先を探しており、そこへ御社が関わることになったのがスタートだったのですね。菊地歯車の技術が適用できそうだと判断してAeroEdge社をスタートしたのですか?
森西:2009年に日本で第1回目となる東京国際航空宇宙展が開催されました。そこに菊地歯車として出展した際、偶然ブースにSAFRAN社の方が来られたことでコンタクトを取ることができました。
その翌年以降もパリ・エアショーやファンボロー・エアショーに参加する計画がありましたので、その際に現地であらためてコンタクトを取りたいと伝え、エアショー会場やSAFRAN社を訪問しました。
そして、当社の技術や、その後のプログラムである「LEAP」エンジン向けのチタンアルミで貢献できることをアピールしたのがきっかけです。
マネジメントメンバー

森西:こちらのスライドはマネジメントメンバーです。志を共有し、一枚岩となってボードメンバーとして活動しています。
当社を取り巻く外部環境

森西:続いて、外部環境についてお話しします。当社を取り巻く外部環境として、2つの要素を考えました。
1つは航空業界が成長市場であること、もう1つはこの業界に高い参入障壁があることです。
航空業界は高効率性が求められ中小型機の時代に突入

森西:これまでの移動に関する考え方を振り返ると、一昔前は「ハブ・アンド・スポーク」と呼ばれる移動手段が主流になるだろうといわれていました。具体的には、大型の航空機で大規模な空港まで移動し、そこから小型の航空機に乗り換えて目的地まで行くものです。
例えば、アジアであれば韓国の仁川国際空港やシンガポールのチャンギ国際空港などの大規模空港に到着し、そこから日本へ飛んでくるといった考え方です。
少し専門的な表現になりますが、現在では多くの航空会社がアライアンスと呼ばれる連合を形成しています。例えば、JALであれば「ワンワールド」、ANAであれば「スターアライアンス」といったように、いくつかの航空会社が連合を組み、提携運行などを行っています。
最も重要な点は、エンジンや航空機体の飛行距離が伸びたことにより、先ほど触れた「ハブ・アンド・スポーク」型の移動手段から、適切な大きさの航空機で目的地へ直接飛べる「Point-to-point」型に移行したことです。
このような変化の大きな理由として、航空機の飛行距離が伸びたことや燃費の向上が挙げられます。LCCの増加が見られるほか、航空燃料の高騰が挙げられる中で、ナローボディ機の需要がさらに増しています。その状況を示したものがスライド右側のパイチャートです。
成長見込みが示されている航空市場

森西:成長の観点では、私がこのビジネスを絶対に取るべきだと思う一方で、航空機ビジネスにおける一番大きなリスクとして捉えていたのが同時多発テロでした。
その際、ワイドボディやリージョナルのマーケットシェアは落ちましたが、ナローボディはシェアを落とさず、成長を継続することができました。
ただし、新型コロナウイルスの影響やBoeing社の飛行停止といった問題により、一時的に事業が大きく低迷しました。しかし、長期的に見ると成長基調は安定しており、今後も2044年まで平均約3.6パーセント、もしくはそれ以上の成長が予測されています。
また、世界の航空機需要は置換需要も含めて2044年まで大きく増加していくといわれています。
チタンアルミブレードが搭載されるA320neoファミリー及び737MAXは増産見込

森西:当社のチタンアルミブレードが搭載されるAirbus社の「A320neo」ファミリーおよびBoeing社の「737MAX」は、こちらに記載されているとおり、非常に高い月産納入数および生産数となっています。
パンデミックで毀損したサプライチェーンの問題やBoeing社の品質問題などが徐々に回復してきたことで、順調に成長曲線に戻ってきている状況です。
参入障壁が高い航空業界

森西:次に参入障壁についてお話しします。わかりやすい例として、自動車産業と比較してみました。
まず利用者について、自動車産業では個人も車を運転するため、利用者が多岐にわたり、不特定多数となります。一方で、航空機産業では航空事業者が利用するため、利用者が特定されます。
安全基準・審査においては、自動車産業が各国の独自基準に対応するのに対し、航空機産業では国際基準が求められます。
開発期間についても、自動車が1年や2年といった短期間であるのに対し、航空機の開発には通常10年程度が必要です。以前は20年かかることもありましたが、現在では短縮傾向にあるものの、それでも10年以上です。製品サイクルも約30年と非常に長い期間で継続されます。
さらに、部品点数や生産数にも違いがあります。特に異なるのは完成品メーカーの数です。機体メーカーはAirbus社やBoeing社、Comac社、Embraer社など数えるほどしか存在せず、エンジンメーカーもGE Aerospace社、Pratt & Whitney社、Rolls-Royce社、SAFRAN社など、ごく限られた企業に集中しています。
航空機 / エンジン種類は限定的

森西:航空機エンジンの種類は限定的です。そのような中でも、当社は次世代エンジンに取り組むべきだと考えています。
開発費が大きい代わりに製品ライフサイクルが長いことが特徴

森西:航空機と航空機エンジンは、開発費が大きい代わりに製品ライフサイクルが長いことが特徴です。
例えば、「LEAP」エンジンの登場前には、Boeing社の「737」やAirbus社の「A320」には「CFM56」というエンジンが搭載されており、約30年間飛行しています。当社の「LEAP」エンジンもそれと同様に長期間の飛行が見込めます。
高い加工技術と量産技術でチタンアルミブレードの量産販売を実現

森西:カンパニーハイライトのご説明に移ります。チタンアルミは難削材とされる材料の1つです。スライドには専門的な表現で記載していますが、わかりやすく言えば、非常に硬くて脆い性質を持っている素材です。
常温では立った際に製品を落としてしまうと割れるほどの靭性です。ただし、400度以上の温度域では材料の特性が変化し、非常に硬くて強い材料へと変わりますのでご心配には及びません。
当社は加工技術と量産技術に強み

森西:その素材の加工技術が当社の最大の強みです。もちろん、加工できるだけでなく、自社で考案した設備やプログラム、素材を削る刃物の設計と内製化、治工具の設計の内製化、さらには国際認証に対応可能な検査体制を備えています。そして、それを大量量産できることも当社の強みです。
この点については、言葉では伝わりづらいと思いますので、簡単な動画をご用意しました。
5軸加工機を使用してブレードを加工している様子です。左側から右側へと削っていき、回転させながら加工を進めています。この加工は、5軸加工機のすべての軸が同期しながら動作しなければ実現できません。そのため、この技術が当社の大きな特徴となります。
量産技術を支える製造DX

森西:設計技術や加工技術なども、いずれ物理的な限界を迎えることがあります。そのような限界を突破することもDXの一環であると考えています。
スライドの図は当社のデジタルシステム導入の軌跡を示したものです。このように、今日のニーズに合わせながらさまざまなデジタル化を推進しています。
エンジンの設計権を持つメーカーとの直接取引

森西:お客さまとのビジネスの状況は非常に良好であり、これは当社の強みの1つでもあります。当社はTire1の立場として、OEMと直接やり取りを行っています。
誤解を恐れずにお伝えすると、日本国内でこれらの仕事を進める場合、一般的には重工業企業を経由することが多くなります。そこでは当社の立場はTire2やTire3となり、OEMまで声が届きにくいのが実情です。その意味でも、OEMと直接ビジネスを行い、評価を得ることは非常に重要だと考えています。
2022年にベストサプライヤーとしてSAFRAN社からアワードを受賞しました。歴史が短く、コンパクトなメーカーがこのアワードを受賞することは非常に稀であり、このような観点からもお客さまとの良好な関係を証明できていると考えています。
資源価格高騰を受けない取引形態

森西:チタンアルミを含めたレアメタルは、情勢やさまざまな状況により高騰する可能性がありますが、当社は現在材料を無償支給で受けているため、そのようなリスクを抱えていません。また、無償支給によるインフレリスクも抑えられています。
しかし、今後はこの部分の材料を手がけていく予定です。そのため、現在の優位性が若干変わる可能性もありますが、リスクヘッジ策を考えながら取り組んでいます。
契約による原則として40%の供給シェア

森西:こちらのスライドでは、本日の説明内容をまとめるかたちで、あらためて「LEAP」ビジネスについてご説明します。
契約先はフランスのSAFRAN社で、契約期間は2016年から2034年までとなります。マーケットシェアは2028年1月から40パーセント台後半となる予定です。
また、材料の供給内容については、2026年8月までは無償供給による材料を用いて加工を行い、その後は自社材に切り替えることでさらなる成長を目指します。なお、これらの販売価格は契約期間にわたって明示されています。
航空機の生産と連動したビジネスモデル

森西:エンジンの供給先はBoeing社の「737MAX」とAirbus社の「A320neo」ファミリーが主要な対象です。一番右側の「C919」は中国のComac社が新たに開発した機体です。
Boeing社「737MAX」では「LEAP」エンジンが独占供給となっており、同機を購入される場合は必然的に「LEAP」エンジンが搭載される仕組みです。
また、Airbus社の「A320neo」ファミリーについては、航空会社が「LEAP」エンジンまたは「PW1100G」エンジンのいずれかを選択することができます。Comac社の「C919」については、同様に「LEAP」エンジンが独占供給となっています。
AeroEdgeの4つの成長戦略

森西:4つの成長戦略についてご報告します。現在、当社はスライドのような成長を目指しながら活動しています。
まず、先ほどお話ししたチタンアルミブレードの加工事業があります。この事業は今後も成長を続け、高止まりの期間が続くことから、オーガニックな成長だと言えると考えています。
このオーガニックな成長に加えて、当社は「LEAP」の材料開発も進めており、材料事業にも注力しています。さらに、新たなエンジンの量産ビジネスを展開し、その後には業界の花形ともいわれているMRO事業も手がけていく予定です。
01 チタンアルミブレード加工~拡大~

森西:成長戦略の1つ目は、チタンアルミブレードの加工拡大です。
まず、スライド左側のグラフは商業航空機の受注残高機数を示したものです。こちらはデリバリーの基数を基に割り返した結果です。
Boeing社はストライキの影響もあり20年以上の受注残を抱えていますが、月産レートが40機、48機、50機と進んでいく場合、20年以上の受注残は約14年分に縮まる見込みです。
また、Airbus社は現在12年分の受注残を抱えている状況です。グローバルマーケットシェアの拡大についても変化が見られています。また、製造業としても非常に高い貢献利益率を達成しています。
01 チタンアルミブレード加工~収益性向上~

森西:今後も収益性の向上を目指し、さらに利益率にこだわりながらビジネスを進めていきます。収益力向上の要素として、生産自動化や内製化、製造DX、TPS(トヨタ生産方式)活動などが取り組みのテーマとなっています。
02 チタンアルミブレード新材料量産化

森西:成長戦略の2つ目は、チタンアルミブレード新材料量産化です。これは先ほどお伝えした材料の開発に関するものです。
チタンアルミブレードの材料は角柱の状態で支給されます。1本の角柱を分割し、2枚のブレードを作っていますが、当社は自社開発の材料を用いて1枚のブレードを作ることを目指しています。
1枚あたりの具体的な重さについては機密情報により詳しくお伝えすることはできませんが、現在使用している材料は1枚の完成重量に対して20倍以上の材料の重さが必要とされています。
しかし、当社の新しい材料ではその半分以下の重さで作成することが可能となります。これにより、材料価格の高騰率も意外と抑えられており、材料を手がけることこそ、最も強力な契約内容につながると考えています。
さらに、日本では非常に重要なチタンの原材料が生産されていることから、地政学的観点やタイミングを考慮しても国産化する意義は非常に大きいと考えています。
また、今はヨーロッパのメーカーは原材料を日本から輸入し、加工するために再び日本にあるAeroEdgeに戻し、最終的にまた海外へ出荷しています。環境に良いとは言えない取引状況になっていますので、このような状況も含めて、当社は改善と変革を進めていきたいと考えています。
川合:貢献利益率はもともと高いというお話でした。新材料を自社で生産するようになった場合、どのような貢献利益率になるのでしょうか? 成長戦略のグラフに示されていた2本の線が比較的イメージに近いものでしょうか?
森西:貢献利益率の具体的な数値は示しにくいのですが、自社で材料を供給することで売上と利益の拡大をしっかりと目指していけると考えています。
また、材料のインフレリスクについては、非常に少ない原材料の投下量で製造を行えるため、トータルとしては非常に価値のある成果が得られると見ています。
川合:リスクヘッジの観点では、使用量が少ないことが最も大きな点だと言えるのでしょうか?
森西:さらに加工時間も短縮されます。そのような観点から形も最適化していきますので、キャパシティも向上させることができます。キャパシティが向上することで、投資のスパンを長くすること、あるいは投資を抑えることも可能になるため、総合的に非常に価値があると考えています。
03 新規量産案件の拡大

森西:成長戦略の3つ目は、新規量産案件の拡大です。現在、スライドのようなかたちで事業を進めており、エンジンAとエンジンBの量産開始は2026年6月期を予定しています。
簡単に言うと、このビジネスにおいて今後非常に必要とされるエンジンや機体を手がけています。非常に魅力的なラインナップを揃えられていると考えています。
04 MRO市場への参入

森西:成長戦略の4つ目は、MRO事業への参入です。
従来の手法ではなく、アディティブ・マニュファクチャリングと呼ばれる3Dプリンターの新しい技術を活用することで、先ほど言及したチタンアルミの補修も可能になる可能性が出てきています。
この新技術を基にこれらのビジネスに参画し、OEMと開発を共有しながら認証に向けて取り組んでいます。
売上高推移

森西:最後に、財務ハイライトについてご説明します。
需要の拡大により、Airbus社の「A320neo」ファミリーとBoeing社の「737MAX」は10年を超える受注残となっています。しかしながら、サプライチェーンの問題や、Boeing社の品質問題により、2025年6月期の売上高は前期比8パーセント増の36億200万円となりました。
一方、足元ではBoeing社の品質問題も改善され、チタンアルミブレードの需要が大きく拡大していることや、2つの新規航空機エンジン案件が徐々に立ち上がることから、2026年6月期では前期比37パーセント増の49億3,000万円を見込んでいます。
チタンアルミブレードの需要拡大や新規案件の拡大を受けて、来期以降もさらなる売上拡大を目指していきます。
営業利益推移

森西:営業利益についてご説明します。新規案件の先行投資により固定費は増加傾向にありますが、売上の拡大に伴い、2026年6月期の営業利益は前期比24パーセント増の8億1,000万円を見込んでいます。
先行投資は続きますが、変動費が少なく、貢献利益率が高いため、売上の拡大により営業利益もしっかりと成長させていけると考えています。
以上でプレゼンテーションを終了します。ご清聴ありがとうございました。
質疑応答:3Dプリンター技術の今後の事業展開について
荒井沙織氏(以下、荒井):「3Dプリンター技術を活用した今後の事業展開について、既存の航空機エンジン部品以外にどのような市場や用途への展開を構想されていますか?」というご質問です。
森西:3Dプリンター技術に対し、当社にはドクターが2名在籍しています。さまざまな開発を日夜進めていますが、やはり別の航空機エンジンの部品や防衛産業、そしてメディカル分野が3Dプリンターの次の取り組みテーマだと考えています。
質疑応答:成長戦略における収益性と成長投資のバランスについて
荒井:「受注残が好調に推移している一方で、設備投資や人材確保といった先行投資も必要になると思います。中長期の成長戦略において、収益性と成長投資のバランスをどのように描いているのか教えてください」というご質問です。
森西:上場企業である以上、常に先行投資ばかりでは問題があると考えていますので、収益をしっかりと上げられる体質を目指しています。現在はチタンアルミブレードから収益を獲得していますが、その資金を新たな案件への投資に充てています。
今後はチタンアルミブレードに加え、新たな案件からも収益を獲得し、その資金をさらに新たな案件に投資していきたいと考えています。これにより中長期的に収益性と成長投資のバランスを確保することで、最終的には株主価値の向上につながると考えています。
質疑応答:新部品獲得ペースと成長見通しについて
荒井:「新部品などの需要は旺盛と理解していますが、今後の新部品獲得ペースはどの程度になるとお考えでしょうか? 需要が強い一方で、生産能力や人員規模の拡大ペースが追いつかない場合、成長が鈍化する懸念があるのでしょうか? そのような場合でも迅速な拡大や協業、買収などを含めた戦略で対応可能と見ていますか?」というご質問です。
森西:おっしゃるとおり、航空業界は急激な需要拡大の中にありますが、サプライチェーンが不足している状況です。ただ、当社は地政学的に安定した地域で実績を持つ企業であり、幸いにも多くの引き合いをいただいています。
一方で、現在は新規案件を3件同時に立ち上げているため、次の新しい案件に取り組むための社内リソースが不足しています。3件の新規案件を安定化させながら、社内リソースを次の案件に振り向けることで、新たな案件を獲得していく方針です。
また、将来的には協業や買収といった戦略も検討していきたいと考えています。
質疑応答:エンジンAとエンジンBの事業規模および量産時期について
川合:「今期に着手するものとしてエンジンAとエンジンBが挙げられていますが、これらの期待値や中長期的な事業規模について教えてください」というご質問です。
森西:具体的な金額の回答は難しい部分がありますが、事業規模のイメージとして考えると、エンジンAとエンジンBでは、エンジンBのほうがさらに大きく成長する可能性が高いと考えています。
川合:どちらも今期の早いタイミングで量産が始まるのでしょうか?
森西:量産については、現在認証を取得していくステップの中にありますが、特殊工程と呼ばれるものはおおむね取得が完了しています。今後は生産数を増やしながら徐々に量産数を上げていくフェーズに入っていきます。
質疑応答:MRO市場参入の見通しについて
川合:「認証基準が厳しいMRO市場について、現状の見通しをお聞かせください」というご質問です。
森西:航空業界はさまざまな部分で変革期を迎えており、それはMRO事業も同様です。次世代エンジンは、各系列でMRO事業にも対応していきます。「OEMの傘の下で」という表現がわかりやすいかもしれません。
したがって、単独で何のあてもなく、ましてや国内に限らず米国や欧州でMROを展開しようとすると、おっしゃるとおりハードルは高いです。
しかし、当社はメーカーやエアラインとタイアップしながら進めていきますので、ターゲットを絞り、その領域に参入できる可能性は十分あると考えています。
川合:実現した場合、既存の加工事業と比べても利益率は高いのでしょうか?
森西:利益率は高いです。
質疑応答:新部品獲得の基準について
川合:「新部品獲得の目安として重視されていることを教えてください」というご質問です。
森西:当社はこの事業において、強みのある戦略部品だけを確実に獲得してきました。また、チタンアルミブレードや、エンジンAおよびエンジンBの部品も同様です。技術的な付加価値と利益価値を重視しています。
また、量産に強みを持っていますので、エンジンに1個しか使われないような部品よりも、付加価値が高く、数多く必要とされるような部品をターゲットとしています。
質疑応答:次世代エンジン「RISE」への取り組みについて
川合:「次世代エンジンである『RISE』エンジンの部品獲得ついて、考えや取り組みについて教えてください」というご質問です。
森西:「LEAP」エンジンの後継である「RISE」エンジンについては、チタンアルミやセラミックスマトリックスコンポジット(CMC)といった先端材料がより多く使われます。こちらについてもSAFRAN社やGE社と定期的にコミュニケーションを取りながら開発を進めています。
質疑応答:チタンアルミブレードのコスト低下と採用の可能性について
川合:「自社材料の鋳造・量産開始により、SAFRAN社側にとってもコスト低下につながり、チタンアルミブレードが2枚になる可能性がより高まったのではないかと考えています。マイナーチェンジの際にはそのような成果の獲得について自信はありますか?」というご質問です。
森西:結論として、自信はあります。ニッケルブレードと比較すると、まだチタンアルミのほうがコストは高いため、そこはバランスの問題です。ただし、材料を自社で開発していくことになりますので、先ほどの課題であった耐熱温度をチューニングすることも可能です。そのような可能性を踏まえると、十分に望みがあると考えています。
森西氏からのご挨拶
森西:本日はご清聴いただき、誠にありがとうございました。AeroEdgeは創業10年を迎える、まだ若くこれからの会社ですが、それゆえに社員一人ひとりのモチベーションが非常に高く、次の世代交代においてもさまざまな観点から優位に作用していると考えています。
今後もみなさまのご期待にお応えできるよう、積極的に活動していきますので、どうぞよろしくお願いします。
当日に寄せられたその他の質問と回答
当日に寄せられた質問について、時間の関係で取り上げることができなかったものを、後日企業に回答いただきましたのでご紹介します。
<質問1>
質問:新部品の獲得に向けた受注環境は需要旺盛でしょうか?
回答:航空機産業は需要が拡大している一方で、新型コロナウイルスや地政学的な問題を起因としたサプライチェーン毀損により、部品サプライヤーの供給が追い付かない状況が続いています。そのような中、航空機エンジンメーカーとの直接取引の実績や、地政学的にも安定した日本企業として、引き合いを多くいただいています。
<質問2>
質問:交換部品の単価は新品販売時よりも高くなるのでしょうか?
回答:チタンアルミブレードは現時点においては、補修ができず、交換が必要な場合には、新しいチタンアルミブレードを供給することとなります。その際の単価は、新造エンジンに供給される単価と同じとなります。
<質問3>
質問:エアバスA320機の不具合による影響は、どのように見ていますか?
回答:A320機の不具合はソフトウェア改修もしくはコンピューター交換による対応が必要と報道されています。エアラインにおける運航には一時的に混乱が生じると考えていますが、航空機エンジンの新造品の生産には影響がないと考えています。
<質問4>
質問:海外同業他社で貴社が目指すビジネスモデルの会社はありますか? また事業の安定性から財務レバレッジを高めて効率的な事業運営を行う航空部品会社も多いと思いますが、貴社は今後どの程度のレバレッジ・自己資本比率を目安に運営していきますか?
回答:当社が目指す具体的な同業他社はありませんが、航空機エンジンビジネスにおいて、ニッチトップとしての地位を目指していきたいと考えています。当社は上場しており、株主価値の向上は重要と考えています。そのためには、成長のための投資と株主還元、また財務健全性のバランスを考慮しながら、適度なレバレッジが必要と考えています。経営環境により、目安も変わると考えていますが、引き続き、株主価値の最大化を目指していきます。
<質問5>
質問:MRO事業に向けて動かれていると思いますが、技術開発や準備の進捗について教えてください。また、利益率は部品製造よりも高くなると想定していますか?
回答:航空機エンジン部品のMRO参入に向けて、Additive Manufacturing(金属積層造形)を活用した補修技術の開発推進、また、航空機エンジンメーカーとのコミュニケーションを進めています。利益率はMRO事業の参入形態等にも左右されることから、現時点では回答が難しい項目ですが、収益の最大化を目指していきます。
<質問6>
質問:エンジンAとBはこれから必要とされる機体のエンジンというお話でしたが、これから伸びる分野の機体ということでしょうか?
回答:守秘義務の観点からエンジンA、Bともに分野を言及することは難しい状況ですが、エンジンA、Bの部品ともに、当社が供給実績を作っていけば、成長していくことは可能と考えています。
<質問7>
質問:チタンアルミブレードの鋳造に必要となる素材は、国内企業から入手されるという認識で合っていますか? また職人さんが同業他社やその他企業に引き抜かれてしまうリスクはありませんか?
回答:チタンアルミブレードの鋳造について、チタンスポンジ等の原材料は国内企業からの調達を予定しています。航空機は高い安全性が求められており、その部品は高度な品質の安定性が求められます。そのため量産化においては、生産方法の標準化が求められます。優秀な人財が働きやすい企業環境を構築するとともに、特定の人財に依存しない組織体制を目指していきます。
<質問8>
質問:交換部品の販売比率は高まっていくと思いますが、何割まで上昇すると思いますか?
回答:当社が供給するチタンアルミブレードについて、新造エンジン需要か交換需要かは顧客から明示されていないため具体的な割合は回答できませんが、「LEAP」エンジンが増加すればするほど、交換需要は高まっていくと考えています。
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