年金も企業価値に影響

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最新投稿日時:2023/09/25 11:39 - 「年金も企業価値に影響」(みんかぶ株式コラム)

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年金も企業価値に影響

著者:鈴木 行生
投稿:2023/09/25 11:39

・金商法(金融商品取引法)の改正が6月の国会で成立せず、今秋国会へ持ち越しとなった。議案の優先順位で十分な審議時間がとれなかったことによる。改正案の中身は、1)顧客本位の業務運営の確保、2)金融リテラシーの向上、3)企業開示の見直しなどにあった。

・資産所得倍増プランを進めるには、企業の持続的成長を全国民に還元する必要がある。その根幹が「顧客本位の業務運営」にある。つまり、顧客に最善の利益をもたらすように、企業も、資産運用会社も、アセットオーナーも、金融販売会社も、金融商品評価機関も、行動すべし、という考えを法的に明文化する。

・当たり前のことのように思えるが、これまでの長い期間をみて、顧客の利益よりも、自己の利益を優先して、ルールを逸脱するような事案が継続的に起きている。そこで、法律の条文に明示化して、その運用を徹底させようとしている。

・ルールベースかプリンシプルベースかという点でみると、ソフトローとしての原則ベースでは十分でなく、ルール(法律)に書き込むことが必須であると判断した。これを基として、ベストプラクティスを普及させようという狙いである。ルールに反すれば、罰則も厳しくなろう。

・例えば、仕組み債では、手数料優先の販売が何度も問題を起こしている。金融リテラシーの高い人、低い人など、いろいろな投資家がいる。顧客によって対応が変わるはずである。ハイリスクで複雑な商品でも、それを好む人はいる。

・一方で、投資になじめない人も多い。その中で、投資者のすそ野を広げようとしている。よって、それを支えるルールをよりしっかり定めようとしている。

・適用範囲には、年金分野も入ってくる。年金の運用会社はもちろん、アセットオーナーや加入者も明示的に入ってくる。つまり、年金の加入者にとって最善の利益を提供するように、それぞれがベストを尽くす。運用機関には、忠実義務や受託者責任(Fiduciary Duty)がもともと課されているが、必ずしも十分でないと認識された。

・今回の法案には、「顧客等の最善の利益」を図るべし、と顧客等の「等」が入っている。これは、いつもの法文用語というより、年金基金への加入者も含めていることによる。

・企業年金であれば、アセットオーナーは企業に属する。加入するのは社員である。よって、社員の年金の運用に当たって、ベストの金融商品を提供して、その中から選んでもらうようにすることが、企業(アセットオーナー)に求められる。

・誠実であれ、公正であれ、そして、法律でルール化されると罰せられるようになる。これに対して、企業も金融機関も受け身ではなく、体制整備をして、その内容を十分開示し、説明せよ、と中島前金融庁長官は強調した。

・働く人々の老後のために年金はある。企業が確定拠出型年金(DC)制度を採用している場合、従業員本位で最善の利益機会を提供するとなれば、社員が選べる金融商品に、ベストなポートフォリオが組めるような商品が揃っている必要がある。

・その責任は最終的に社長にある。つまり、企業も、年金のしくみと運用商品に目を凝らす必要がある。DCの品質が改めて問われよう。

・運用商品の選定は妥当なのか。利益相反はないのか。なんらかの忖度が働いていないか。フィーは安ければいいのか。これらについて、クオリティという観点から再点検が求められよう。パフォーマンスは当然であるが、それを支える仕組みを分析するアナリストの役割も重要である。

・名古屋商科大学の岩澤教授は、興味深い論点を指摘する。何がベストプラクティスなのか。確定給付年金(DB)は、年金の運用成果を企業が保証するのであるから、年金運用が企業価値にプラスにもマイナスにも影響する。将来の負担となる公算もある。

・DCは、社員が自ら運用に責任をもつのであるが、その社員がやる気を出して、大いに働いてくれるかどうか。年金の仕組みが人的資本の支えの1つとなる。とすれば、人的資本を通して、企業価値に影響してこよう。

・人的資本とみる人材にとって、働く仕組みの中にある①アトラクション(魅力)、③リテンション(保持)、③エンゲージメント(対話)は極めて重要である。優秀な人材を集めて、その能力を高め、長く貢献してもらえれば、生産性は向上し、企業価値も一段と高まろう。

・それに貢献する年金を充実させることに、もっと力を入れるべし、と岩澤教授は強調する。米国では、リタイアメントプログラムが、従業員のアトラクションやリテンションに寄与しているという実証データがある。

・日本の企業は、社員を本当に大事にしているか。大事にする仕方の変革が求められている。人的資本を1)健康、2)働き甲斐、3)経済的報酬という観点からみる時、各々のウェルネス(幸福)を高めたい。

・自らの資産運用、年金としての資産運用において、その成果が実感できるようになりたい。年金の仕組みが働く人々に役立っているか。そういう視点も含めて、企業の人的資本に注目したい。

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配信元: みんかぶ株式コラム

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