*13:07JST マイクロアド Research Memo(7):既存事業の成長と新領域へのデータ活用によってさらなる成長加速を目指す
■マイクロアド<9553>の中長期の成長戦略
中長期の成長戦略として同社は「アドテクノロジーの企業から、総合データカンパニーへ」というスローガンの下、データ活用を軸とした成長戦略を描いている。具体的には「データプロダクトの拡大」「新領域へのデータ活用」という2つの基本戦略により、業績の拡大と企業価値の向上を目指す構えだ。
(1) 「データプロダクトの拡大」
インターネット広告市場において「ブランド領域(自動車や飲料・食品など、実店舗での製品提供を行う企業が対象となるマーケティング領域)」に特化しながら、販売体制の強化と新製品のタイムリーな投入によって「UNIVERSE」の稼働アカウント数を増やす計画である。ブランド領域に特化する理由は、競合企業がいないためだ。また、既存マス広告4媒体(テレビ・新聞・雑誌・ラジオ)からのデジタルシフトによって、市場規模の拡大が見込めることも要因だ。成長する市場のなかで利益を確保していく。
販売体制の強化に関しては、2021年10月に営業組織を顧客の属性に特化した組織体制へと変更したほか、リモートワークを実施する顧客に対応するため、オンラインセミナーを通じて販売強化を推進している。2022年9月期は全40回のセミナーを実施し、販売問い合わせ件数は6,600件(受注金額は140百万円)へ拡大した。2023年9月期においてはオンラインで営業活動を行う専門の部署を新設し、販売体制をより時代に合った形へ変更したほか、「まちあげ」「UNIVERSE for 新NISA」「マーブル」「AITでまちあげ」などの新プロダクトの提供を開始した。2024年9月期は広島支社、仙台支社の2つの販売拠点を新設した。これは地方自治体や拠点周辺の企業のデジタルマーケティングニーズに対応するためであり、「UNIVERSE」の売上拡大を推進するうえで営業人材を地方拠点にも配置することが重要であるからだ。
加えて、付加価値の高い製品を継続的に市場に投入し、中長期的な成長を実現するため土台となる人材への投資を一段と厚くする。具体的には生成AI等を活用した独自の育成ノウハウによって質の高い人材プールを構築する方針だ。
(2) 新領域へのデータ活用
同社の事業は広告関連が中心であるが、保有している膨大なデータや分析技術を活用し、広告以外の領域へもデータビジネスの拡大を進めており、実績を順調に積み上げている。2022年8月には、機関投資家や金融機関が投資判断に活用できるオルタナティブデータの提供を開始し、2023年1月からオルタナティブデータを活用した自己資金での投資事業を開始した。さらに直近ではデジタルマーケティングのデータ分析手法を取り入れながら独自の投資戦略を構築し、2024年9月期実績は年利換算で1.01%となった。2024年9月期下期に発生した株式市場の急変を受けパフォーマンスが落ち込んだものの、2024年8月までには相場急変時の対応を目的とした大型アップデートを完了した。今後は安定収益を獲得することを目的にさらに運用モデルのブラッシュアップを進める方針だ。それ以外にも今後のさらなる成長に向けて、インバウンド関連の新規サービスや越境EC関連の新規サービス、「UNIVERSE」関連の新規サービスなど、市場投入を続けている。
なお、同社はこれまでポストCookieに向けた対応に注力し、3rd Party Cookieのサポートが停止された際のデジタルマーケティング市場において先行者優位を獲得することを成長戦略の1つとしてきた。GoogleがCookie廃止の撤回・延期を発表したことを受け、同戦略は一旦停止するものの、今後はCookie対策に投下していた開発リソースを「UNIVERSE」や「UNIVERSE」関連の新規サービスの開発に振り向けることにより業績の拡大と企業価値の向上を目指す方針だ。
「UNIVERSE」関連の新サービスはリテールメディア「URMS」、BtoB企業向け商談獲得ツール「ショウグン」、企業Webサイトの表示速度を高速化し商品の購買率などを改善する「Content Accelerator」の3つがある。「URMS」は、ECサイトへのリテールメディアのシステム提供だけでなく、広告の販売面も含めて一気通貫で事業立ち上げを支援するサービスである。提携するECサイトが増えることで売上貢献が期待できる。「ショウグン」は、「UNIVERSE」が蓄積しているBtoB企業向けのデータを活用し、新たな顧客を開拓するサービスである。これまで同社は「UNIVERSE」の営業を通じて接点のあるBtoB企業が多くあるため、営業リソースも活用しながら販売活動を進めている。「ショウグン」は「URMS」や従来の「UNIVERSE」とは異なり、SaaS型のサービスである。「Content Accelerator」はWebサイトの表示速度改善ツールで、ユーザーの利便性を向上させることで商品の購買率改善などが期待できる。UNCOVER TRUTHが提供するサイト内行動分析ツール「Content Analytics」や既存顧客の行動分析を行うCDP※1「Eark」と連携することで、顧客のLTV※2最大化をワンストップでサポートできる。「UNIVERSE」を利用している顧客へセットで提供することで広告効果の向上が期待できる。新規顧客には、「Content Accelerator」の導入を通じて「UNIVERSE」などの同社商品のクロスセルにつなげる。
※1 Customer Data Platformの略。複数のデータソースから顧客データを収集・統合管理し、それらのデータ分析によって個々の顧客に適したマーケティングやカスタマーエクスペリエンスを提供するプラットフォーム。
※2 「顧客生涯価値」を意味するLife Time Valueの略。顧客が自社の商品・サービスを初めて利用してから長期的な関係のなかで得られる利益を表す指標。
■株主還元策
株主還元の実行を目的に資本準備金の取り崩しを実施する方針
同社は株主に対する利益還元を重要な経営課題の1つとして認識している一方、現在は成長途中の段階であることやこれまで繰越利益剰余金が欠損していたことから、配当や自社株買いなどの株主還元施策を実施していない。また、内部留保を優秀な人材の確保と育成、同社サービスの収益力強化、研究開発などに充当し、より一層事業を拡大することによって将来的に安定的かつ継続的な利益還元を実施できる土台を整えている。今後の剰余金の配当に関しては、同社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローを勘案したうえで実施する計画であるが、現時点で配当の実施は未定となっている。ただ、足元では株主還元の拡充に向けて着々と準備を進めており、2024年11月には資本準備金を取り崩し、その他資本剰余金に振り替えたうえで、繰越利益剰余金の欠損を補填する方針であることを発表した。現在生じている繰越利益剰余金の欠損を解消することにより、財務体質の健全化を図るとともに、配当や自己株式取得などの株主還元の早期実現に向け、今後の資本政策の機動性及び柔軟性を確保し、中長期的な企業価値向上の実現に向け株主利益の最大化を図ることが目的だ。今後は自己株式の取得による株主への利益還元に加えて、業績拡大によって利益が積み上がるなかで配当が開始される可能性もあると弊社は見ている。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 清水陽一郎)
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中長期の成長戦略として同社は「アドテクノロジーの企業から、総合データカンパニーへ」というスローガンの下、データ活用を軸とした成長戦略を描いている。具体的には「データプロダクトの拡大」「新領域へのデータ活用」という2つの基本戦略により、業績の拡大と企業価値の向上を目指す構えだ。
(1) 「データプロダクトの拡大」
インターネット広告市場において「ブランド領域(自動車や飲料・食品など、実店舗での製品提供を行う企業が対象となるマーケティング領域)」に特化しながら、販売体制の強化と新製品のタイムリーな投入によって「UNIVERSE」の稼働アカウント数を増やす計画である。ブランド領域に特化する理由は、競合企業がいないためだ。また、既存マス広告4媒体(テレビ・新聞・雑誌・ラジオ)からのデジタルシフトによって、市場規模の拡大が見込めることも要因だ。成長する市場のなかで利益を確保していく。
販売体制の強化に関しては、2021年10月に営業組織を顧客の属性に特化した組織体制へと変更したほか、リモートワークを実施する顧客に対応するため、オンラインセミナーを通じて販売強化を推進している。2022年9月期は全40回のセミナーを実施し、販売問い合わせ件数は6,600件(受注金額は140百万円)へ拡大した。2023年9月期においてはオンラインで営業活動を行う専門の部署を新設し、販売体制をより時代に合った形へ変更したほか、「まちあげ」「UNIVERSE for 新NISA」「マーブル」「AITでまちあげ」などの新プロダクトの提供を開始した。2024年9月期は広島支社、仙台支社の2つの販売拠点を新設した。これは地方自治体や拠点周辺の企業のデジタルマーケティングニーズに対応するためであり、「UNIVERSE」の売上拡大を推進するうえで営業人材を地方拠点にも配置することが重要であるからだ。
加えて、付加価値の高い製品を継続的に市場に投入し、中長期的な成長を実現するため土台となる人材への投資を一段と厚くする。具体的には生成AI等を活用した独自の育成ノウハウによって質の高い人材プールを構築する方針だ。
(2) 新領域へのデータ活用
同社の事業は広告関連が中心であるが、保有している膨大なデータや分析技術を活用し、広告以外の領域へもデータビジネスの拡大を進めており、実績を順調に積み上げている。2022年8月には、機関投資家や金融機関が投資判断に活用できるオルタナティブデータの提供を開始し、2023年1月からオルタナティブデータを活用した自己資金での投資事業を開始した。さらに直近ではデジタルマーケティングのデータ分析手法を取り入れながら独自の投資戦略を構築し、2024年9月期実績は年利換算で1.01%となった。2024年9月期下期に発生した株式市場の急変を受けパフォーマンスが落ち込んだものの、2024年8月までには相場急変時の対応を目的とした大型アップデートを完了した。今後は安定収益を獲得することを目的にさらに運用モデルのブラッシュアップを進める方針だ。それ以外にも今後のさらなる成長に向けて、インバウンド関連の新規サービスや越境EC関連の新規サービス、「UNIVERSE」関連の新規サービスなど、市場投入を続けている。
なお、同社はこれまでポストCookieに向けた対応に注力し、3rd Party Cookieのサポートが停止された際のデジタルマーケティング市場において先行者優位を獲得することを成長戦略の1つとしてきた。GoogleがCookie廃止の撤回・延期を発表したことを受け、同戦略は一旦停止するものの、今後はCookie対策に投下していた開発リソースを「UNIVERSE」や「UNIVERSE」関連の新規サービスの開発に振り向けることにより業績の拡大と企業価値の向上を目指す方針だ。
「UNIVERSE」関連の新サービスはリテールメディア「URMS」、BtoB企業向け商談獲得ツール「ショウグン」、企業Webサイトの表示速度を高速化し商品の購買率などを改善する「Content Accelerator」の3つがある。「URMS」は、ECサイトへのリテールメディアのシステム提供だけでなく、広告の販売面も含めて一気通貫で事業立ち上げを支援するサービスである。提携するECサイトが増えることで売上貢献が期待できる。「ショウグン」は、「UNIVERSE」が蓄積しているBtoB企業向けのデータを活用し、新たな顧客を開拓するサービスである。これまで同社は「UNIVERSE」の営業を通じて接点のあるBtoB企業が多くあるため、営業リソースも活用しながら販売活動を進めている。「ショウグン」は「URMS」や従来の「UNIVERSE」とは異なり、SaaS型のサービスである。「Content Accelerator」はWebサイトの表示速度改善ツールで、ユーザーの利便性を向上させることで商品の購買率改善などが期待できる。UNCOVER TRUTHが提供するサイト内行動分析ツール「Content Analytics」や既存顧客の行動分析を行うCDP※1「Eark」と連携することで、顧客のLTV※2最大化をワンストップでサポートできる。「UNIVERSE」を利用している顧客へセットで提供することで広告効果の向上が期待できる。新規顧客には、「Content Accelerator」の導入を通じて「UNIVERSE」などの同社商品のクロスセルにつなげる。
※1 Customer Data Platformの略。複数のデータソースから顧客データを収集・統合管理し、それらのデータ分析によって個々の顧客に適したマーケティングやカスタマーエクスペリエンスを提供するプラットフォーム。
※2 「顧客生涯価値」を意味するLife Time Valueの略。顧客が自社の商品・サービスを初めて利用してから長期的な関係のなかで得られる利益を表す指標。
■株主還元策
株主還元の実行を目的に資本準備金の取り崩しを実施する方針
同社は株主に対する利益還元を重要な経営課題の1つとして認識している一方、現在は成長途中の段階であることやこれまで繰越利益剰余金が欠損していたことから、配当や自社株買いなどの株主還元施策を実施していない。また、内部留保を優秀な人材の確保と育成、同社サービスの収益力強化、研究開発などに充当し、より一層事業を拡大することによって将来的に安定的かつ継続的な利益還元を実施できる土台を整えている。今後の剰余金の配当に関しては、同社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローを勘案したうえで実施する計画であるが、現時点で配当の実施は未定となっている。ただ、足元では株主還元の拡充に向けて着々と準備を進めており、2024年11月には資本準備金を取り崩し、その他資本剰余金に振り替えたうえで、繰越利益剰余金の欠損を補填する方針であることを発表した。現在生じている繰越利益剰余金の欠損を解消することにより、財務体質の健全化を図るとともに、配当や自己株式取得などの株主還元の早期実現に向け、今後の資本政策の機動性及び柔軟性を確保し、中長期的な企業価値向上の実現に向け株主利益の最大化を図ることが目的だ。今後は自己株式の取得による株主への利益還元に加えて、業績拡大によって利益が積み上がるなかで配当が開始される可能性もあると弊社は見ている。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 清水陽一郎)
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