―政府が強力後押し、大阪・関西万博も追い風にリベンジ戦線異状なし―
「MICE(マイス)」関連株に注目したい。世界が日常を取り戻すなか、日本も遅ればせながら大きくリオープン(経済再開)に舵を切ったことで、インバウンド関連株に投資家の熱い視線が向かった。こうしたなか先月30日、岸田文雄首相は国際会議の開催を大幅に増やすという目標を掲げ、インバウンド需要の一層の拡大を目指す方針を明らかにしており、MICE関連株にとって大きな支援材料になりそうだ。MICEとは、国際会議や国際見本市などのイベントの総称で、ウィズコロナの環境下で海外からの大きな集客が期待されている。MICE関連株のいまを点検した。
●ビッグなMICE市場
「MICE」とは、日本政府観光局によれば、企業などの会議(Meeting)、企業などの報奨・研修旅行(Incentive Travel)、国際機関・団体、学会などが行う国際会議(Convention)、展示会・見本市、イベント(Exhibition/Event)の頭文字を使った造語とされる。最近では徐々に認知度もアップしているが、残念ながら一般的にはいまひとつというのが正直なところだろうか。
とはいえ、日本国内で開催された国際MICE全体による経済効果は想像以上に大きい。2021年の観光庁の発表によると、新型コロナウイルス感染拡大前の19年の国際MICE全体の総消費額は約9228億円だった。更に経済波及効果を考えると国が本腰を入れるのも理解できる巨大な規模だ。内訳としては、「国際会議」が約3573億円、「展示会・見本市」は約1619億円で、「企業会議」約3786億円、「報奨・研修旅行」約249億円となっている。
●国際会議数を世界5位内に
ただ、こうしたMICEによる巨額の経済効果も、長く続いた新型コロナのパンデミック(世界的大流行)のなか、いったんは水泡に帰した。しかし、厳しい入国規制を続けたことで“鎖国”とまで各国に揶揄(やゆ)された日本も、昨年には入国規制を大幅に緩和しついに開国。世界的な人的交流も急速に進むなか、国際会議や国際見本市、展示会なども相次いで再開されており、MICE需要の本格的な復活に期待がかかる。
政府もMICEを積極的に後押しする構えにある。5月30日に開催された政府の観光立国推進閣僚会議では、岸田首相が「日本を舞台とした国際交流を回復、そして拡大させることを目指す」とし「国際会議の開催件数を30年までに世界5位以内とすること、また、国際展示会・見本市の外国人参加者数を25年までにコロナ前より2割増加させる」と発言し注目を集めた。株式市場でもこの発言に敏感に反応し、これが伝わった同日には、国際会議などの増加で恩恵を享受する一部関連株を物色する動きが出るなど投資家の関心の高さも垣間見えた。
MICEには、更に追い風が吹いている。それは、25年の 大阪・関西万博と、30年に開業を目指すと伝わる「大阪IR(統合型リゾート)」。今年3月には、大阪府及び大阪市が共通の戦略として、「大阪MICE誘致戦略」を策定。万博やIRの立地を生かし積極的な誘致活動を行うことで、アジア・大洋州地域でトップクラスのMICE都市を実現するための施策展開を進めるという。特に、大阪IRでは関心の高いカジノだけではなく、MICE事業も展開するだけに期待感は大きい。
●通訳・翻訳で宝&CO、メタリアル
MICE関連と一言でいっても、その裾野は広い。そのなか前述の岸田首相の発言にあるように「国際会議を世界5位以内」「国際展示会・見本市はコロナ前の2割増加」を目指すなかで、やはり重要な役割を担うのが通訳・翻訳事業だ。通訳者に加え、最近では人工知能(AI)を駆使し専門分野での活躍が必至だ。
ディスクロージャー大手のTAKARA & COMPANY <7921> [東証P]は、通訳・翻訳事業でも活躍領域を広げている。同事業で、特に通訳業務は大規模な国際会議やイベントの開催が増加しており、これに伴い大幅に回復しているという。また、対面とオンラインの組み合わせによるハイブリッド型会議などの受注件数が増加しており、これも業績に貢献している。23年5月期の通期業績は、営業利益段階で前の期比1.1%増の36億円と微増を計画。3月31日に発表した第3四半期累計(22年6月~23年2月)決算では、営業利益が前年同期比5.4%増の25億3600万円で着地したが、四半期ベースで直近12~2月期が2.1倍増益と足もと好調だ。株価は、5月9日に2482円まで買われ年初来高値を更新した後は調整局面入り。現在は2200円近辺で頑強展開となっているが、ここからの動向に注目が集まる。
メタリアル <6182> [東証G]はAI活用の機械翻訳ソフトを提供するが、MICE分野でも頭角を現している。子会社であるロゼッタのリアルタイム音声翻訳&字幕表示システム「オンヤク」が、昨年12月に開催された「MICE EXPO in Kansai 2022」公式プログラムに採用され、セミナープログラムの日英同時配信を可能にした。今年4月には、オフィス家具・設備の国際見本市「オルガテック東京」のセミナーにも採用されているだけに、今後の活躍期待が膨らむ。また、同社はここ「生成AI」関連株の一角としてもスポットライトが当たっているが、直近では今月7日に同子会社の自動翻訳「T-4OO」が、先端のLLM(大規模言語モデル)をベースとした全く新たな生成AI翻訳エンジンを追加実装することを発表している。株価は5月初旬から上昇一途で、今月6日には1795円まで買われ年初来高値を更新。その後は一服商状もきょうは急速に切り返している。
●ヒビノも活躍場面の創出へ
映像・音響設備提供サービスが主力のヒビノ <2469> [東証S]もMICE推進の追い風が吹くなか恩恵を受けそうだ。グループのヒビノメディアテクニカルは、MICE領域で映像、音響、ITを駆使し企業・法人のイベントやコンベンションを支えてきており、大規模イベントの再開は活躍場面の創出につながるだけに業績にも貢献しそう。もちろん、本業のコンサート市場は、海外アーティストの来日公演や大型ツアー、音楽フェスが再開されるなど活況を取り戻しており、まさに出番到来。株価もこうした復活人気に乗り上げ足を強めている。5月初旬には1400円近辺だった株価が、前週末には1830円まで買われ年初来高値を更新した。ただ、コロナ禍前の19年につけた2907円と比較すれば、いまだ発展途上ともいえる。24年3月期の営業利益は、前期比42.3%増の17億5000万円を計画しておりコロナ禍からの回復基調を鮮明にしている。
●TKP、リゾートトラにも商機
国際会議の拡大は、当然のことながら会議室の運営事業者にも好影響となる。こうしたなか、貸会議室大手のティーケーピー <3479> [東証G]は、今月8日に再開発が進む東京駅八重洲口に近い「TKP 東京駅カンファレンスセンター」を大幅増床しリニューアルオープンした。東京駅付近は、同社が出店戦略として最も注力しているエリアで、現在9拠点を運営。アフターコロナにおける対面イベントの本格再開に向け、需要が高い東京駅付近のドミナント戦略を積極的に推進していく構えだ。24年2月期の営業利益は前期比51.0%増の54億円を見込む。また新中期経営計画も公表し、26年2月期に営業利益94億円とする目標を掲げている。株価は、1月下旬に高値をつけた後は上下に荒い値動きを繰り返しながら水準を切り下げる展開が続くが、需要拡大を背景に活躍期待も。
リゾートトラスト <4681> [東証P]にも妙味がありそうだ。同社が運営する「エクシブ白浜&アネックス」では、会議やセミナーなど各種ビジネスイベントに最適な宿泊プラン「MICEプラン」を提供。同社は、会員制リゾートホテルへの宿泊需要がコロナ禍前を超えるなか業績が急回復しているが、さまざまな施策で攻勢を強めている。また、国内最大級の複合MICE施設「パシフィコ横浜」に近接する「ザ・カハラ・ホテル&リゾート 横浜」も運営。同ホテルは、政府要人をはじめとする国際会議参加者の宿泊にも対応できる国際水準の宿泊施設なだけに、MICE需要拡大の恩恵を享受することになりそうだ。株価は、今月1日に2028円まで売られ年初来安値を更新したが、ここを底値にジワリ切り返す展開。
●イベント復活で乃村工芸社など活躍の舞台
国際会議や国際見本市の復活は、展示ブースなどを手掛ける企業にも活躍の場を提供する。いわゆる「イベント関連株」の一角も、リオープンでの高業績変化株として投資家の関心が高く、25年の大阪・関西万博を控えテーマ性も内包しているだけに継続して注目が必要だ。
イベント関連のトップランナーといえる乃村工藝社 <9716> [東証P]は受注環境も改善するなか、24年2月期の営業利益で前期比31.7%増の41億円を見込む。同社は、1970年の大阪万博ではテーマ館や政府館のほか主要パビリオンを受注したのをはじめ、数多くの博覧会に携わってきており、今回の大阪・関西万博でも活躍への思惑が高まっている。足もと万博に向けた動きが加速しそうだが、それ以降の成長投資も織り込んでおり中長期視野でも妙味がある。株価は5月22日に985円まで買われ年初来高値を更新したあと900円近辺まで下押すも、ここにきて再浮上機運が高まる。今後は4ケタ大台回復からの一段高期待も。そのほかイベント関連では、13日に決算発表の丹青社 <9743> [東証P]、小粒でもぴりりと辛い博展 <2173> [東証G]にも注目したい。
株探ニュース
関連銘柄
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